26
黒猫に出入りするルキーノは確認できたものの、その先の潜伏場所の特定は困難を極めた。セントラルの下町でも最も初期にできたその地区は、都市計画などどこ吹く風で次々に小さな店ができ、それが無秩序に取り壊されてはビルに変わっていったラビリンスだった。
従って地図にも載っていないような抜け道もあれば、下水道も勝手に繋がれていて、セントラル市の道路課も水道局も詳細は把握できていない。
ふらりと現れたルキーノは、エスプレッソにクロワッサンを食べ、ライスコロッケをテイクアウトすると、また迷路のようなゴミゴミした細い街路を選び、あるビルに入ったかと思えば、その裏口から出てきたりと、尾行に気づいているのかそれともこれが日常なのか判断のつかない行動をとった末に、花を並べた屋台の奥へと消えた。
「あの奥にはビルが三つあります。どれも地下室があるという届けはされていません。付近にヘリが着陸できるような屋上もありません」
報告を聞いてジャクソンはモニターに映した市街図を睨みつけた。
「その三つのビルの向こう側は大通りに面したデパートだな」
尾行したのは海軍特殊部隊のプロだ。ルキーノはまだ気づいていないと思うことにして、ハンドセットのチャンネルをマクガレイに切り替える。
「ジャクソンです。提案があります。市当局の協力が得られれば、ですが」
「聞こう」
ヘッドホーンからは元帥の声も聞こえた。
「ラビリンスから人を排除したいのです。下水管から無毒で臭いをつけたガスを流し、避難を呼びかけます。下水道のポイントD28、E33、G15から流せば、この辺り一帯にガス臭が立ちこめるはずです」
「出てきたネズミを捕獲すると?」
「後ろ暗い者ほど避難は遅れるものです。囲むように地上と下水道に小隊を置いて、徐々に輪を縮めて……」
ジャクソンはモニターの地図を操作して、ポイントを光らせる。元帥とマクガレイも同じものを見ているはずだ。
「奴らがラビリンス側に出てくるか、車両を用意してデパート側に出るかは分かりませんが」
「ふむ。それならラビリンスの東側、チェルニー通り辺りで派手に炎と爆発音も用意するか」
元帥が割り込んできた。
「消防局がカンカンになりますよ?」
「構わん。建物を実際に爆破する訳じゃない。花火みたいなものだ」
ジャクソンは瞬時迷ってからうなずいた。
「野次馬と報道を規制できるなら」
「やるさ。これで銀狐の息の根を止められるなら議長も万歳だろう。ラビリンスをここまで放置した市当局も、これで都市計画に入れるというものだ」
「問題は当該ビルが本当に潜伏場所なのか、だが?」
またマクガレイがマイクを奪ったようだ。
「それは間違いないと思っています。三つとも雑居ビルで、建てられてから八十年は経過した古いものです。一見三つにに見えますが、内部は窓から窓へ抜けられるように改造されていたりで、ほぼ一体化しています。出入り口は少なくとも七カ所はあり、私が銀狐でもここを選びますね」
「地下室は?」
「潜入させた虫ロボットで両側の二つのビルは地下二階まで確認できました。飲み屋が集まっていました。残る一つは地下一階が倉庫に使われていると分かっただけでそれ以上は入り込めてはいません」
「地下二階の下は?」
「それは……」
その下まで掘れば下水道にぶちあたってしまう。だが可能性はある。むしろ下水道が出入りの一つであってもおかしくない。
「下水道にも部下を配置しますので」
「わかった。ガスの用意と議長、市当局に話を通すのに二時間。隊の配置を終えるまでに更に一時間見てくれ。おまえはどこに入るつもりだ?」
「部下はビルに突入させます。私自身は全体を見渡せる場所を確保するつもりですが」
「三っつ、命令がある。一つは、人質を絶対に死なせるな。二つ目はおまえの所にイルマを派遣する」
「……イルマ少尉はこういう作戦では……」
「人質本人と直接かつ極秘裡に連絡がとれる可能性のある唯一の人物だぞ」
