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〇〇◎〇〇〇〇〇式殺人事件  作者: 夢之ゆめぜっと
○○◎○○○○○式殺人事件
4/12

訪問

殺された主のもとへ急ぐ一同は館のカラクリに遭遇、虫栗は興味を抱き、土師はせ道灌どうかんは悪態をつく。

主は惨殺されていた。

虫栗に密室のカラクリを一通り説明し終えた一同は、それぞれ部屋に戻り休息をとることとした。


 カーン…カーン…


 夕食を終え一息を着いた。

 夕食の結びに、探偵虫栗は、殺人の容疑者の可能性のある一同(虫栗自身も含め)に、館内からの外出を禁じた。

 虫栗はそれで、一部屋ずつ訪問することにした。


 ガチャ、ギー…


 一階の寝室、廊下を挟んで両方に部屋が並んでいる。

 廊下の手前から奥へ向かって右手に石渡いしわたり一楼いちろうに誂えられた部屋、向かって左手に石渡いしわたり次朗じろうの部屋、進んで右手に石渡いしわたり市朗いちろうの部屋、左手に足利あしかが清潤せいじゅんの部屋、更に進み右手に土師はせ道灌どうかんの、左手に宗田そうだ樹一郎きいちろうの。一番奥の左手には虫栗むしぐり虫太郎むしたろうの部屋があった。

 虫栗むしぐりの向かいの部屋は不明である。


 虫栗は先ず石渡いしわたり一楼いちろうの部屋から訪問を始めた。


「お待ちしてました」


「荘厳な造りです。ノックの音がおびただしい」


「はは…いちいち仰々しくてお恥ずかしいですね」


「如何にも…」


 虫栗のざっくばらんな対応に端から心は開かれた。

 

・・・・・・


「…しかし、この『血と裁きの教団』という現象はあまりにもエキセントリックですね…」


「ええ。しかし私にとってこれも生まれながらの日常。我々のような一般市民とはかけ離れた上流階級にとってみれば、これまでの犠牲者たちの流した無数の…大量の血液こそが踏み台となっているのですから」


「最早異常な国となり果てた」


「……。一方でそういうこともできるでしょう…しかしまたそれが歴史であり世界の本質であるともいえるでしょう。流された血液の累積だけが巨万の富の源です…異常性は悲しいかな逃れようがないテーゼなのですから」  


「はあ…常人には理解不能の極地。しかし、それが真実なのでしょうね」


「ただ…」


 ここで虫栗は一楼の異変を逃さなかった、一楼の眼孔が険しくなり、鋭く光を放ったのだから。


「我が弟…次朗じろうの抱く異常性は、富と直結しておりません。アイツのアレは単なるイカれた異常性…これまでの凶悪の歴史の反映ですね、まあ、突き詰めれば殺人にいいも悪いもない、根源は同じ衝動ですし、富を言い訳にしても始まらないでしょう…人類みな同罪です」


「はあ……。犯罪の王が原罪を説く…不思議な世の中ですね」


「全くです、アイツはただ、生物として純粋なのでしょうね…人が人を捌く異常な権利を得た場合、それに依存し行使の連鎖に呑まれているほうがむしろ狂気ではない」


「禅問答みたいな話だ。真理がすっかり入れ代わっています。表裏一体とは善悪のみならず世界の暴露でもあるでしょう…なんだか自身を失いそうです…だって私の信念だって…」


 虫栗は興味の暴走が狂気へ直結する我が探偵というさがを思うと身につまされてならなかった…


「しかし…互いに腹を割り過ぎると結果として首を締めることと一致してしまいました。いろいろとお話し頂いて助かりました、それでは」


「ええ、こちらこそ…お恥ずかしい限り」


・・・・・・


 一楼の提言で次朗の訪問を避け、それ以外の4名の訪問を終えた虫栗は、自部屋のベッドの上で夢想していた…


(しかし妙な風情だ…皆スッキリとして淀みがない。仮にも一族の長が殺されたばかりというに…それもこれも、普段から殺したいやつを殺せているからなのか??はあ…探偵も同類さ。そう、私だって常に明瞭でいられるのは彼らと同じ穴のむじなであるからに違いない…まあ、そんなこと今知らされたわけでもあるまいし、深く考えずにいよう…私はずっと昔から、自分の異常性には対峙してきたのだから。)


 宙をみている…


(しかし…皆が普段から明瞭であるからこそ…ハッキリ確信できたこともある。それは…ここに一同が集まった理由とも直結することかもしれない…ここに集まった皆は、皆がある一人物へ向けての殺意をそれぞれに抱いている)


 カーン…カーン…


(誰だろう?…しかし…それぞれの殺意はわかったはいいが、肝心の主の犯人については何一つの引っかかりもない…)


 カーン…カーン…


(また鳴っている…長男の一楼いちろう次朗じろうに明らかな殺意を抱いている…そして一楼いちろうの話しから察するに次朗じろうは今にも市朗いちろうを殺しそうだということだ…)


「あの…もし…」


(…ん…誰だ…おんなのひとのこえ…足利あしかが清潤せいじゅんは一楼に殺意が…土師はせ道灌どうかん清潤せいじゅんに殺意を…)


「虫栗さま虫栗さま…」


(怯えたようなこえだ…宗田そうだ樹一郎きいちろうはハッキリ指定しなかったが殺意の対象は道灌どうかんだろう…今のところ石渡いしわたり市朗いちろうだけは殺意を汲み取れなかったが…!いかん、返事を…)


「はい…どちら様で…」


「開けてもよろしいでしょうか?」


「ええ…構いませんよ…」


 ギーー…


 !


「あなたは?」


「わたくしはこの館の召使いの女でございます…」


「!ほっ……ほう。知りませんでした、あなたがいましたか」


「ええ…夕食の配膳の際少しだけ…いえ…虫栗様へは執事が接待しましたので…ただ遠くから少し視線を向けさせていただいただけですわ」


「はあ…気づきませんで…失礼いたしました」


「いえ…わたくしが目線を送ったまででした」


「そうでしたか。ところでご用事は…」


「ええ…実はわたくし、皆様がごゆるりとなさる今の時間帯にこうやってひと部屋ずつ訪問するのでございます。野暮用でもなんでも結構でございます、おことづけいただければお答えいたします…

それに、わたくしの部屋はあなた様の向かいでございますから…それより…あなた様の眠気を破ってしまいましたことをまずお詫びさせてくださいませ」


(ほう、鋭い)


「正しく。しかしあなたの顔を見て目が覚めました。私の弱点は眠気なのです」


「やっぱり…失礼いたしました!ご無礼を」


「いえいえ…お気になさらず…まあ、今日のところは用は結構」


「はい…それではまた明日、おやすみなさいまし」


「ああ…ご苦労さん」


 ……。


(どうやら主殺しの候補が現れたようだ…)

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