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解決編2「ご都合主義的未来予想図」

目を覚ました虫栗の見た景色は、宗田そうだ樹一郎きいちろう、執事、召使いを除く皆殺しの風景だった。

夢うつつの中で、すべての真相を整理した虫栗が生き残った3名をロビーへとあつめる。

3つの事件を合わせて成り立つ推理。

逆説的には今朝の事件によって解決を得ることとなる「主殺し」と十三年前の事件。

殺意の連鎖の直線が閉じる事で迷宮入りを果たす名づけて「ウロボロス殺人計画」の失敗の生き証となった土師はせ道灌どうかん殺しの容疑者 宗田そうだ樹一郎きいちろうへの断定から始まって、虫栗の推理は過去へ過去へと遡っていく……


「さあ、次朗さんの部屋にあった二つの遺体…それは市朗さんと次朗さんのものでした。そしてその遺体は、どちらも…市朗さんの方がより惨殺されていた…という以外は、同じ手口でした」


「……」


「絞殺…そしてトドメのために、頚動脈を切りつけている。お陰であの部屋は血で真っ赤に染まっています」


 間――


「市朗さんは次朗さんに、それこそ快楽的にいたぶられ殺されました…反して、次朗さんのほうは、一楼さんによって、まるで刑罰のように…こちらのほうが考えようによっては執念深いでしょう…喉を裂き、声帯を失わせたあとに、ゆっくりと痛みを染み込ませるような死に方をするように殺しています…拷問の職人…さすがとしか言い様がない…」


「……」


「ではなぜここにこの光景が生まれたのでしょうか…?」


 間――


「しかし、ひとまず他の遺体に向きを変えましょう」


 間――


「他の3つの遺体…つまり、一楼さん、清潤さん、道灌さんの遺体は、一転していずれも同じ殺され方で…どちらもキレイな死体です」


 間――


「遺体の傍にガスの吸引器がありました。おそらくむしろ毒性のないものでしょうね…怖くて試しませんでしたが」


「……」


「まあシラを切る必要なんてない、後で…」


「…ふん!」


 樹一郎は強がって見せた…


「私の推理はこうです。これは、もし成功するならば会合に集まった皆がみな死んでしまい、そして道山さんが生き残る…そういう計画であったろうと、まず思います」


「……」


「だから…道山さんは端から失敗していた」


「!!!」


「はい、そうです。この『ウロボロス殺人計画』は、正しく殺害者が次なる殺害者となって…つまり、皆が死人となる果てることにより、集団全体で『死人に口なし』を体現する…という計画です」


「!!!」

「…ふふふははははは…」


 樹一郎が愉快に笑い出す…


「!ジジイめ…」


 樹一郎は絶対に果たすことのできない新たな殺意に憑依されてしまった…


「言ったでしょう…あなたは生きていることが奇跡…ラッキーマンです」


「くっ…」


 虫栗の侮蔑にグウの音をあげることもできない。


「ここで、まずは私の考える主の計画を先にお伝えして、そのあとに現実を照らし合わせます。ここで結果と一致し、しかも計画の失敗を証明できれば、主が企てた計画であることの証明にもなります」


「!!」


「主はあらかじめこの6名が一本に繋がる殺意の環であることを知っていました…もっと踏み込んでみるならば、それは十三年前の成功への再現です…さあ…一気に2つの集団殺人事件が解決しますね…美しい……」


