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第1幕 生まれて初めて 恋をした

「あ、あの、ですね」



「・・・なんだ」




「あのー・・・」




「・・・なんだよ、言えよ」




「・・・」




「・・・」




「げ、元気だしましょ!!」




「出ないわ!!!!!」




「えー」




「帰せ・・・俺を今すぐ元の世界へ帰せ!」




「いや、そう言われても困ります。やり方わからないですし」




「なんでそこはすぐ言うんだお前」




「んー?」




二人(?)はオカルト愛好会の会室に隣り合って座っていた。

言葉を発するけろちゃんと魔女のコスプレに興じる女子高生。

傍目に見れば首をかしげそうなシチュエーションの二人であった。



時間は僅かに遡る。




意識を取り戻し、僅かに目を開けた柊の瞳に映るのは頭を抱えて打ちひしがれる地獄からの使者(?)の姿だった。


「・・・」


その姿を目にした瞬間に先程までの記憶が一気に呼び起こされる。


(い、生きてる)


自分の体が五体満足な事を確認して、柊は少し落ち着きを取り戻していた。


どうやら自分は親より先立つという不幸を免れたようだ。


そうなると、今度は目の前にいるソレが異常に気になりだす。


(な、なんじゃこりゃー)


パッと見はコスプレをしている人間のようであった。(柊も魔女のコスプレ中であったので、なんだかコスプレ同好会のようである)


しかし、よくみるとその頭から生えている角はレプリカなどという次元の作りではなく、明らかに命の宿るものが生やす現実感を伴ってそこに存在している。


牡羊の角にそっくりだ。


目まで隠れるような黒髪に、背中には白い翼が輝いている。


爪は長く鋭く、振りかざされれば柊の体など簡単に引き裂かれそうだ。


(ほ、本物?)


体は大きく、2m近くかそれ以上あるだろう。


(カ、カッコエエ・・・)


悪魔である。


これは誰がなんと言おうと悪魔である。


(儀式が・・・成功しちゃったの・・・?)


柊は徐々に興奮を覚える。


儀式が成功したのだ。自分が悪魔を呼び寄せたのだ!


いや、悪魔どころの騒ぎではないかもしれない。


人間には到底備わらないであろう、その威圧感たるや、柊の肌がピリピリと振動を感じるほどのものである。


明らかな異常が柊の目の前に存在していた。


《ん?きづいたのか?》


悪魔さんが意識を取り戻した柊に気づき、頭を抱えていた手を離して顔を上げる。


真っ赤な瞳をしていた。


「え、えと・・・」


瞳が聞いたことのない言葉だった。


《・・・ああ、そうか、すまん》


しばし柊を見て不審そうにしていた悪魔さんが、何かに気づいたような表情を顔に浮かべる。


「これでわかるか?」


「ひゃっ!?」


今度はその悪魔さんが日本語をしゃべる。


柊の頭の中で直接声が響くような感覚であった。


「わかるか?わかったら頷くなりなんなりしてくれ」


コクコクと柊は頷く。


なんとも不思議な感覚である。


念話、という類のものだろうか?


「お前、念波を言葉に載せることができるか?」


「念波?」


柊が悪魔さんに聞き返す。


その言葉を聞いて悪魔さんは一層困ったような表情を強くする。


「伝わっていないのか?念波だ。念波の事知っているか?」


フルフルと首を左右に振る柊をみて、悪魔さんは再び頭を抱えた。


《なんてこった・・・念波も載せられないのか・・・。魔法系の種族じゃないのか・・・?しかし念波も知らないって、一体どういう・・・》


「?」


何やら失望されているようである。


機嫌を損ねたのだろうか。冷や汗が出てくる。相手がどんな凶行に出るかもわからない状況で、あまりよろしいとは言えないシチュエーションだった。


「良いか?よく聞いてくれ」


頭を抱えたまま悪魔さんが再び口を開く。柊はなんとなく居住まいを正して正座した。


「今、俺は自分の言葉に念波を乗せて話しているからお前は俺の言葉はわかるだろう。でもな、お前も言葉に念波を乗せてくれないと、俺はお前の言葉が分からないんだ。」


「?」


柊の言うことが伝わっていない、ということだろうか。


そう言われても柊はどうすることもできない。


念波?