「現場で勝手な行動をとられたり、指示を出されたりしたら困ります」
「イルマが階級を盾に頭ごなしに命令する人間だと思っているいるのか?」
「ノー、しかし……」
「ああ見えてペレスでは海賊掃討に実績がある。階級よりも現場を混乱させない命令系統を優先できると思うがな」
「……わかりました。最後の一つは?」
「下水道に抜け道を作っているとしたら、海に出るかもしれん。海から逃走を計るならむしろこちらの本領発揮だ。街で暴れられるよりはいい。排水口は見張らせておく。だが奴の目的が復讐にあるならば……」
いくつかの指示を終えてマクガレイは通信を切った。振り返るとミュラーが渋い顔で頬を掻いていた。
「独断ですがいいですね? ここで終わらせる為に」
「銀狐との確執は二十五年前の作戦に端を発している。わしがケリをつけるのが順当だろうな」
マクガレイは立って敬礼すると静かに言った。
「イレーネ嬢に話してきます」
「頼むよ、サラ」
それぞれがそれぞれの立場でサッタールの救出に動き出した。
爆発音はサッタールを捕らえてある地下室にも響いてきた。
「ルキーノ、毒ガスが発生したらしいぞ。消防と警察がこの辺り一体に避難を促している。どうする?」
駆け込んできた仲間をじろりと睨んだルキーノは、ゆらりと立ち上がってサッタールの肩を蹴った。朝、薬を投与したせいか今はぐったりとして呻き声もあげない。
「ガスってのはガセじゃねえだろうな?」
「花屋の親父は臭ぇって売り物放り出して逃げてったぜ。確かに臭う。ほら」
仲間が顎をしゃくった先に通風口がある。そこから微かなガス臭が流れてきていた。
「俺たちも逃げるか?」
「いや待て。そもそも何だってガスなんか」
「ガス管取り替え工事でやっちまったんだってよ。くっそ、警察や消防が町に入り込んでくるぞ。そのガキ見られたら……」
ルキーノはもう一度サッタールを見下ろした。肩が揺れているのはそうしないと息が吸えないからだろう。少し考えて、仲間に命令を下す。仲間と言っても、頭のある奴はいやしねえと心でうそぶいた。
「二十分してからてめぇとサム、シンディはデパートから車を出せ。いいか、ガキを連れてるみてぇに毛布を後部座席に投げ込むんだ。当然足止め食らうだろうが、何にもヤバい物持っちゃいねえから、そのうち放免される。そしたら第二空港近くのアジトに集まれ。他の奴も各々ここから出せ」
「で、あんたとそのガキはどうするんだ?」
ルキーノは血走った目でうっすらと笑った。
「てめぇらが地上でもめてる間に、俺は地下から逃げる。二日たっても俺が現れなかったら、後はアルト、てめぇに任すぜ。六代目銀狐って訳だ」
「そ、そうか……、よし、わかった。じゃあ用意してくるな? ルキーノ、あばよ」
アルトと呼ばれたのっぽの男は、落ち着かない顔で笑顔を浮かべると、また階段を駆け上っていく。その足音が消えると、ルキーノは壁に偽装した戸棚から次々と武器を取りだした。短機関銃と弾薬、手榴閃光弾、ロープ。それらをアーマースーツを身につけた上から次々と装着して、最後にサッタールの前にしゃがんだ。
「手足の縄は外してやる。だが暴れんじゃねえぞ」
聞こえているのかいないのか、サッタールは瞼を開けることもなくただ苦しそうな息だけをしていた。
「車に乗り込むのを確認しました。デパートのヤードからです」
冷静な部下の声に、ジャクソンはアレックスを振り返った。アレックスはいつもの軍服ではなく、ジャクソンと同じような戦闘服に身を包んでいる。だが武器は拳銃しか持たされていない。対してジャクソンは狙撃用のライフルを手にしていた。
「人質の安全確保が優先です。必要なら銀狐一党は射殺します」
「当然だな。俺はここではおまえの部下だ。命令されればその通りにする」
アレックスは肩をすくめた。潜入も襲撃も、経験がないわけでもないが、自分の経験値が圧倒的に足りないことも承知している。アレックスは本来、艦艇を操る人間なのだ。
