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覗き餌  作者: 空束 縋
3/3




 午前一時。佑治は、青褪めた玲胡を連れて帰宅した。

 本来は撮影が終わった後、駅で別れて玲胡は隣のA市へ、佑治はS駅近くの自宅へ帰るはずだった。だが、あんな事があって玲胡を一人になど出来るわけもない。

「ごめん、ちょっと汚いけど」

 玲胡は力なく首を振り、佑治の後から部屋へ上がる。

 コンビニで買ったものをテーブルに置き、玲胡をベッドへ座らせると、佑治は座椅子に腰掛けた。

「何があったか、詳しく話せる?」

「………うん」

 小さく頷き、玲胡はコンビニ前で男を見つけたところから話しはじめた。

 男を追って路地へ入り、すぐ見つかってしまったので誤魔化そうとした。だが、意外にも男は親切であった。話す内に気付くと絡繰りを覗いていた。絡繰りの中の屋敷には白い着物の女が居て、人間の腕らしきものを食べていた。声を掛けると、絵であったはずの女が振り向き、こちらへ襲い掛かってきた。逃げようとしたが、自分も絡繰りの中に入り込んでいて、逃げられなかった。そして、足を掴まれたところで佑治に呼び戻された。

 言葉にしてみると、何とも現実離れしていて信じられるような話ではない。しかし実際に玲胡の右足首には掴まれた痕がある。

「佑治くんが来てくれなかったら、きっと私も食べられてた。大丈夫かな…追ってきたり、するのかな…」

「追って来るかはわからない。だけど、きっと俺が追い払うから。とりあえず今日みんなに相談してどうするか考えよう。風呂行っといで」

 佑治の冷静な言葉に救われる。ただ怖がっても仕方ない、きっと佑治が助けてくれる。そう思えば、大丈夫な気がした。

 立ち上がり、玲胡は浴室へ向かう。地面に座り込んだ汚れと、冷や汗を流したい。


 玲胡が浴室へ入ると、佑治は頭を抱えた。

 まさか、本当に現れるとは思っていなかった。しかも玲胡が標的にされるとは。

 守る。そう誓ったが、どうやって?自分は霊など見たことがない。他のメンバーもそうだ。玲胡の話を信じてくれるだろうか。

「…玲ちゃんが居なくなるのは、嫌だ」

 ぽつりと呟く。色々と考えているが、それが一番強い思いだ。玲胡を失いたくない。ならば、守るしかない。誰に信じてもらえなくても。自分に強い力が無くても。出来る事を全力で。

「俺が弱気になったらダメだ。守るんだ。俺が、守る」

 自分に強く言い聞かせ、佑治は常温になったサイダーを喉に流し込んだ。


 玲胡は熱いシャワーを浴びて心を落ち着かせていた。

 これからやりたいことは、まだまだたくさんある。こんなに早く死ぬなんて嫌だ。きっと駅前に近付かなければ、あの屋敷へ連れ込まれることもないだろう。あんな大きな絡繰りが、すぐに移動出来るとも思えない。