「……」


「露子さん!」


 突然名指された露子の心臓は凍りつきそうであった。


「知っているはずですね…だからこそあなたは今生きている…」


「……」


「あなたはあろうことか主に色仕掛けをしました」


「!!」

「ひっ…」


「ええ…いつということもない過去の話でしょうが…」


「露子…」

「……」


「ええ…認めます…露子は…露子は…」


 執事は露子のために…

 …涙…露子は眼を綴じず泣いている…虫栗を正面からじっと睨みつけ…


「くっくっくっく…」


 樹一郎が狂人のように笑い…とめどない…


「露子さん、この事件の前提として、あなたは…主の娼婦だった…認めますね…」


 睨み…


「いいでしょう。まあ、補足ですが、恐らく主の突然の奮起も、なんのことはない性の充足でしょうね…シンプルイズベスト!」


 虫栗はノっていた…

 探偵という逃れられない…さが…残酷非道な…快楽による狂騒……

 いたぶっている…殺人者たちを…なじり殺して…同じ目に合わせることで…快楽を…


「戻ります」


「……」


「主はどうして殺されたのでしょう…露子さん?」


「…っひっひっひ…」


 露子は笑っている…正気を失っているように…


「こういう仮定はどうでしょう…?あの快楽殺人者…次朗さん…」


「……」


「彼…あろうことか…もう長いこと…『血と裁きの教団』に…顔を出してなかったらしいですよ…」


「???」


「あの…残虐非道な変態惨殺魔が…あろうことか…ねえ?」


「……」


「そんなの…誰かの指図でしかありえませんよねえ…?」


「……」


「若い男が…ソープランドを目指して禁欲生活を送るような…そんな歪んだ禁欲主義を想起させてならないですがねえ…」


「……」


「例えば…露子さん…あなたのような…誰のいいなりにでもなりえそうな…従順な生贄気質のメスを殺せるご褒美があるとすれば…それはインスタントな殺人になんて浸っている場合じゃありませんよねえ…」


「うっくっくっくっく…」


 もはや露子は向こうの世界に旅立とうとしている…


「主の約束…そして…使用期限の切れてしまった娼婦の、出がらしのような…再利用…エコですねえ…」


「けらっからっ…けらっからっ……」


 妙な鳴き声だ……


「しかし…実際は…利用されることを…痴情のためとはいえ…長い間愛し愛してくれた筈のそのご主人様が…自分を裏切り…惨殺魔に捧げられるだけと直感した…」


「うへっっうへへっっ……」


「あなたは身の危険を防ぐため、並びに裏切り者を処刑する為…主に刃を向けた…」

 

「くっくっくっくっくっくっく……」


 笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑……


「さあ露子さん…あなたがあるじに背いたその結末を…」


 間――


「主の計画では、次朗さんに露子さんを送り込み、次朗さんは露子さんを惨殺する…ここから筋書きが始まる予定でした」


「…ひっ……」


「それからが…主の巧妙かつ大胆すぎる劇場のスタートです」


 間――


「引き出しのトリックを思い出すとしましょう…」


 間――


「私はあの鍵のひねり方にシンプルに違和感を覚えました…」


「……」


「昨日一楼さんはドアの方に捻りを合わせてあるのだから違和感はないとおっしゃいました…」


「…それはそうだろう…鍵が閉まるのはドアの方なんだから…」


「…では…仮に引き出しは、右にも捻り左にも捻ることができたとしたら…私が見せてもらったあのカラクリが、まだ半分のカラクリだったとしたら…?」


 汗…樹一郎が表情を凍らせている…


「私が主の長机の鍵を右に捻ろうとしたとき…あの巨漢の正潤さんは私の手を握りつぶした…」


 右手を挙げ皆に黒いアザを見せる虫栗…


「こう推理できます。左に捻れば契に必要な誓約書と『針』が現れる…」


「……」


「そして…ここからは…皆がみな…間抜けな顔をして一途に騙されたんですよ…」


「!!!」


「主がなぜ呼び出したか…私のその疑問に、皆は率先して共通意識を表そうとはしなかった…」


「……」


「なぜなら誰ひとりとして秘密にしておきたかったから…」


「……」


「秘密…もちろん儀式ではありませんよ…それは本音を飾り立てる為の建前です…」


「……」


「ええ…皆は主に騙され、事細かに時間を指定されて、都合よく殺したい相手を『儀式』と称することによって、二人きりの密室状態になれることを約束されていた…」


「……」


「しかも、ほかの皆は儀式をしていて、自分だけが殺したい相手を殺せるという、そして自殺したようにしか見えない殺し方で…という冷静になればすぐに騙されていることに気づいでしまうような…そんな丸分かりのご都合主義に…あろうことか皆がみな夢を抱いて…私の延期の要請などいざ知らず結局マンマと乗せられてしまったのですからね……」