「あなたは、絶えずミスター・ビッラウラに話しかけてください。もし接触があればそのまま報告を。インターコムで私にもマクガレイ少将にも聞こえるように。それ以外では、緊急時を除き拳銃を抜くことも許しません。それと万が一体力に限界があるようならば容赦なく捨てていきます。あなたの戦力は計算外です」
「了解した」
身も蓋もないが、気にした様子もみせずうなずく。日々厳しい訓練を積んでいる特殊部隊に比べれば、キャビンとブリッジを行き来してばかりだった自分は体力も劣るだろう。ましてや陸に上がってからはろくに訓練もしていない。
ジャクソンが人質の安全を最優先にしてくれているなら、自分が口を出すことはなにもなかった。
二人はデパートのヤード口を見下ろす隣のビルの二階にいた。周囲は部下が取り囲んでいる。通りにはまだガスから避難しそこなった市民が叫んだり走ったりしているが、デパートの前だけは奇妙な静けさがあった。
「三人乗りました。後部に毛布に包まれたものが入れられ、足下に転がされているようです」
「もう一度デパートに逃げ込まれたら面倒だからな。大通りの手前で足止めしてドアを破壊。奴らが車から出たらそのまま撃て。人質に手をかけそうならば射殺しろ。俺はここから援護する」
了解の声とともに通信が切れる。アレックスは高まる焦燥感を押さえて、懸命に心で呼びかけていた。が、まるで反応はない。
(向こうからじゃないとダメなんだろうな)
それでも無事を願い呼びかけることが、灯台の明かりのように伝われば、それでよかった。
紺色のバンが姿を現した。運転席にはサングラスをかけた若い男が乗っている。あと二人とサッタールは後部だろうか、ここからでは見えなかった。
ジャクソンのライフルが、火を噴いた。勢いよく飛び出そうとしていた車が前輪を打ち抜かれ、回転して止まる。
次の瞬間には工作班がとりついて強化プラスチックの窓があっと言う間に破られる。ジャクソンが援護する間もなく、三人の男が引きずり出され、道に転がされた。
(おかしい。呆気なさすぎる)
そう思った刹那、インターコムが鳴った。マクガレイの声だった。
「ジャクソン。地下下水道で戦闘。D16ポイントの小隊は撤退。ターゲットはゴーボートに乗ってそのまま排水口に向かった。人質の姿を確認。戻ってこい」
「了解。こちらは部下に任せます」
どういうことだと聞く暇はなかった。ジャクソンは矢継ぎ早に部下に指示を出すと、なんの説明もなく走り出す。アレックスは置いてきぼりを食らわないように、ただその後を追った。
夕焼けが海に美しい模様を描いていた。対岸の士官学校のある島は影になって黒く沈んでいる。
ルキーノは小さなゴムボートのエンジンを切って、岸壁を見上げた。下水道にも重火器を持った兵士がいたことには驚いたが、同時にガス騒ぎが軍の起こしたものだと確信した。
「せっぱ詰まってやがるよなあ。あんた、ずいぶん大人物じゃねえか」
楽しそうに笑って、サッタールを肩に担ぎ、素早くロープで自分に縛り付ける。町中を混乱させてでも取り戻したい人質だ。こうしておけば誰も迂闊には手を出せないだろう。そして、自分は復讐を遂げるのだという高揚感がルキーノを酔わせていた。
「今頃あんたを捜して大騒ぎだろうぜ。中央司令が直々に指揮を執ってんなら、こっちは手薄だろ」
狩られた鹿のように縛られたサッタールは、つかの間意識を取り戻した。薄く開けた目に、赤く染まった石壁が映る。ここがどこで、今が何時ぐらいかもわからない。ただ潮風を感じた。
「今ごろお嬢さんは邸で震えてるこったろうぜ。なーんにも考えてない頭空っぽの女なんだろ? あんたの代わりにあっちを人質に取れれば違った楽しみもあったのによ。くっそ、ツマんねえと思っていたが、ヴィンツの目の前でお嬢さんをヤるのも悪くねえ」
その言葉にギョッとしてサッタールはもう一度重い目を開ける。ルキーノの身体から瘴気のような憎悪が染み出していた。
(狙いはやはり私よりも復讐か……ここはどこだ? 何が起きている?)