 シャワーの湯を止めて、正面の鏡を見る。

 男と目が合った。

 振り払うように、背後、鏡の中の男の位置を確認するが、誰も居ない。気のせいだったようだ。呼吸を整えながら、視線を鏡へ戻す。

 男と目が合った。

 気のせいではない。帽子の影で表情は見えないが、闇を閉じ込めた不気味な眼がぎらぎらとこちらを見ている。

 玲胡の体は、恐怖で動かない。

「…初めてなんですよ」

 不意に男が呟いた。相変わらずぎらぎらした眼で玲胡を見たまま、声だけは穏やかで、それがまた恐ろしかった。

「あの中から脱け出した人間は初めてなんです。彼女は貴女にひどく執着を持ったようで、今すぐ来て頂きたいと」

 男の異様に冷たい手が玲胡の肩を掴んだ。実際には見えないが、感覚はある。振りほどこうにも実体が無く、助けを呼ぶにも恐怖で声が出ない。

 硬直する体を、男は凄い力で鏡へと押した。

「いっ…いやっ」

 抵抗しようと、鏡に手を付く。そのはずが、鏡に触れた左手はするりとその先へ進んでいく。とっさに右手で鏡の縁を押さえて耐えた。

「向こうで彼女が待っている。さあ、絡繰りの元へ」

 鏡は、絡繰りのある場所へ繋がっているらしい。男は崖から突き落とす勢いで玲胡の体を鏡へ押し込もうとしている。

 ここで連れ去られてしまえば、もう絡繰りから出てこられないだろう。待つのは、死だ。必死に衝撃に耐えるが、もう右手が保たない。

「玲ちゃん?」

 脱衣場から佑治の声がした。その瞬間肩が軽くなり、急いで振り向く。

 浴室には自分以外に誰も居ない。鏡からも男の姿は消えており、左手は鏡に触れていた。

「玲ちゃん、大丈夫?」

 佑治の優しい声がする。玲胡は浴室を飛び出した。

「えっ、何っ」

 突然の事に狼狽える佑治だが、縋り付く玲胡の表情を見て、何が起こったのか察したようだ。

 浴室へ飛び込み、辺りを見回す。

「…出たんだね?」

 佑治は強く唇を噛んだ。

「どうして、わかったの?」

 呼んだわけではない。大きな音を出したわけでもない。それなのになぜ、異変に気付いたのだろう。

「シャワーの音が聞こえなくなっても出てこないから、何かあったのかなって」

 優しく笑い、玲胡をバスタオルで包む。そんな佑治と出会えたことが、とても嬉しかった。彼でなければ、既に玲胡はこの世にいないかもしれない。

 生き延びて、佑治とずっと一緒にいようと改めて思った。


「入られるなんて腹立つな。塩、盛るか」

 浴室での話を聞いた佑治は、部屋の隅や水場に盛り塩を置いた。更にあちこち探し回り、三つのお守りと、一枚のお札を見つけた。お守りは枕元にひとつ置き、窓にひとつを掛け、もうひとつは部屋のドアノブに掛けた。お札は玄関のドアに貼る。

 更に何かを思い出したように引き出しを漁り始めたかと思うと、引きずり出した数珠を玲胡の手に掛けた。

「これできっと入って来られない。疲れを残すのも良くないし、俺が見張ってるから寝よう」

 玲胡をベッドへ連れていくと、佑治はその下に座り込んだ。

「佑治くんは寝ないの?」

「研究室で思いっきり寝るよ。叩かれるかも知れないけど」

 小さく笑い、目を閉じる。直後、玲胡は眠りに落ちた。



 ─声がする。声とも言えない、微かな声。

 目を開くと、辺りはまだ真っ暗だった。枕元に置いたスマートフォンで時間を確認すると、午前三時丁度。眠ってから一時間半ほどしか経っていない。

 また眠ろうと横たわった玲胡の耳に、不快な音が入り込む。低くて小さな、声のようだ。テレビをとても小さな音で見ているような、声とは認識できても聞き取ることは出来ない、微かな声。

 どうやらそれは、窓の外から聞こえてきているようだ。

 カーテンをめくり、おそるおそる外を覗く。

 窓の下、アパート入口の横の外灯下に、人の影があった。その人影はじっとこちらを見ている。

 男だとわかり、すぐに身を引こうとした玲胡だったが、体が固まって動かない。だんだんと、男の声が大きくなる。

「お嬢さん、お嬢さん、彼女の元へおいでなさい。お嬢さん、お嬢さん、絡繰りを覗きなさい」

 繰り返し繰り返し、呪文のように同じ言葉を続けている。だんだんと、大きくなる。お札やお守りが効いていて、部屋には入って来られないのだろう。だからきっと、外から呼び出そうとしているのだ。

「お嬢さん、お嬢さん…」

 絡繰りの口上の時のように、男の声が脳内に響き渡る。追い払おうと玲胡は動かない体を無理に動かし、頭を振った。少ししか動かなかったが、まだ体は動かせる。意識は自分の中にある。

「い、嫌だ…私は、佑治くんと…生きる」

 玲胡の言葉で、ぴたりと男の声が止む。このまま追い払えるかと睨みつけると、男はにやりと歪んだ笑みを浮かべた─ように感じた。

「では、その彼は今、何処に居るのです」

 驚いて振り返る。そこに座っていた佑治が居ない。

 途端に恐怖が湧き上がった。

「佑治くんに何をしたの…!?」

「何もしていません。今は」

 男はくるりと振り返り、外灯の下から闇へと向かって歩き出す。追わなければ、佑治が危ない。

 玲胡は部屋を飛び出した。



「除霊師…の方が良いのか?まずは寺へ行ってみてから…」

 佑治はパソコンに渋い顔を向けながら呟いた。あの男を玲胡から離す術を探しているが、改めて考えるとあの男は他の霊とは違っているように思う。普通の霊と同じ対処で大丈夫なのだろうか。

