08
夜更けに不穏な空気を感じて眼が覚めた。まだ、誰も気がついていないようだ。一瞬、このまま消えようかとも思ったが、流石に寝覚めが悪そうなので、ニールさんとビーンさんを起こした。
「どうも魔物の襲撃のようですね、今から逃げても逃げ切れないと思います。どうしますか?」
「うーん、私には、判断しかねるので、お二人で決め手下さい。」
「逃げるか、迎え撃つかって事だね。確かに逃げ切れそうも無いですね、ここは、腰を据えて迎え撃ちます。」
「分かりました。迎え撃ちましょう。その為にも斥候に行って来たいんですが、宜しいですか?」
「こっちからも誰か出しましょう。」
「いいえ、こう言っては失礼ですが、一人の方が動きやすいので遠慮します。それに魔法も使えるのでいざとなったら、打ち込んで逃げて来ますから。」
「確かにこの位置での気配察知と言い、盗賊を倒した手並みいい足手纏いかもしれませんね。」
「それで1時間しても帰ってこなかったら、街に向けて出発して下さい。トレインしてみようと思います、上手く行けば逆側に引っ張って行けるはずですから。」
「ああ分かった、斥候と言うより作戦行動だね。すぐに出発と戦闘の準備をさせるよ。」
「では、向かいます。上手くまければ、街の手前で追いつきますよ。では。」
断りを入れて魔物の群れへと向かった。元よりトレインなどするつもりも無い、殲滅あるのみ。ここまで、今の自分の力が把握できていないので、ここで本気に戦ってみようと思い立ったのです。取り合えず素手で相手をして、その後魔法を使ってみようと思います。刀は、魔物には向いていないようです、今回はグリーンウルフが多いようですが、背中の毛皮には、刃も通らないようです。それに、切ると血で汚れてしまいますので風呂に入れない現況では、出来るだけ避けようと思っております。
視認しました、グリーンウルフが20頭とその後にファングベアーが4頭です。先ずは回り込みファングベアーの最後尾から始末して行きます。背中から気を打ち込み4頭は、あっという間に倒しました。グリーンウルフは、その群れの真ん中に飛び込んで、群れを分断し少ないほうから同じく気を打ち込み始末しました。残りが13頭ほどいましたが、ディッグと言う穴を掘る魔法で捕まえました。要は落とし穴ですね。落とし穴に落ちたグリーンウルフは、放っておいて解体に勤しみました。解体終了後は、残ったグリーンウルフに止めを刺すのに、アースバインドを練習して何とか使えるようになりました。これは、結構使えます、敵を捕獲するにも、窒息させて止めもさせます。残りのグリーンウルフも解体して、穴を埋め戻しておきました。今回は、流石にグリーンウルフの殆どの肉と内臓、ファングベアーの肝以外の内臓は、一緒に埋めてしまいました。一人で解体するには、多すぎました。すべての魔石だけは、回収しましたけどね。
ラーンに入る門の手前で、マスクテイル商会の馬車に追いつきました。
「やあ、ご無事だったんですね、すぐに気配が少なくなり完全に消えたので、トレインに成功したとは、思っていましたが、無事かどうか心配でした。」
「ああすぐに鼻先に干し肉を放り込んでこちらに、注意を向けてからトレインしました、森へ逃げ込み鹿を狩って放置してそのままです。見つからないように、迂回してきたので思ったより時間が掛かりました。」
「兎に角良かったです。ラーンに入ったら店までは絶対に付き合ってくださいね。主人に会っていただき、お礼をさせてください。いーえ、これはお願いです。」
「はあ、分かりました。そんな大げさにしないでくださいよ。単に逃げ足が速かった、それだけですから。」
ラーンに入りました、ここで護衛は任務終了でニールさんはサインを貰ってギルドに行くと言って分かれました。しきりに連絡先を聞いてきましたが、初めての街でそんなものは無いと言ったら、「銀の馬車亭」と言う宿に尋ねて来るようにと言われました。ニーンさんと馬車に揺られて、ラーンの街を何となく眺めていたら、マスクテイル商会の前に着いたようです。
「ヒロさん、到着です。」
「おおっ、ビーンか、お疲れ様。ん?そちらの方は?」