パニックを起こしそうになると、とたんに息が詰まった。意識して呼吸を整える。この状態でこの男の心を縛れるとは、とても思えなかった。
『アレックス! アレックス! どこにいる? ルキーノの狙いは元帥とイリーネ嬢だっ。二人を、守って……』
心に血管が通っていたら破けそうなほどに叫ぶ。
『サッタール、ショーゴだ。今、おまえに力をやる。イルマに伝えろ』
ずっと待機していたのだろうか、ショーゴの気配がして、力が増す。
『アレックス! 聞こえてくれっ!』
『サッタール? サッタールか? 無事か? 今どこにいる?』
アレックスの声はすぐ近くに聞こえた気がした。
『わからない。外だ。でも多分、元帥の邸に向かっている』
『そうか。いいか、君は何が起きても自分を守ることを考えて。元帥もイリーネ嬢もちゃんと守る。もちろん君も。もう少し、耐えてくれ』
アレックスは冷静に答えてきた。そしてルキーノは、人気の少ない静かなミュラー元帥邸へと侵入していった。
「くそったれめ。俺がここに来ると察知していやがったか……」
吐き捨てるようにルキーノが呟いて、誰何する者もいない門を通り過ぎ玄関から堂々と入っていくのを、サッタールは感じた。頭に血が下がって酷く痛む。いや、全身が悲鳴を上げそうだった。それでも、絶えずかけられるアレックスの声がその痛みを和らげていた。
『すべての手配は終わっている。大丈夫だ。絶対に助け出すから。もう少しの我慢だ』
返事がなくても構わずに話しかけてくるが、その心の奥から隠しきれない不安が漏れてくる。
ルキーノが書斎のドアを開いた。そこにミュラーが一人で待っていた。
「やあ、ルキーノ・ボルペ。初めましてだな」
元帥は仕事机から動かず、サッタールを肩に担いだままのルキーノに向き合った。
「あんた一人、ってこたぁねえだろう。どうせあちこちに兵がいるんだろ? 奇襲の得意なあんたのことだ」
「否定はせんがね」
元帥は無表情に銀狐を見上げた。
「それで? 君は私を殺せれば満足か? ならばそのマシンガンで撃ってみたらどうかね? 君がその体勢で人質を抱えていては、いくら腕利きのスナイパーでも撃つことはできんからな」
「そんなにこのガキが大事か?」
「コラム・ソルと友好関係を築くのがわしの最後の仕事だからな」
「友好だと? 笑わせるぜ。どうせこいつを中央府の人質扱いにして、その間にちっぽけな島にミサイルでも撃ち込む手はずだろ。皆殺しにしてから悠々とそこにあるお宝を奪うのがあんたたちのやり方だ」
「なるほど。そう言って、ミスター・ビッラウラは納得したかね?」
「最初からこんな得体の知れねえ化け物と手を結ぶつもりなんざねえよ。こいつらは人間じゃねえからな。だが人間のくせにあんたたちの方がよっぽど性悪だぜ」
「君は私の息子夫婦を殺しただろう。それだけではまだ、君の復讐心は満足しなかったか」
「ああ、しねえな。七万の都市を焼き尽くしやがったあんたにはな、足りねえよ。一瞬のうちに炭化していく人間を見たことあるか? 燃えた身体のまま歩く幽霊は? 垂れた皮膚を引きずって、一杯の水を求める子供は?」
ルキーノの声が大きくなる。サッタールはその心に浮かんだ記憶に、息を飲んだ。ルキーノはその場所にいたのだ。
石の壁が火を噴いていた。爆風の為か、飛び出た目玉を押さえて泣き叫ぶ女がいる。その隣には炭化した自分の足をぼんやりと見ている男がいた。