なんだその素敵な響きのものは。


念話とは違うのだろうか?


「つまり、今おれは自分の言葉に自分の意思を乗せて話してるんだ。だから今、お前には俺の言葉はお前の話している言語で聞こえているはずだ。だけどな、俺が喋っているのはお前の喋っている言語とは全く違うもんだ。だからお前も念波を言葉に乗せてくれないと、俺からお前の一方通行でしか意志の疎通ができないんだよ。ここまで分かったか?」


「は、はい。わかります」


相手の日本語(に聞こえる言葉)に思わず日本語で返す柊。


悪魔さんが困った顔を向けることで、慌てて頷く事で肯定の意思を伝えなおす。


「これじゃぁ埒があかない、仕方ないから、直接お前とリンクを繋ぎたい」


「リンク・・・?」


不思議そうな顔をする柊に悪魔さんが説明を続ける。


「お前が意識を失っている間に考えていたんだが、どうも突然現れたのはお前やこの空間じゃなくて俺の方なんじゃないか?この部屋・・・お前、なにかしらの魔術的な行動をとっただろう。魔力の密度が異常だぞ・・・。まぁ、お前の驚き様からみて俺は単なる副産物なのかもしれんが・・・。念波のことも知らないのにこれだけ異常な魔法を行使するやつなんて聞いたことがない・・・。それなのにこれだけの文化力だ。地方の未開種族ってわけでもなさそうだし、なんなんだお前・・・?」


なんだ、と聞かれても・・・。女子高生です、としか言えない。

あえて言うなら、オカルト愛好会の会長である。


「まぁいい、とにかくリンクを繋げないと不便で仕方ねえ。あんまりやりたくないんだが・・・」


さっきからこの悪魔さんが言っているリンク、とはどういう意味なのだろう。

悪魔さんの言葉が自分の頭の中で変換されているらしいので、若干ニュアンスの違う言葉である可能性があるのだろうか?

なんにせよ、柊が知っているインターネットのリンク、とは違う代物に違いない。


「まぁお前の気持ちも必要なもんだし、勝手に繋げるわけにもいかないからな。念波も知らないんだ、リンクの事も知らないんだろ?」


柊は頷く。


そういえば最初の恐怖はどこへやら。気づけば目の前の明らかな異形の生き物と普通に会話している柊であった。


「リンクってのはな、簡単に言えば精神の同調に近い。チャンネルを合わせればどんなに離れていても意志の疎通が可能になる。念話の大前提だな。詳しい話は今は省くが・・・」


そこで悪魔さんが一瞬言葉につまる、何か躊躇しているような様子だった。


「まぁ要するにお互いがお互いを使役する状態になるって感じか?うまく言えないが・・・リンクをつなげると精神がつながるんだ。心情の上では家族か、それ以上の繋がりが生まれる可能性がある。お互いがお互いに主従の権利を手に入れる。まあ強度は相性にもよるから、そんなに強い繋がりが生まれることなんて滅多にないと思うが・・・」





きき




「・・・?おい、聴いてるのか?」



きた・・・




この悪魔さん




今、使役と言っただろうか




なんと中二心をくすぐる言葉であろうか。



あ、悪魔を使役する?




「お、おい」




悪魔さんがうろたえたような声を出すが、柊の精神は完全に雲の上であった。



悪魔を使役する?



夢のようであった。



オカルト好き女子高生、苦節16年と7ヶ月。



数多の困難を乗り越え、遂に柊はこの境地へたどり着いたのであった。



頭の中でファンファーレがなる。

天使が舞い、花びらが盛大に吹き荒れる。

天使たちが悪魔の使役を祝福してくれる。

『祝!悪魔使役記念!』

ありがとう!ありがとう!

逢坂柊は、これから世界の覇者になります!

悪魔を使役して世界存亡の危機と戦います!

襲い来る未知の敵、響き渡る絶叫、血で血を洗う戦闘の日々!

さらば日常!

こんにちは異常!

ありがとう!

本当にありがとう!

逢坂柊は、普通じゃない女の子になります!


