出会いはいつも突然で
夏のある夜。
肝試しをする訳でも、花火を見るという訳でもないが、田舎の村に来た高校1年の男女4人が懐中電灯を手に山奥へと入って行く。
ツンツン頭でスポーツマンの江上 武、学校で生徒会副会長を務めるメガネの神崎 晴斗に加え、素顔が派手な益井 千鶴と、黒髪美人の中島 あずさ(なかじま あずさ)。
それが彼らの名前だ。
武はスポーツ全般が得意で、その明るい性格から男女共に好かれている。
容姿は至って普通だが、普段の陽気さから打って変わって、体育の授業などで魅せる勝負の瞬間の表情がカッコいいと、ファンも多い。
若干色が抜けて茶色い瞳と髪も、少し焼けた彼の肌によく馴染んでいるように見える。
晴斗はこの4人のまとめ役で、成績も優秀。
学校の女子にの「メガネよりコンタクトの方が良い!」という熱意に負けて、学校ではコンタクト、普段はメガネという風に使い分けているらしい。
ストレートの黒髪と切れ長の目から、何となく彼がマジメで大人しいように思われがちだが、意外にそういう訳でもなく、同性からの信頼は厚い。
あずさは長い黒髪とぱっつん前髪が似合う、垂れ目の少女。女性と言うよりは少女、である。雰囲気的に。
黒い瞳は大きくて、男子からの評判は良い。いや、すごく良い。
一方千鶴は清楚なあずさと違って派手で、可愛いと言うよりはキレイなイメージだ。
と言ってもその茶色い髪は決して染めた訳ではなく地毛で、中学まで水泳をやっていたせいか色素が抜けてしまっているから茶色なのだそうだ。
オシャレで、明るい性格からクラスの女子に人気。
特に誰が誰と付き合っている訳でもないが、この4人はこう見えて幼馴染なのだ。
そしてこんな田舎にいるのは、「夏休みは田舎でレジャーを満喫したい!」という武と晴斗の意見で、亡くなった千鶴の祖母の家に来ているからなのである。
祖母の家はそれなりに荒れていたので、一から掃除を始めなければならなかったが……。
幸い千鶴の母親が電気、水道共に料金を支払っていたようで、使用できた。
「ねぇ、本当にどこ向かってるの? 大分奥まで来たんじゃない?」
「そうだよ。帰り道ちゃんと覚えてる?」
日も暮れた夜8時頃、武に行き先も何も聞かされず外に連れ出されたため、千鶴もあずさも不安になる。
連れ出されたのは晴斗も同じだったが、流石は男子である、あまりビビってはいないようだ。
「道は大体覚えてるって! それより、ここら辺でちょっと変わったモン見つけたんだ!」
「だからコイツらは、それが何かを聞いてるんだろ……。それに、どうせ大したことないないに決まってる、お前の事だし」
「んだと! お前、それ見つけたら覚えてやがれ!絶対ビックリするぞ!」
そう言い、ムキになったのか若干彼の足取りが速くなる。
千鶴が溜息を吐き、あずさが心配そうに来た道を振り返る。
すると、
「あ! あれだ!!」
急に足を止めたかと思うと、武はすぐにダッシュでその方へと走る。
ただでさえ運動神経の良い彼だ。
ダッシュなんてされたら追いつけない!
