↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

私、殿下が婚約破棄したお相手から殿下を奪った女らしいです。お会いしたこともありませんけれど

作者: はぐれ犬
掲載日:2026/09/18



「あなたが、セーラ・ルドルフね!」


突然、入り口からそんな怒声が聞こえてきた。


「なんですか?」


「お邪魔いたします!」


「ちょっと! なんですか、いきなり入ってきて!」


制止するよう促すセーラだったが、ここでふと気が付く。


どこか見覚えのある顔だと。


けれど、直接話した記憶はない。


「メリル様?」


そう。突然ルドルフ家に怒鳴り込んできたのは、従者を引き連れたメリル・ガーネット公爵令嬢だった。


メリルはガーネット公爵家の一人娘であり、つい三ヶ月ほど前、ディアモ第一王子殿下から選ばれた未来の王太子妃、その婚約者だ。


そんなメリルが突然上がり込んできたのだから、セーラの目も丸くなって当然だった。



「どうかされましたか? メリル様」


「よくも……っ! よくも、ディアモ様の心を弄んでくれたわね!」


「……どういうことでしょう?」


意味のわからないセーラだった。


「セーラ!」


そこへ、王宮に呼び出されていた父が帰宅した。


父は屋敷の扉を開けるなり、佇むメリルなど気にも留めずに口を開く。


「大変だセーラ! ディアモ殿下が、お前を新たなる婚約者にすると宣言なされた!」


「え、え? 私を?」


「……そうよ!」


驚きがやや勝ったが、ここでようやく理解した。第一王子の婚約者が、いきなり血相を変えて上がり込んできた理由。


"元"になったのだから無理もない。


それに加えて、この怒りの矛先。


間違いない。


「メリル様。誤解です」


「なにが誤解なものですか! 人の婚約者を奪っておいて! 許さないから! お陰でわたくしは……わたくしは……!!」


婚約破棄されたのだという。


しかしながら、すでにセーラには婚約者がいた。そして何より、ディアモ殿下が自分を婚約者に選ぶはずがないのだ。


「だって私、殿下と直接お会いしたことも話したこともありませんもの」


「嘘よ!」


「本当です。それに、私にはすでに婚約者がいますから」


「セ、セーラ、そのことなのだが……!」


申し訳なさそうに父が口を挟む。


どうやら、その婚約は解消になりそうだと。


無理やりセーラの婚約を解消させ、ディアモ殿下は自身の新たな婚約者になるよう企てたそうだ。


「そんなの、勝手です!」


「……ディアモ様ならやりかねないわね」


その身勝手さとセーラの反応から、メリルはセーラの主張が本当であり、今回の婚約破棄はディアモ殿下の一存によるものだと悟った。


「娘には婚約者がおりますと何度も言ったのだが、まったく聞く耳を持ってくれなかった」


「構いません。今度は私が、直接ディアモ殿下に説明しにまいります」


「いや、その必要はない」


父は首を振る。


「どうしてですか?」


まもなくやってくるからだ。


ディアモ殿下が、ここに。


本人に直接、婚約を宣言する気らしい。


「こんな所で出くわしたら不味いわね。ひとまず、一旦失礼いたします」


「帰しません」


「……なんですって?」


「帰しませんと申したのです。ディアモ殿下がくるまで、2階手前の部屋に隠れていてください。何が本当でこれからどうするべきか、ご自身の耳で話を聞き、ご自身でご判断ください」