「でもお守りとかは効いてるっぽいんだよな」

 何度か玲胡の様子を見たが、眠ってから異変は無さそうだ。このまま朝を迎えてしまえば、何らかの手を打つことが出来るだろう。

「トムか芽愛子の方が詳しいかな…」

 起きていれば事前に調べて来てくれるかもしれないと思い、連絡を入れようとスマートフォンを取り出す。その時、玄関の扉が開き、人が走り去る音が聞こえた。家の中に居たのは、自分以外に一人だけだ。

「玲ちゃん…?」

 不安が広がり、すぐに玲胡の元へ向かう。部屋へ飛び込んだが、ベッドの上には誰も居ない。トイレや浴室、全ての部屋を見ても、どこにも玲胡の姿は無かった。

「…やられた」

 室内に入れなくても、男は玲胡を外へ誘い出す術を持っていたようだ。家を飛び出しかけて、手の中のスマートフォンを思い出した。玲胡に掛けるが、着信音はベッドの上から聞こえてくる。電話を諦め、佑治は他のメンバーへグループメッセージを送り、玲胡を追って駆け出した。

 居場所はわかっている。玲胡が絡繰りを見た路地のはずだ。邪魔されぬよう、男が何か仕掛けてくるかもしれないが、とにかく急がなければ。

 アパートのある細い通りから、駅前を目指して駆け抜ける。よく近所を散歩しているので、近道はたくさん知っていた。これまでにない程のスピードで駅前通りに転がり出る。


 すぐに玲胡は見付かった。通りの広い道路を、まるで操られているようにふらふらと歩いている。覚束ない足取りで、やはり路地へと向かっていた。

「玲ちゃん!玲ちゃん大丈夫!?」

 声を掛けるが、反応は無い。ふらふらと歩き続ける。

「玲ちゃん!そこ危ないから、こっち来て帰ろう!」

 歩道へと引き戻そうと玲胡に駆け寄る。

 しかし佑治より、ヘッドライトが近付く方が速かった。暗いからか、ドライバーが寝惚けているのか、そのトラックはブレーキを掛ける様子もない。

「玲ちゃん!玲胡っ!!」

 全力で道路へ飛び込んだ。玲胡を突き飛ばす。

 トラックに突き飛ばされる。

 ミシミシと、メキメキと体から音がする。

 まるで世界がスローモーションになったようだった。空中に飛ぶ赤いものが何なのか、一瞬わからなかった。自分がどういう状態なのかもわからなかった。

 赤いものが、降ってくる。雨か。違う。これは、血だ。

 体が、熱い。身体中が熱い。いや、痛いのか。これは痛みか。

 左手を見た。おかしい。あり得ない方向に曲がっている。別の方向は見られない。首が回らない。どこにも力が入らない。遠ざかるエンジンの音がする。トラックは、逃げたようだ。

