1 7月7日☆
今日が七夕だって気づいたのは、午前0時、10分前だった。
何故そんな時間に気づいたのかと言えば、テレビを見ながらかなり遅い夕飯を食べているとき、ニュース番組のキャスターが屋外の映像を見ながら、
「今日は七夕でしたが、生憎の雨でしたね」
と言ったからだ。
そして、それと同時に思い出したのは、帰り際、二つ上の同僚に言われた一言。
「家帰っても飯ないんなら、食いに行くか?」
お互い残業帰り。
時刻はもうすぐ10時に近い時間だった。
私は呑気に
「いやー、今から食べると太りますからー」
なんて断った。
結局我慢できなくて、今ひとりでテレビ見ながら食べていると言うのに、だ!
何故、断った、私!!
と思えども、今更仕方ない。
あの時は、遅くなるのは面倒くさいという本能が真っ先にきてしまったのだ。
こんなところで自分の女子力のなさを思い知る。
「せっかくの七夕デートだったろうになぁ.....」
片思いの相手より自分優先なのは、ちょっと考えないといけないなと思いつつ、なけなしの女子力をあと5分にかける。
急いで机からハサミとペンを取り出して、電話横のメモ紙を一枚とる。
そして、短冊の形に切り取るとサラサラとマジックで願い事をかいて、窓にセロテープでくっつけた。
色々、色気も何もないが、これで勘弁、だろう。
「織り姫さま、彦星さま、どうかお願い叶えてください!」
パンパンと柏手を打つと、真っ暗な雨模様の外を眺めた。
先輩は単純に夕食の誘いだったろうし、私もあの時はそのつもりだった。
だけど、七夕だと知っていたならば、少しは違っていただろう、と思わなくもない。
窓に張られた短冊の願い事が今の私の精一杯の女子力だ。
<クリスマスに夕飯誘われたら、忘れずについていくように!>
それは、どう考えてもただのメモだろう。第一、クリスマスなら後輩じゃなくて誘うのは恋人だろう。
と織り姫が溜め息を吐いたかどうかは知らないが、ちょうど0時になろうとした瞬間、まるで図ったかのようにパラリ、と短冊が窓から剥がれて落ちた。
「ギャー、縁起悪い!!」
「ねーちゃん、うるせーー!!」
ドン、と隣の部屋の壁を弟が蹴る。
酒田 桃、24才。
女盛りと言えば聞こえはいいが、残念ながら七夕さえ忘れてしまう残念な女子力の持ち主が私だ。