そう思ったが、武が止まったのは案外すぐ近くで、
あまり運動が得意ではない千鶴もじきに追いついた。
置いていかれてしまったあずさが「ちょっと!」と言いながら千鶴の隣に来ると、思わず声を上げた。
「うわぁ……大きな木……」
そこにはとてつもなく太く、高い、一本の木が、堂々たる姿で立っていたのだ。
「な!? スゲェだろ! それともう1個……お、これこれ!」
武が少し辺りを探すと、そこに小さな石碑の様なものがあるのを見つける。
何か文字が書いてあるのは分かるが……。
「古くて読みにくいね。コケ生えてるし、すり減ってるし」
「う〜ん……。『ここ……果て……む……。永……しの国』。しか分かんない」
随分古くからのものなのか、削れていたり、汚れていたりして書かれてあることが全く分からない。
五行程度ある文のうち、左側の最後の文がほんの少し分かる程度だ。
すると、
♩〜♫〜
「ん? 何か聴こえない? 音楽、歌、みたいな」
千鶴が木々のざわつきの中に、何か音楽、いや、歌声が聴こえてきた気がした。
だがあずさも武も口を揃えて「気のせいだろ」と言うので、単なる勘違いだとそれ以上何も言うことはなかった。
「まぁ、確かにデカイ木と古い石碑は俺らにとって珍しいけど、正直そんな大したモンじゃないだろ」
「はぁ」と呆れた顔で晴斗が言ったが、武は「そうか?」と前置きし、不思議そうに言った。
「この山ってさ、周りからみたらそんなに高くなかったよな? そんで、俺らもここに来るまで結構ゆる〜い傾斜登って来たはずだろ? だったらここら辺が頂上じゃねぇのか?」
「あぁ、そうだな」
「それが引っかかるんだよな、俺」
「?」
他の3人が武の言い分に首を傾げるも、彼は至って不思議そうに言うのだった。
「何で下から見た時に、こんなデカイ樹があるって気付かなかったんだ?」
「……!!」
言われてみれば確かにそうだ。
この樹だけでも十分に山の高さを越える。
それぐらい大きな樹だ。
にも拘らず、山に入る時は全く、この樹の存在に気が付かなかったのだ。
サァァアァ…
その矛盾に気付いた瞬間、4人を生ぬるい風が包む。
鳥肌が立ってくる。
「ね、ねぇ早く帰ろうよ!」
「そ、そうだ! この森を早く出よう! 武、道分かるんだろ?」
「あ、あぁ……」
あずさの言葉に晴斗が反応し、武に呼びかける。
そして、武が辺りを見渡すと、
「……!!?」
暗い夜の森でも分かるほど、青白い顔をして言う。
「消えた……道が、道が失くなった……!!」
「はぁ!? ちょっとふざけないで!!」
そう言って千鶴も辺りを見渡したが、自分たちが来た道は明らかに見失われ、周辺には見たことのない様な木々が生い茂っているはがりだった。
「いや! 怖いって!! 何の冗談!? 早く帰ろうよ!」
あずさが叫んだその時!
ガサッ!ガサガサ……!
グルルル……!
草むらで何かが動く音と、獣の呻き声が同時に聞こえる。
それに思わず4人とも悪寒が走る。
「何? オオカミとか!?」
「と、とりあえず逃げよう! あずさ、立て!」
「逃げるってどこに!? 出口も何も消えてるんでしょ!?」
「でもここにいるだけだとヤベェ!!」
そう言って武が先頭を切って走り出すと、残りの3人も連られて走る。
ただ、本当に草むらを走っているので足元がしっかりとせず、何度も躓いたり転びそうになったりした。
後ろから、先程の獣らしき声と、それらが走って追いかけてくる音が聞こえる。
「くそ! なんで追いかけてくるんだよ!」
武がそう叫ぶようにしていうと、
「このままだとみんな追いつかれる! 分かれて逃げよう!!」
「そんなことしたら、誰かが犠牲になるよ!」
「ならどうしろって!!」
「だから私はこんな田舎来たくないって、言ったのよ! ここで死んだら、アンタたちのせいだからね!!」
あずさが半泣きで言うと、「悪かったな!」と武と晴斗が同時に叫ぶ。
だが正直それどころではない。
本格的にその獣が追いついて来た。
暗い中でも二つの鋭い目が光っているのがよくわかる。
その目は的確に自分たちを狙っているのだ。
そしてその目は、二つだったのをどんどんと数を増やしていく。
どうすれば逃げ切れる?
いや、もうどうしても逃げ切れない。
誰かが犠牲になる他ない。
無論、犠牲になるのは1人だけではなく、全員かも知れないが。
「くそっ!」
4人が絶望した、その時だった。