 ふらふらと、玲胡が近付いてくる。近付くにつれ、その姿は玲胡から遠ざかる。真っ黒の革靴。真っ黒のスラックス。真っ黒の背広。真っ黒の山高帽。

「…だ、まし、たな」

 低く唸る。言葉と共にだらだらと口から赤い雫が流れ出る。初めて見た幽霊。死神のようだと思った。

「騙してなど。貴方が見間違えたのでしょう…レイコ、さんに」

 男は肩を揺らして笑う。表情の見えない歪んだ笑みを、佑治に近付けた。

「名前を知ることが出来たのは大きい。こういった時、名前の力は強いですからね」

 言葉を返そうと空気を吐き出すと、声の代わりに血が溢れた。大きく咳き込み、やっとの思いで男を睨み付けた。

「何、で…玲胡、を」

「簡単な事。貴方と同じ思いですよ」

 思ってもいなかった答えに、佑治は眉をひそめる。男は気にせず空を見上げながら言葉を続けた。


 彼女は美しい。一目見た時から、ずっと愛しています。白い肌、しとやかな性格、物憂げな表情…どれも私の理想通りだった。

 特に、私は彼女の、食べる姿が好きなんです。唇を濡らし、細い顎で噛み付き、ゆっくりと磨り潰し…嚥下する時の喉の動きはもう何とも言えません。

 様々なものを食べさせました。高級なもの、変わったもの。…ある時、思ったのです。人間を喰らう彼女を見てみたい、と。

 まずは煮ました。翌日は焼いて。捌いておいて、目の前で湯掻いたりもしました。もちろん私は食べませんでしたがね。

 一週間後に尋ねました。このところの食事に思うことはあるかと。彼女は、お肉はどれも不思議な味が致します、さぞかしお高いものでございましょう―そう答えた。体中が震えました。いつもと違うことはわかっているのに、それが何であるかはわかっていない…悦びに打ち震えながら教えてやったのです。あれは人だ、お前は一週間、人間の肉を喰らっていたのだと。

 彼女は叫び、喚き、暴れた。何も食べなくなった。姿さえ見せなくなった。とても心配でしたが、数か月後、私が趣味で所持していた覗き絡繰りの中から、彼女の声がしたのです。

 あなた、あなた、とてもお腹が空きました、何か食べさせてくださいまし、とね。

 覗くと彼女が居ました。すぐに食事を与えようとしましたが、どうしていいかわからない。相談するために侍女に覗かせました。…するとどうでしょう、気付けば侍女の姿が消えている。絡繰りを覗くと、彼女が足をね、齧っていたんです。腿の辺りをこう、獣のように噛みちぎって。

 素敵でした。とてもとても、美しいと思った。

 それから彼女に食べさせるために、私達は歩き続けているのです。もう何年経ったでしょう。何十年かもしれません。何十年先までも、止まるつもりはありません。

 彼女は絡繰りから出られない。私が獲物を連れて来なければ、飢えてしまう。貴方と同じでしょう。守りたいのですよ。貴方は、守るためなら死んでもいいと思っているようですが、私は守るためなら殺しますよ。大した違いではないでしょう。ね?

 …おや、もう聞こえていませんか。丁度良い、喋りすぎたと思ったところです。


 男は佑治から視線を移し、とある細い道を見た。

 そこには玲胡が、呆然と立ち尽くしている。



 路地へ向かっている途中、何かがぶつかるような大きな音が聞こえた。玲胡は振り返り、そちらへ引き返したのだ。佑治の声が、聞こえた気がして。

「…何で佑治くんが、倒れてるの。絡繰りに…屋敷に居るはずじゃ」

「私はそんなこと、言っていませんが」

 震える玲胡に、男はぴしゃりと言い放つ。

「彼は貴女を追ってきた。突然飛び出した貴女を。あの忌々しい結界を張った家の中を探せば、隣の部屋にでも居たのであろう彼を、私が攫ったと勝手に勘違いしたのは貴女です。第一、私は男なんて穢れたものを、彼女に食べさせたくはない。彼は完全なる無駄死にだ。殺したのは貴女だ―レイコさん」

 ふらふらと、玲胡は倒れた佑治に歩み寄る。目は開いていて、空中のある一点を睨み付けているようだった。口から大量に血が流れ、腕はおかしな方向に曲がり、右足からは骨が見えている。

