○○◎○○○○○式殺人事件
ロビーでの会話が終わり、一同は遅い昼食を済ませた。
皆は疲弊しているらしく部屋へと戻った。
ロビーの窓からひとり外を眺める虫栗の隣りに、意外な人物…石渡家の三男市朗が訪れた。
兄の母とその双子の妹そして伯父たる道山との館での奇妙な共同生活。
それから訪れた別れ…
そして養子としての寄る辺なき心情の吐露からの、市朗の突然の殺人者としての別人格という告白に、虫栗は…
それでも…緑はすべてのひとを癒してゆくのだった…
八
深夜…
本日はすべてがずれ込んで皆はもう疲れ果てていた…
この時間だというのに実際先ほどまで夕食会が行われていたのだ。
虫栗はというと、不覚にも自部屋のドアのすぐ近く、クローゼットの前に気を失っていた。
しかもあろうことか、服を脱ぎかけのままで半裸状態である。
・・・・・・
カーン…カーン…
ノックの音が谺している…
乾いた音だ…遠く…遠くから聞こえている……
・・・・・・
カーン…カーン…
また音だ。今度は近い…迫っているというのか…
ヒソヒソと誰かの声が聞こえている…誰だろう…
カーン…カーン…
…誰だろう……誰だろう…?……
・・・・・・
カーン…カーン…
…また…。…今度は一番近い…なんだろう…何の用だろう……?…私に誰か…用事があるとでも言うのか……
カーン…カーン…
…??…この部屋のノックだ…そうだ…召使いが…
「もし~、虫栗様~、おいででございますか~~」
カーン…カーン……カーン…カーン…
「つ…露子さんですか…?」
「は…はい…そうでございます…」
「な…何の御用で…?」
「い…いえ…」
虫栗は寝ぼけていた…完全に…
そして露子は…何故か…怯えていうような……
「御用があれば…何卒…お申し付けくださいませ…」
「あ…ああ…私は今…クローゼットの前で…」
「?クローゼットの前で…??」
「ええ…半裸で寝そべっております…」
「えっ?それはイケマセン…虫栗様…ドアをお開けくださいませ…」
「い、いえ…逆にいけません…半裸ですから…それより…私は眠いのです…このまま寝させてもらえませんか…?」
「え…ええ。しかし…風邪をひいてしまします…ベッドにお入りくださいませ…」
「はい…そうします…」
「わたくしはこれから部屋を回っていきますので…お気になさらずいただけますか…」
「…ええ…とにかく私は今眠い…たしかに…この館のノックは…尋常じゃないが…今は眠気以上のものは…ありませんよ」
「それでは…ベッドへ…約束でございますよ…」
「ええ…モチロンですよ…」
(…ああ…行っちまった……ベッド…ベッド……はやく…)
虫栗は虫の息で…ようやくベッドにたどり着いて…そのまま再び力尽きた……
・・・・・・
……ああ…なんて館だ……殺人が…日常的に…それこそ飯を食うように…人を殺して…生きているなんて……ああ…転がっている…美しい…誰…そうだ……市朗さんだ…青白く…死体?…市朗さんの…美しい死体だ…赤!…吹き出している……なんだろう…死んでいるのに…血だ…血が吹き出している…
カーン…カーン…
…まただ…露子さんが…ドアを叩いている…連鎖している…殺意が……連鎖する…十三年前…遺書……毒薬…博文氏への殺意……殺意の束…忠誠と賭け……
カーン…カーン…
…仰々しい音だ…悪魔の組織の館…主の死……不可解な密室…召使い…執事…父親同然……主と露子の関係…重病……その後の主の奮起……
カーン…カーン…
…叩いている…召使がドアを…市朗の殺意の発覚…不意に人が殺したくなる……私と当面する前の…口が過ぎた…間抜け…羨んだ自分…恵まれた境遇…坊ちゃん…樹一郎……そうだ…宗田樹一郎……
カーン…カーン…
…近づいている…ドアを叩く音が…大きくなってく…殺意がないと思い込んでいた…市朗の狂気…樹一郎に向けた殺意…やっと…一楼は次朗に…次朗は市朗に…市朗は樹一郎に…樹一郎は道灌に…道灌は清潤に……そして…清潤が…一楼に……ウロボロス……やっと…蛇が…蛇が尻尾を…喰らった……
・・・・・・
カーン…カーン……カーン…カーン…
……ああ…またノックだ……
カーン…カーン…
「む、虫栗様~虫栗様~~朝です…起きてはいただけませんか~~」
「!!」
…朝…もう夜は明けたのか……
「虫栗様~」
「執事!」
「大変です!皆様が~~すぐに出てきてはいただけませんか~~!!」
「!執事、今行きます…どうなさったというのですか??」
「虫栗様!皆が…殺されました…亡くなっておられます」
「なんですって!!」