第12幕 303 See Other
・・・。
あぁヴァンス、おはよう。
よく眠れた?
・・・そう。
えぇ、私もしっかり寝たわよ。心配しないで。
これ?
うん、エドの事をどうにかして探せないかと思ってね。
私のオーブから、あの時の記録を読み出しているのよ。
・・・。
いいえ、ダメね。
いくつか不審な点があるのはわかるんだけど、だから何?って感じ。
・・・。
大丈夫よ。今は落ち着いてるから。
・・・。
いいえ、気分が悪いわけじゃないの。
落ち込んでいたって仕方ないでしょう?
今はできることをしなくっちゃ。
?
あぁ、そんなに心配そうな顔をしないでよ。
別にみんなのことを放り出すつもりなんてないから。
ちゃんとやるべきことだってやるわよ?
今朝も集落跡を見てきたわ。
・・・。
いいえ、戦ってはいないけど、見た感じだいぶ入り込まれちゃってたわね。
うん。
今、なんとか出来ないか考えてるからもう少し待って。
みんなには苦労をかけるわね。
こんな穴蔵暮らし、この前までで終わりだと思っていたのに。
みんなの落胆も大きいでしょうね。
・・・ありがとう。あなたがそう言ってくれるだけ、私はマダましね。
うん。
え?
あぁ、不審な点?
んー・・・。
そうね、例えば・・・。
本当によく分からないんだけど、エドが消える瞬間よりもほんのわずかに前に、私とエドとのリンクが妨害されているのよね。
・・・。
いいえ、どこからかは分からないわ。
うん。
ダメよ、オーブの検索でも引っかからない、こんな事ってあるのね。
・・・。
どういう風にって・・・。
そうね、妨害って言っても・・・。
なんて言ったらいいのかしら、私が感じた感覚でいうと・・・。
圧迫されたような感じかしら。
・・・。
私だってよくわからないわよ、あんな感覚初めてだったもの。
本当に例えでしかないけど、私とエドのリンクのトンネルに、無理やりに何か大きなものをねじ込まれかけた・・・。
そんな感じ?
いいえ、わからないわ。
本当に一瞬でエドが消えてしまったんですもの、リンク切れを起こしたのが前か後か、判断なんてつかないわ。
え?
・・・。
そうね、確証はないけど、感覚で言えば消えたほうが先かもしれない。
圧迫感を受けたのは消える前だけど、その時にはリンク切れまで起こしている感覚はなかったと思う。
・・・。
え?
なにを・・・。
いくらなんでも突拍子もなさすぎるわよヴァンス。
そんなことどうやって証明できるの?
大体、ここ以外の世界って何よ、見たことでもあるの?
・・・。
エドが?
そんなこと話してたの?
・・・。
それで?
・・・。
ふぅん・・・。
うん。
・・・。
それって、エドも別に確信してたわけじゃないんでしょう?
・・・。
じゃぁ、やっぱりただの妄想じゃないの?
・・・。
そんなこと、理由にはならないわ。
大方どこかの誰かに誘拐されただけでしょ。
混乱した家族が適当なことを言っているだけだわ。
・・・。
言うだけなら誰だってできるわよ。
本当にエドの時と同じように掻き消えたのかすら、怪しいものだわ。
・・・。
・・・ヴァンス、別に私は悲観にくれてるわけじゃないわ。
より確実な方向に進みたいだけよ。
今わかっているのは、私の目の前でエドが消えたこと、そしてエドのオーブが連結先のエドを失って効力を発しなくなったこと、それによってトラップが発動せずにファルーク族の侵入を許したこと、ファルーク族にエドのオーブを破壊されたこと、そして、私とエドのリンクが圧迫されて、挙げ句の果てに完全にリンク切れを起こしたこと、どうやってもエドの存在が検索に引っかからないこと。
これだけよ。
これだけしか、わからない。
・・・。
いいえ、大丈夫、さっきも言ったでしょう。
もう、落ち込んでいても仕方ないの。
死んだなんて、思わない。
エドなんだもの。
あんなに理不尽に、死ぬわけがない。
エドの死体を見るまでは、絶対にそんなこと信じない。
だから、私は頑張るわ。
エドが生きているなら、きっと同じように頑張ってる。
なんとか、皆のところへ、・・・私のところへ戻ってこようとしてくれている。
あの人は、強いから。
落ち込んだりなんて、しないわ。
いいえ、違うわよね。
落ち込んだって、ちゃんともう一回前を向けるもの、エドは。
だから私も、いつまでもクヨクヨなんてしないの。
エドを見つける。
絶対に、生きてもう一度エドに会うの。
そしたら、エドに全てを話すわ。
エドの妹の・・・、ジェシカのこと。
ジェシカがどうして逝ったのか。
どうやって最期を迎えたのか。
私が、どんなに無様にジェシカを助けられなかったか。
・・・。
違う。
そんなんじゃない。
・・・。
ヴァンス。
私ね。
本当に、エドが好きなの。
どうしようも無いほど、好きなの。
エドとリンクを繋げた日から一日ごとに、・・・ううん、一秒ごとにエドとのリンクが大きくなっていくのを感じてきたわ。
私とエドって、あんまり相性が良くなかったのかもしれないわね。
最初は、本当に弱いリンクだったから。
・・・。
そうね、ジェシカの事があったから、私に負い目があったことも関係があるのかもね。
・・・。
別に慌てなくて良いわよヴァンス。
あなたがそんなつもりで言った訳じゃないことなんて、ちゃんと分かってる。
・・・。
本当に、弱いリンクだった・・・。
視野記憶すら、見えなかった。
最初は私もエドも、本当にリンクが繋がったのか分からなくてキョトンとしたのよ。
あの時のエドの顔、あなたにも見せたいわ。
子供みたいに不思議そうな表情を浮かべてた。
・・・。
視野記憶が見えるようになって、位置検索ができるようになって、念話ができるようになって。
毎日が、幸せの連続だった。
いつから、エドを好きになったかなんて、もう分からないほど、気づいたらエドの事以外考えられなくなってた。
自分の感情までエドに流れ込むようになっちゃって、もう、私の気持ちなんてバレバレでね。
エドは、困ってたわ。
私の気持ちを、どう受け止めていいか分からなかったみたい。
それでも、エドはちゃんと考えてくれた。
エドって、律儀な人よね。
放っておいたって構わないのに。
必死になって考えて。
そして、応えてくれたの。
私の想いに。
・・・。
あんな幸せなんて、どこにもない。
私が想う人が、同じように私の事を想ってくれるなんて。
こんな幸せ、私が感じられるなんて夢にも思わなかった。
・・・。
ヴァンス。
私。
あの集落を取り戻すわ。
あそこで、エドが消えたんだから。
そして、私の目の前で一人のファルーク族が消えたのもあの場所なんだから。
あの場所に、きっと何かある。
絶対に、何かヒントがある。
・・・。
ヴァンス、力を貸して。
今は、あなただけが頼りなの。
エドを、一緒に探して。
ヴァンス。