「…くっ……」


「私は昨夜、皆がノックをし始める頃、その途中で、あるヒソヒソ声が聞こえてきたのを覚えています」


「??」


「そのとき、私はあろうことか眠っていました…うとうとして…覚束ない状態でした」


「……」


「その直後、私の部屋の前に露子さん…あなたが現れた…ええ…私の部屋の向かいは露子さん、あなたの部屋ですから…そう、ヒソヒソ声はあなたと…」


「ひゃぇっっ!」


「実をいうと私は眠気に弱い…眠気にだけはどうしても逆らえない…人間、目覚めているときは冷静でも、欲望を目の当たりにすると…もう敵わない…」


「……」


「確かに、私は、皆に「儀式」の延期を要請しました。しかし呆気なく…欲望には敵わなかったということでしょう…」


「……」


「一楼さんは…弟を殺すことを、もしかしたら躊躇っていたのかもしれませんね…最後の最後まで…死体を見なければ…もしかしたら…」


「!!!」


「しかし、道山氏は親族の心情には長けていた…はじめに次朗さんというエサを撒いておくことこそ、一楼さんの狂気の引き金であることを重々解っていた…そうでなければ一楼さんは殺さない可能性が高い…彼は殺人に対しシニカルであったと思います…私はそう嗅ぎとったし…道山氏もそれが前提だからこそ露子さんを利用した」


「…へはへはへは……」


「しかし、犠牲者は市朗さん…それこそ一番殺されたくはなかったでしょう…」


「……」


「私はノックを露子さんのものであると信じて疑わなかった…あなたに言われるがまま…」


「ケーーーっ!!」


「あなたに…あなたが…言わされたがまま…」


「あひあひ…アヒヒヒーーっ!!!」


「次朗さんをってしまった一楼さんは、苦肉の策として…。露子さん、あなたを使い私を言いくるめるよう命令されていたのでしょう…間違いありませんね?」


「ウケッ!!」


「私は騙されました…そして…皆がつぎつぎに欲望に溺れていたさなか、私は同じくとめどなく襲う睡眠欲に溺れ…死体はつぎつぎと転がって…私は朝まで…」


「……」


「しかし」


 間ーー


「いずれにしたって、人間はいつまでたっても馬鹿ですね…十三年前の教訓をまるで活かせてはいない…」


「!!」


「進みます…『儀式』の定刻に現われない次朗さんの部屋に訪れた一楼さんは、露子さんの遺体をみた途端に、普段つもりに積もった堪忍袋の緒が切れ、次朗さんを惨殺するであろうことは、主には明白だったのでしょう…この辺りは熟知しているがゆえの精度の高い策略であったと言えます」


「……」


「そしてそれからが『儀式』を絡めた計画の開始です」


 間――


「定刻となりそれぞれは、『儀式』という建前で動き始めます」


 間――


「定刻へと急ぐため着替えを済ませた一楼さんが、清潤さんの部屋に訪れ、『儀式』を行うと騙されている一楼さんが、清潤さんのトリックよって…正確には主の仕掛けたトリックを使うことによって殺される…」


 間――


「そして…後は現実と計画にズレはありません…清潤の部屋に一楼さんの死体が転がり、道灌さんの部屋に清潤さんそして、樹一郎さん、あなたの部屋に道灌さんの死体が転がり…という現実の結果にね……」


 間――


「殺したい相手が殺人を予定しているそれぞれのもとへと訪れるという、ありえないほど都合の良い…しかしマンマとそれにはまってしまたというあっけない…計画されていたバーチャル的な未来予想図と、現実とがオーバーラップするという…ありえない未来が…」


「そう…結末以外においては…」


 間――


「しかししかし…ハッピーエンドの結末は訪れなかったのです…」

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