折り重なった死体と断末魔の声。大気に充満する酷い臭いと降り止まない灰。
ルキーノは、運良く遮蔽のあるところにいた為に無傷でいる自分が信じられず、呆然と立っていた子供だった。
「俺はなぁ、ヴィンツ。あんたから大事なものを全部奪い取るって誓ったんだ。息子と嫁の最後を知ってるか? 嫁と娘をかばった息子は、顔の見分けもつかなくなるまで穴を開けてやった。娘を隠して地下室の鍵を飲み込んだ嫁はなぁ、俺の手で丁寧に腸を引きずり出してやったぜ。生きたままな。泣き叫ぶ声がうるさかったけどよ」
「だがイリーネはまだ生きている」
「今日を命日にしてやる。娘を出せよ。そしたらこのガキは返してやる。てめえの目の前で死んでいく孫娘を見ながら、化け物との友好でも何でも唱えてろっ」
ルキーノは腰からナイフを取り出し、サッタールの首筋に刃を当てた。不安定な体勢で、喉が薄く切られ、血が流れる。
元帥は厳しい顔でその有様を見つめ、大きく息を吐いた。
「イリーネなら邸にいる。差し出せば、ミスター・ビッラウラは返すと誓うかね?」
サッタールは不自由な口を渾身の力で開け、叫ぼうとする。
『動くな、サッタール。頼む、君が死んでは何にもならない』
アレックスの懇願する声が聞こえた。まさか本当にイリーネ嬢を連れてくるつもりか?
『そんなことは駄目だっ! 彼女を守れ、アレックス。絶対に引き渡したりなんか』
その瞬間、その本人の声が響いた。
「イヤよっ、嫌っ。なんで私が犠牲にならなくちゃいけないのよ――っ!」
ルキーノがドアを振り返り、ナイフを床に捨てて短機関銃を構え直す。
サッタールは最後の力を振り絞った。
『動くな――――っ!』
血が沸騰した気がした。サッタールの心がルキーノの心ともみ合う。
マシンガンの銃口がだらりと下がる。
黒い影が書棚を蹴破ってルキーノに体当たりした。
次の瞬間、銃声が響き、ルキーノの右手と左膝が砕け散る。
獣のような断末魔の咆哮があがった。
かすれがちなサッタールの目に、銃を構えたジャクソンとマクガレイの姿が映る。
「大丈夫か、サッタール?」
体当たりをした黒い影はアレックスだった。マクガレイの肩につけた通信機からはまだイリーネの声が聞こえる。
「酷いわ、お祖父様。やめて、わたくしをあんな奴に引き渡さないで」
「お嬢さん。作戦は終了しました。もうよろしいですよ」
マクガレイが言って、そのまま通信機のスイッチを切ると、あとはルキーノの呻き声だけが残った。
床でのたうつ銀狐の目が、近づいて来る元帥を捉える。
「やっぱりな……卑怯な手を……」
「卑怯でもなんでも、わしは軍人だ。守るべき者は守らなくてはいかん」
冷たく言ってから、元帥は痛ましげに銀狐を見下ろした。
「このまま警察に引き渡されるのと、ここで終わりにするのと。君が選びたまえ」
ルキーノの血に濡れた手が床を掻いた。
「あんたの手で殺せ。あんたの血塗れの勲章にもう一つ飾りをつけ加えてやる」
「わかった。家族の元に行け」
ミュラーは静かに腰の拳銃を取ると、ルキーノの胸に向かって引き金を引いた。
第二章はここで終わりです。
第三章はからは解決したかに見えた銀狐事件。でも本当に偶発的なルキーノたちの単独事件だったのか? そしてサッタールは能力者をこの社会に受け入れさせることができるのかを書いていきたいと思います。
ラストまでお付き合いいただければ幸いです。