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シンガポールのお食事事情 第3章

作者: junju

併せて第1章・第2章もよろしく。


 第3章 トウフステーキ



 オーストラリアの5月は遅い秋だ。もうすぐ冬が来る。


大隈昌子は、メルボルンのジーロングにいた。


ここはオーストラリアの南の端に近い。バース海峡を渡るとタスマニアだ。


おかげで夏はとても涼しくてすごしやすかった。


しかし秋が深まるにつれてだんだん居心地が悪くなってきた。


一つには薄ら寒い曇りの日が多くなり強い風が吹くようになった事だ。


雨は殆ど降らない。


二つ目には6月の終わりに昌子は二十五歳になる。


ワーキングホリデーで滞在しているので特別な事情がなければ出国しなければいけない。


特別な理由はある。しかしそれは人に言える話ではなかった。



 ホームステイ先は大工の父親と三人の子供達であった。


父親はスタンレー・エリオットといって四十代半ばの陰気な男だ。


エリオット家には母親がいない。


子供達はみんな男の子で上からクリストファー(十五歳)、ルーク(十歳)、


トビー(七歳)だった。



昌子は十二月のボーナスをもらって7年勤めた東大阪信用金庫を辞めた。


この2年程どんなに頑張ってもノルマを達成出来なかった。


家族も親戚も友達も知り合いという知り合いはみんな回ってしまった。


 ずんぐりガッチリとした大きな体と小さな目大きな口で、笑うと赤い歯茎が出た。


陰でアニマルと言われていることを知っていたが、いつも陽気で前向きに振る舞っていた。


そうするしかなかったからだ。昌子は図々しくて堪えない女になっていた。


しかしそれも限界だ。



 課長から4月に新採の女子を取るので辞めるか転勤するか決めてくれと言われた。


転勤先は通称ゴミ箱、五十代の女ばかり何名かいる電算資料室だ。


ここでデーター点検と処理後、5年を過ぎた伝票の廃棄処分をしていた。


人間関係は最悪で、新しく配属された人間は殆ど辞めていった。


一人増えれば誰かが辞めなければいけない。ゴミ箱と揶揄される理由だ。


 昌子はボーナスキャンペーンのチラシを握ったまま悔し泣きした。


チラシの中でサンタクロースがサングラスをしてサーフィンをしている。


定期貯金をするとオーストラリアの往復旅券が当るキャンペーンだ。



 翌月、昌子は真夏のオーストラリアへ旅だった。目的のある旅ではなかった。


行き先も何処でもよかった。ただ、今、ここに居ることに限界点が来ただけだ。


外国に行けば何とかなる気がした。


 父は何も言わなかった。いつも何も言わない。黙って卒塔婆を削っていた。


母は仕事を辞めたことをしばらく責めていたが辞めてしまったのでどうしようもなかった。


 昌子はワーキングホリデーを使ってホームステイをしようと考えた。


去年日本とオーストラリアの間に出来た旅行制度だ。


働きながら長期の休暇をオーストラリアで過ごす事が出来る。


ステイ先をエリオット家にしたのは職業が大工だったからだ。昌子の父も大工だ。


それと家に女がいないことも理由だった。お局や後輩の煩わしさは銀行だけで充分だった。



 洗濯の手を休めて目まぐるしく変わった半年を思い出していると呼ぶ声がする。


「マサコ マサコ 何してる?もう夕食の準備はできたか?」


「今、洗濯物を干してます。」


「マサコ 何度も言うけど、あんたもっと水を大切にしてくれんかね。


3日に一度は洗濯してるじゃないか。どういうつもりなんだ。」


スタンレーの不愉快そうな声がする。


しかし洗濯が十日に1回というのは昌子には耐えられない話だ。


空気が乾燥しているので、4人の男達は平気で1週間ぐらい同じ服を着ていた。もちろん下着も。


昌子はスタンの嫌みを聞き流して週に何回か下着だけ洗濯し、納屋に干していた。


毎日新しい下着を着るのが大変だなんてやっぱり遠くまで来たと思う瞬間だ。



 3ヶ月程前の話だ。洗濯物を取りに納屋に来ると人の気配がする。


そっと様子を伺うと、長男のクリスだ。


 何をして居るんだろうと見ていると、昌子のブラジャーやショーツを手にとって


じっと眺めている。彼はすぐ出て行ったが昌子は胸がドキドキして汗がじっとりと噴き出た。


 グリスは180㎝ぐらいの長身でとても十五歳には見えない。


顔立ちも悪くない。


オーストラリアに来てから昌子は自分の大きな体が気にならなくなっていた。


周りの人間がみんな大きかったからだ。


なんだか自分が可愛い女になったような気分だった。