 開いた目を見ても、玲胡が映り込むことはない。優しい笑顔を浮かべることはない。冗談を言ってくれることはない。抱き締めてくれることはない。生きて、いないのだ。

「嘘。嘘だ…佑治くんが、死…いや。嫌。嫌。いやああっ!!」

 佑治だったものに縋り付く玲胡を、男は暗く、見えない表情で見下ろした。

「この辺りには良くないものが彷徨っています。このままだと、彼の体、彼の残った魂が狙われてしまう。貴女は丁度、防ぐのに良いものを身に着けていらっしゃるようだ」

 放心した玲胡は、虚ろな表情で佑治の数珠を見つめた。ゆっくりとした動作で外し、佑治の手に握らせる。

 男は玲胡の手が数珠から離れたのを見ると、すぐにその手を取り、肩を掴んだ。

「これで彼の体は守られる。さあ、彼の魂は向こう側へ向かい始めている。追うのでしょう?追って、償うのでしょう?ならば―覗きましょう、レイコさん」

 虚ろな玲胡は、暗い瞳で立ち上がる。男に手を引かれ、ゆらゆらと路地へ向かう。

 止める者は、誰も居ない。

「さあ、彼女が、お待ちかねです。どうぞ、覗き、餌になる方」


 玲胡の姿が、路地から消えた。







 七月二十九日。午前九時。

 青褪めた務が、オカルト研究会の部屋に飛び込んだ。

 既に、他の四人も集まっている。

「トム…」

 空太が硬い表情を向ける。全員事情を知っているとわかり、務は小さく「警察、来た?」と尋ねた。全員、暗い表情で頷いた。

「他殺の可能性って何よ…」

 霧が小さく呟いた。

 朝早くに訪ねてきた刑事は、佑治が死んだこと、車に轢かれたらしいということ、他殺の可能性があるということ、そして、玲胡の行方がわからなくなっていることを告げた。

「あの言い方だと多分…玲ちゃんを疑ってるんだよね?」

「だろうな」

 果那の問いに、芽愛子が頷く。他殺の可能性、玲胡の失踪、警察がおかしいと思うのも無理はない。だが―。

「誰か、警察に言ったか?」

「佑治からの、メッセージか」

 五人はそれぞれスマートフォンを取り出す。佑治が送ったグループメッセージが表示される。

 “差がしてた幽霊に玲ちゃんが寝ら割れた。助けに行く。おれが市んだらあと田飲む”

 誤字が多いが、それだけ急いでいたのだろう。届いていたのは三時十一分。五人は眠っていて気付かなかった。

「この写真、きっとそうだよね」

 メッセージと共に送られていた写真。とても暗いが、見覚えのある場所だ。

「ああ、ここにきっと、その幽霊ってのが居たのかもしれない。もしかしたら、玲胡もこの近くに…」

 空太が言ったところで、果那が「えっ」と声をあげる。四人が視線を向けると、青褪めた果那は不安そうに全員を見回した。

「ここってなに?みんなこの場所知ってるの?この人も、知り合い?」

「どう見ても駅前通りだろ。それに、人なんてどこにいる?」

 務の答えに、果那は更に青くなる。全員の画面を見て、自分と同じものか確認してから泣きそうな声を出した。

「画面いっぱいに、白い着物の女の人…いるよね?赤い和室の写真だよね?」

「は…?」

 今度は四人が果那の画面を覗き込む。だが四人には、普通の写真にしか見えなかった。

 四人は顔を見合わせ、果那を見る。嘘をついているようにも、ふざけているようにも見えない。

「本当に、やばいのかも」

「早く探さないと、玲胡も危ないんじゃないか?」

 五人は研究室を飛び出した。



 駅前通り。五人は手分けして写真と同じ場所を探す。細い路地、佇む街灯、似た場所は多い。

 写真を知らない果那は務の後ろを追っていた。しかし早くて追い付けない。

 ふと、声がした。

 前の路地から、低い声が聞こえてくる。とても気になり、その暗い道へ入って行った。


烏百合(うゆり)、烏百合。今日も美しい。人前で名を呼べないのは寂しいよ。約束だから守るけれど。カラスのように美しいクロユリが咲いていたから、烏百合。初めて聞いた時から好きだった。名前も、由来も。今はもっと、愛している。クロユリの花言葉は“愛”に“恋”、そして“呪い”。お前にぴったりだ」

 男が一人、大きな箱に向かって話しかけている。とても、異様だ。

 本能的に離れようと体が動く。だが男が振り向く方が早かった。

「あ、あのっ、人を探してて…銀に近い色の、長い髪の子なんですけど」

 ゆっくりと男は立ち上がる。なぜか、既視感があった。

 帽子の影で顔が見えないが、手招きをされたのでそちらへ向かう。

 男は手招きした手を、大きな箱へ向けた。

「これを覗けば、わかりますよ」

「え、占いとかですか」

 箱にはレンズが付いていて、きらりと輝き果那を誘う。なぜか目が離せなくなり、足はゆっくりと動き出す。木の箱はとても手に馴染んだ。

「さあ、覗いてお行きなさい」

 

 覗いた先は赤い和室。佇むのは、白い着物の女。果那は息を飲む。

 男への既視感、それは、警告だった。

「…うまい。う、ま…い。この、娘」

 女は背をこちらに向けて、何かを貪るように食べている。少しずつ近付いて、その正体を覗き込む。

 食べ物とは思えない臭い。硬いものが折られるような音。滴る赤い雫。

 銀に近い、長い髪。

「美味い…もっと、欲しい…次は、お前か」

 女は赤く染まった口元を、狂喜に歪ませた。







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