「おいっ!!!!!!」

「・・・はっ!?」


ガクガクと肩を揺さぶられて柊は我に返った。


目の前には悪魔さん。泣きそうな顔をしていた。


「気をしっかりもて!お前から話しを聞けないと行動するにしても始まらねえんだ!」


「す、すすすみません!大丈夫!大丈夫ですよー!」


柊は右手の親指をグッと突き出してウインクをかます。


「だ、大丈夫なのか?あとお前、よだれ垂れてるぞ」


悪魔さんが困った表情で柊の口元のよだれを指摘する。


「おう!?」


グイグイとヨダレを拭き取った柊は、改めて悪魔さんを正面からみつめた。

最初に感じたような恐怖は、今はもう感じていない。


「リンクしましょう!全然オッケーですリンク!早く!早くリンクを結びましょう!」


柊が悪魔さんにくってかかる。

当の悪魔さんは急に積極的に自分に迫ってきた柊にたじろいでいる様であった。

ちなみに柊が何を言っているのか、当然悪魔さんは理解できなかったが柊にとって既にそんなことは記憶の遥か彼方である。

今はとにかく目の前の悪魔とリンクを結ぶことにしか頭が回らない。


「どういうことだ?良いのか?」


「良いです!全然良いです!限りなくイエス!絶対的に本望!バッチコーイ!」


グルグルと柊が喜びの舞を踊る。


果たしてその奇怪な舞が肯定の意味と捉えることができるのかは、なんとも言い難い光景ではあった。

なんかもう色々とひどい。


「良いのか?繋げるぞ?本当に構わないのか?よく考えろよ?」


「くどいわ!ひと思いにやっておしまい!!」


こいよこいよ!と両手で柊が悪魔さんを挑発する。


なんだかムカつくなーコイツ、と悪魔さんは思ったが、幸いそれで怒りをあらわにする程悪魔さんは子供ではなかった。


「じゃぁ・・・、これから俺とお前をリンクさせる・・・」


「うっほー!待ってました!焦らすにも程があるってもんですよ!」


柊は居住まいを正して正座をする。


その顔は期待に満ち、キラキラと輝いていた。


「一つ、最後に注意するが、リンクはつなげることは出来ても塞ぐことはできない。一生俺とお前は絆でつながり続けることになる」


「・・・」


「・・・嫌か?」


「か」


「ん?」


「カッコエェ・・・」


「なんだって?もしかして嫌なのか?」


「あ、いやいや、そんなことないですよ!大丈夫ですよ!構いませんよ!」


「・・・?まぁいい。それじゃぁ始めるぞ」


「は、はい」


悪魔さんが柊のそばにより、その手を取る。







「我、貴公の剣となり、その敵を打ち破らんとする」


「お、おぉ・・・」



我、貴公の盾となり、其の全てに安寧を図らんとする


我、貴公の鎧となり、其の痛みを受け止めんとする


我、貴公の礎となり、其の重みを支えんとする


我、貴公の影となり、其の道程を見守らんとする


我、貴公の羽となり、其の望む場所へ導かんとする


我、貴公の太陽となり、其の足元を照らさんとする


我、貴公の星となり、其の迷いを断ち切らんとする


我、貴公の友となり、其の喜びを分かちあわんとする


我、貴公の父となり、其の勇気を育まんとする


我、貴公の母となり、其の愛を育まんとする


我、貴公の夫となり、其の命を支えんとする


我、貴公の妻となり、其の夢を支えんとする


我、貴公の子となり、其の希望を育まんとする


我、貴公の全てとなり、其の全てと共にあらんことを誓う


誓約をもってして、我、、その全てを貴公のものとする


誠実に答えよ






「貴公、我の全てとなり、その全てと共にあらんとすることを」







羽が輝く、光が満ちる。







「 誓うか 」






誠実に、答えよ













「誓います」











その瞬間に、体は光に包まれた。


温かいものが、体に流れ込む


切なさに、身が切り刻まれそうになる


喜びに、涙が止まらなくなる






あぁ、こんなにも





今まで自分は一人だったのだ





今はその手の温もりしか感じられない悪魔の、戸惑いの訳を知る。





愛おしい。




こんなの、離れられるわけがない




頭がおかしくなりそうだった。




胸がはちきれそうだった。




愛おしい。




抱きしめたい




触れていたい




そばにいたい




見つめていたい




声を聞きたい




全てを知りたい




全てを与えたい





愛おしい








           誠実に答えよ







            誓うか








           「誓います」










生まれて初めての






恋をした事を知った。









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