それは今まで経験したことのない何とも愉快な感じだ。


その時から昌子はクリスを男として意識するようになった。



 夕食の準備に冷蔵庫を開けると食材が殆どなかった。


ベジマイトという真っ黒な瓶詰めがあるだけだ。


それはなんとも不思議な食べ物でさすがに昌子もどうにも料理の仕方がなかった。


 車で十五分程行くとグロサリーがあるが、スタンはほとんど食費を出さなかった。


居心地が悪くなった一番大きな理由だ。


 最初、彼が食事の用意をしていたが、毎日ウインナーの質素なバーベキュウと


ホットドッグが続いた。そこで、すぐに昌子が食事を作ることになった。


冷蔵庫にある食材でミートパイやサラダを作ると男達は感激して料理を誉めた。


昌子は舞い上がった。


今まで彼女に感謝したり誉めたりする男に出会わなかったからだ。


ジャガイモや玉ねぎを使って思いつく限りの料理を作った。


そのたび男達は喜んで食べ彼女を誉めた。


 やがてここでも少しは手に入る豆腐や醤油などを使って日本食を作るようになった。


昌子自身が食べたかったしオーストラリア米で御飯を炊くと意外に美味しかった。


クリスがとても喜んで豆腐ステーキを食べてくれた。


昌子はすごく嬉しかった。毎日がワクワクした。


 そしてある日。


 渡された食費が底をつきスタンに告げると足らない分は昌子が出すようにと言われた。


「ホームステイの費用には私の食費も含んで前もって払っているはずです。


皆さんの食費分は払ってください。」


「あんたが無駄使いしているから、わしらの家族の食費が足らなくなったんだ。」


「無駄遣いなんてしていません。」


「今までずっと同じ金額でやって来たんだ。あんたが高い物を買ったんだろう。」


確かに日本の食材は割高だ。昌子は仕方なく自分のTCを崩して買い物をした。


 それからもう4ヶ月になる。


だんだんスタンは食費を出し渋るようになっていった。


気まずくなるのを覚悟してお金を請求すると、昌子の料理のせいで食費が


かかるようになった、以前はもっと安く済んだの一点張りだ。


 みんな喜んで食べたのに今では当たり前の事になっていた。


でも少しでも料理の質を落とすと文句を言う。


クリスが毎日の様に豆腐や冷凍のすしを食べたがった。


昌子はクリスにはどうしても甘くなってしまう。


でもクリスばかりを優遇するわけにも行かず、結局食費が高くつく。


どうしようもない渦巻きの中に入ってしまった。


 昌子は段々減っていく所持金を見て日本に帰る事を考えた。



 グロサリーに行くと言うとクリスがついてきた。


いつも弟達に内緒でジュースやお菓子を買ってあげていたからだ。


「マサコ コアラのマーチ買って。」


クリスが無邪気に言った。


「いつも買ってるから今日はだめ。」


「んん・・・。」


クリスは頬を膨らませている。


横顔は大人なのにしぐさが可愛い。


「仕方ないわね。じゃ、キスしてくれたら買ってあげるわ。」


言ってしまった。顔があつくなる。


「何だ。そんなこと。」


クリスはいつもするように軽い挨拶のキスを頬にした。


「唇にも。」


こらえていた気持ちが吹き出てくる。


クリスは昌子に言われるままにキスをした。


 

 昌子とクリスの秘密はだんだんエスカレートしていった。


昌子はクリスを愛していたがクリスが昌子を愛するには子供過ぎた。


ただ興味本位に昌子に言われる事をした。


 秘密がばれるのは早かった。


その日もスタンが仕事に出かけるのを待ってクリスを納屋に誘い込んだ。


クリスが果てた時、納屋の戸が開いた。


ポカンとした顔でスタンが立っている。


昌子は慌ててクリスから離れた。


 スタンはその日のうちに、昌子を仲介した旅行会社に連絡して一方的に契約を解除した。



 昌子はメルボルンの安いビジネスホテルでクリスの事を思って泣いている。


二十五歳にして初めての恋だ。


いったいこの先どうなるんだろうと思うと恐ろしい。


 しかし一晩寝て朝食をとり落ち着いてくるといつもの堪えない昌子に戻っていた。


自分は人を好きになっただけだ。何も悪いことをしていない。


エリオット家の方が毎日の食費も出さず昌子をこき使ってきたではないか。


スタンと昌子は、今日ここで話し合う事になっていた。


クリスはどうしているだろう・・・。もう一度だけでいいから合いたい。





むむう・・・。なかなか読んでもらえないもんですね。


ぼちぼちいきます。(泣)

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