「ちょっと。あなた、どういうつもり?」


「どうもこうもありません。いきなり上がり込んできて、人を悪者扱いしておいて、一方的に失礼されても困ります」


「だ、だから、それは!」


「メリル様。あなたには聞く義務があり、判断する権利があります。さぁ、2階へ」


促されるまま、渋々メリルは2階へ向かった。


そしてほどなくして、王家紋章を掲げた馬車がルドルフ家の前で停車した。


ディアモ・メリザレム第一王子殿下だ。


「失礼する。……うむ、やはり美しい。セーラ嬢」


「ようこそおいでくださいました。お初にお目にかかります、ディアモ殿下。ルドルフ伯爵令嬢のセーラ・ルドルフです」


「お初ではない。君のことは前回の王家主催の夜会で見かけ、あの日から、ずっと気にかけていた」


「……光栄です」


「うむ、物わかりが良くて助かる。セーラ嬢、喜べ。このたび、君を僕の婚約者として正式に認めることにした」


「ご遠慮させていただきます」


「……なに? おい、ルドルフ伯爵。先に帰っておいて娘に何も伝えていないのか?」


「いいえ、父からは伺っております。ですが、私にはすでに婚約者がいますので」


「フレーデルか。あんな伯爵家の令息、取るに足らん」


「お言葉ですが、それは殿下がお決めになることではないかと」


「僕は次期王太子、ディアモ第一王子だ。僕の婚約者は僕が決める。陛下も承諾済みだ」


「私も、殿下の婚約者は殿下がお決めになられたら良いと思います」


「わかったならいい。早速ーー」


「ですが、私の婚約者は私が決めます。私は、殿下の婚約者にはなりません」


「なんだと? 言わせておけば貴様……」


「それに、殿下は何か誤解しております。確かにフレーデルは昔からの幼なじみで、仲の良い間柄ではありますが、私の婚約者ではありません」


「馬鹿を言うな。調べはついている。そのような容易い嘘でこの僕をーー」


「殿下こそ、父から何も聞いておりませんか?」


「なに?」


「お父様は申し上げたはずです。私にはすでに婚約者がいて、ディアモ殿下の婚約者にはなれないと」


「覚えているよ。なあ、ルドルフ伯爵。しかし僕はこう言ったはずだ。その婚約は解消だと!」


ディアモの威圧的な視線に、父は小さく丸くなる。


「確かに。仰られていましたが……」 


「そうだろう! どうだ、セーラ嬢! 僕は確かに君の父君にそう宣言してーー」



「人の大事な婚約を、そんな自分勝手な理由で解消にはさせません。セーラの父君には、帰り際に私からそう伝えました」



屋敷の入り口から、青年の声がした。


「見損なったぞ。ディアモよ」


そして二つ目の声も。


ディアモからすれば、どちらも聞き慣れた声だった。


「父上!? ハンスも!! な、なぜここに!?」


国王と、第二王子のハンスだった。


「お忙しい中、ご無理を言って着いてきてもらったのです。兄上が私の婚約者を奪おうとしていることを伝えて」


「自身の婚約者との婚約を一方的に解消し、その上、人の婚約者を無理やり奪おうとは」


ディアモは焦った。


まさか突然、父親であるライザル陛下と弟のハンスがやってくるなんて。


それだけではない。

聞き間違いでなければ、今、ハンスの口から婚約者と聞こえた。


「婚約者!? ば、馬鹿な! セーラ嬢はお前の婚約者なのか!?」


「はい」


「ち、違う! そんなはずはない!」


「ディアモ殿下、間違いではありません」


セーラはすっとハンスの横に付き、口を開いた。


「そんな、いつから……!」


「殿下が、私を目にかけてくださったと仰った前回の夜会。その後です」


「ディアモ」


「ち、違うのです、父上! ハンスの婚約者だとは知らなかったのです! 本当です!」


「ハンスの婚約者でなかったから良かったと言うのか?」


「いや……その……」


ディアモは黙るしかなかった。


その時、2階から駆けてくる足音がした。


メリルだ。


「メリル!? ど、どうして君がここに!? くそ、何がどうなっている!」


「ディアモ様には関係ありません。時に陛下、ディアモ様との婚約解消についてですが、正式にお受け致します!」


「メリル! ちょっと待ってくれ!」


「離してください! あなたから言い出した婚約破棄です! こんな御方だとは思わなかった!」


メリルは縋るディアモの腕を振り払い、セーラに向き直った。


「ごめんなさい、セーラ。わたくし、確認もしないであなたを悪者扱いしてしまって……」


「いいえ、勘違いは誰にだってありますもの。どうかお気になさらず」


「ディアモ。お前の立太子について、今夜話がある」


「父上! お待ちを!!」



国王陛下のあとを泣きっ面で追いかけるディアモ。メリルも、セーラとセーラの父親にしっかりと詫びて一礼し、屋敷はすっかり静かになった。



「ところでお父様、ディアモ殿下に言わなかったのですか? 私の婚約者がハンス殿下であること」


「伝えようとしたさ。何度も。そんなもの解消だ!の一点張りで、これ以上ゴタゴタ言うと不敬罪だ!と、もうどうしようもなかった……」


肩を落とす父に同情するも、セーラはひとまずハンスに一礼をした。


「ハンス殿下。お手間をお掛けして申し訳ありませんでした」


「自分の婚約者が取られそうになって、手間もなにもないだろう。君は私の愛する人だよ?」


セーラはハンスの腕の中に収まった。


頬を赤く染めながら微笑む。


「嬉しいです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。