「はい、ヒロ様とおっしゃいます。私共を2度も助けてくださいました。」
「うむ、そうか。それは大いにお世話になりました、ありがとうございます。こんなところで立ち話もどうかと思いますので、どうぞ中へ。」
マスクテイル商会は、思っていたより大きいようで店は、大店と言って良いようだった。
「先ずはお礼の前に、ビーンよ、説明をしなさい。」
「はい、最初は、盗賊に囲まれまして護衛のニールさん達も、奮戦してくれていたのですが、そこは人数も倍半分と多勢に無勢で、これは応援でもなければ駄目かなと諦めかけていたときに、颯爽と駆けつけてそれこそ、あっという間に5人の盗賊を気絶させ、撃退してくれました。二度目は、グリーンウルフの群れに襲われそうに成りました、一同で決死の覚悟で迎え撃つことを決めたのですが、ヒロさん、一人で群れに向かいトレインして追い払っていただきました。先程聞いたのですが、20頭ほどもいたともことで、襲われていれば怪我ではすまなったところです。それが無傷どころか、戦闘も無しですもの。本当にありがたいです。」
「本当に、それはどうもありがとうございました。魔物を一人でトレインして逃げて来る事が、出来るんですね。」
「いやあ、盗賊は偶々通りかかり、注意が馬車の方へ向いているところを、急襲したからですよ。一人の力ではないですよ。」
「いえいえ、ニールさんも、感心していましたよ、ああいう場合、思わず声を掛けてしまい、折角のチャンスを潰してしまうことが、殆どだけど、的確に利用していと褒めてましたよ。個々の戦闘も、急所を一撃で捉えて気絶させていた、出来そうで出来ない技だとも言っていました。」
「ふーん、そんなにお強いのですか。何か鍛錬なされていたのですか?」
「いえいえ、祖父に手解きを受けていた程度です、大した事はありません。」
「申し遅れましたが、この商会の商会長をやっておりますギルバート・マスクテイルと、申します。そしてこれが四男のビーン・マスクテイルと申します。商会を代表してお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございました。」
「ご丁寧にどうもです。私は、薬師のヒロと申します。今回のことは、本当に気にしないで下さい、本当に偶々ですし。お礼も何度もいただいておりますので。」
「ただ、護衛していただいて、ただと言うわけにも参りませんので、何かご希望は、ございませんか?」
「ああ、でしたら、これから親しくお付き合いをしていただけませんか、私は田舎から出てきてこちらには、知り合いもおりませんので友人としてお付き合いいただければ嬉しいのですが。」
「はい、勿論です。親しくお付き合いをさせていただきます。」
「では、早速なのですがどこか食事の旨い宿を、ご紹介いただけませんか?」
「そうですね、「ジョシュの満腹亭」が良いと思います。マスクテイルの紹介だと言っていただければ、少しは良くしてくれると思います。ここら辺では珍しいお風呂なるものもありますよ。」
「おおっ、風呂ですか、それは楽しみですね。では、疲れたので失礼させていただきます。」
「はい、また明日にでも、お話をさせてください。」「では。」
そのまま紹介を後にして、ジョシュの満腹亭へと向かいました。風呂に入れるかもしれないという期待に、胸を膨らませて。
「今晩は。」
「はい、いらっしゃい。お食事ですか、ご宿泊ですか?」
「宿泊で。風呂にも入りたいのだが。」
「風呂付きの部屋は、1泊2食で銀貨1枚で、風呂無し浴場利用が1泊2食で銅板7枚だよ。どっちにする?」
「ああ、風呂付で。取り合えず10泊頼む、銀板1枚ね。そう言えばマスクテイルさんが、宜しくって言ってたよ。」
「私は、女将のラナって言います、マスクテイルさんの紹介ですか、食事に1品おまけしますね。部屋は、二階の一番奥の左側です。食事は、食堂が開いてればいつでも大丈夫だよ。部屋の鍵を見せて注文しておくれ。」
部屋に入り風呂が溜まるのも待ちきれずに、浴槽へ入り久しぶりの風呂を堪能しました。その後食堂で、夕食を取ったが、疲れが出てきて食事もそこそこに部屋へ戻り、ベッドへ飛び込み意識を手放しました。