新しい登場人物が参戦
新しいエピソードを思いつきましたので、投稿させていただきます。
アレクサンドロス学園の秋の朝。
ナパイアイのクロリスは、自室で音楽を聴いていた。
日本ゲーム史において屈指の名曲『デッドファイトIN大橋』の原曲版を、レコード再生していたのである。
レコードは本来消耗品であるので、何度も聞いていると音は劣化していく。
彼女はこの音楽を特に好んでおり、何枚もレコードを消費するほどであった。
食事のさなかに聞くとかではない。純粋に音楽を楽しむ時間を設けており、他のことは一切しない。
なんとも贅沢な時間を使っている彼女であったが、表情は苦悶であった。
「オレイアデスのエコーも、私と同じ気持ちなのでしょうね……」
ーーー日本には、夜景がきれいなレストランなるものがあるという。
都会の高層ビルやホテルの上層にあり、街の明かりを見下ろしながら高級な食事をするという。
これを腐すものもいるらしいが、それは了見が狭すぎる。
素敵な体験をするためには必要な施設だ。
そこに努める人々の尽力によるものであり、尊いものだ。
仮に同じ料理であっても、雑に使い捨ての紙袋に突っ込んで、それを公園のベンチでもしゃもしゃ食べていたら、もったいないとしか言えまい。
少なくともエコーはそう考えるだろう。
クロリスも同じだった。
この『デッドファイトIN大橋』は素晴らしい曲だ。
彼女はとても好きだ。
だがこれは『デジタルゲームのBGM』だという。
単に演奏するものではなく、BGMなのだ。
それは悪いことではない。尊重すべきものだ。
オペラやミュージカルの音楽を、歌も劇もなく演奏単品で聞いているだけのようなもの。
「憎い……オルプネが憎い……。あの女、先日の音楽の授業で『旅立ちの街にて』が流れたときに『コレ、ゲームのOPで聞いた曲だわ!』とほざきあそばせやがった……! きっと、デジタルゲームの状況が鮮明に浮かんだに違いない。それこそ作曲家が意図したように……! 私もそれがしたいのに……!」
音楽を愛するということは、作曲家を尊重するという事。
作曲家が意図していない楽しみ方をしている自分が恥ずかしくて仕方ない。
ゲームだけではない。
アニソンだって、歌って踊るアイドルの曲だって、日本でしか真に楽しむことはできない。
行きたい。
偉大なる作曲家たちが曲に託した使命の結実を確かめたい。
それをぬきにして、この音楽を真に愛していると言えるはずがない。
だがそれはそれとして。
大和と自分にそんなに接点がなく、また、彼女自身がそこまで社交的ではないことがネックであった。
「なんとか、なんとかしないと……!」
何とかしたいが、なんのアイデアも思い浮かばず、ただうっ憤をためていくクロリスであった。
※
その日の昼頃。
平日であるため、クロリスは他の生徒と同様にアレクサンドロス学園高等部の教室にいた。
授業と授業の合間の時間である。
彼女は憎悪の眼で大和を見つめていた。
彼が気を利かせて、自分へ積極的に話しかけてくれればいいのに。
そんな自己中心的な妄想が実現していないことに憤慨すらしている。
一方大和はというと、クラスメイトの女子と話をしていた。
現地。ドリュアデスの女生徒、ヒュヘルムネーであった。
このアレクサンドロス学園周辺の豪農の娘であり、学園全体からすれば下側の身分の娘である。
そんな彼女は、大和と積極的に話をしていて、大和もそれを楽しそうに受けていた。
「大和君! この間は私のお父さんの企画したイベントに付き合ってくれてありがとうね! お父さんったら、留学生がたくさん来てくれるに違いないって、一人で盛り上がって『沼芋掘り』を提案したんだけど……大和君しか来てくれなかったんだよね……まあ、沼芋の沼って、毒の沼だから防毒魔法や防毒装備が必要だから、嫌がられるのは当然だけどさ……大和君が一人でも参加してくれて、楽しんで沼芋の収穫をしてくれたし、レポートに書いて学校に提出してくれたでしょ? お父さんは上機嫌だったよ!」
「お礼なら俺から言わせてほしいよ。素人なのに安全に気を使わないといけない仕事を体験させてくれて、とてもうれしかった! 留学生冥利に尽きるよ」
「あと、ひいおばあちゃんもさ! 大昔の戦後直後時代の話を聞いてくれて、感謝してたよ! なかなか誰も聞いてくれないから、悲しんでたの! これもさあ、戦争当時の話じゃなくて、戦争が終わってしばらくしての時代の話だから、興味を持たれないんだけどさ……」
「それも本で読むだけじゃできない経験だったからね! とても鮮烈だったよ! また誘ってほしいな!」
(ずるい……!)
大和本人は留学生として、他国の文化や歴史を体験している。
その喜びを自分にも味わわせてほしい。
クロリスは憎悪の視線を向けている。
「そ、それでね……もし良かったらなんだけど……今度はさ、私が大和君の実家に行って、ご家族に挨拶したいなって……今度の、秋の大型連休で、そのさ、オルプネさんが行ったみたいにさ……オルプネさんがいいんだから、私もいいよね? ダメ、じゃないよね?」
「大型連休っていっても、たったの五連休だろ? 船での移動を考えたら二日か三日ぐらいしか日本にいられないぞ」
「あ、挨拶したいだけだから、一日だけでもいいんだ! ね、ねえ、いいよね?」
「日程に文句がないならいいよ。ヒュヘルムネーにはお世話になっているからな」
「本当!? やった~~~!」
(ず、ずるい~~~!)
クロリスがいよいよ暴れそうになった時。
先に声を上げたのはオルプネであった。
「そういうことなら、私もいいかしら!?」
「え……あ、その……私は、一対一で、大和君のご家族とお話が出来たらなって……」
「ヒュヘルムネーがそう言ってるから、お前は今回諦めてくれよ」
「嫌よ~~! お願い!」
ヒュヘルムネーは露骨に嫌そうな顔をしていて、大和もそれを尊重していた。
だがオルプネは頑として譲らなかった。
そして、悪いことに……。
オルプネが騒ぎ出したところで、クラスでの注目が集まったのだった。
大和からすれば、三日かそこら日本に帰ってもいいことは無い。
だが他のクラスメイトからすれば、むしろ旅行の予定は短い方が安心だ。
以前の大和も危惧していたことだが、魔法が使えない土地で一か月も過ごすことは他の生徒にとっても不安だ。
その点三日程度ならチャレンジ精神も沸くというもの。
「なんだ、大和。また日本に帰るのか? それなら俺も連れて行ってくれよ」
「オルプネ様から話を聞いていたので、私も興味がわいたの。ぜひ同行させてちょうだい」
「三日ぐらいなら楽しそうだしさ、僕も連れてって」
「あ、あうううううううう!」
完全に上手く行っていたのに妨害されたことで、ヒュヘルムネーは涙目であった。
「一応言うけどさ、全員連れていくのはいくら何でも無理だぜ?」
「そういうことであれば……くじ引きで決めましょう!」
「なんで勝手に決めるんだよ、エコー!」
「そうでもしないと引っ込みがつかないでしょう? もちろん私もくじに参加しますわ!」
「むむむ」
ヒュヘルムネーは大和が自分との約束を優先してくれると信じていた。
しかし大和は交友関係が広く、ヒュヘルムネー以外にもお世話になっている生徒が多くいるので、彼女だけ特別扱いもできなかった。
「そういうことなら仕方ないな。じゃあくじでも作るか」
「そ、そんな……」
(よしっ! 私にもチャンスが……!)
人知れずガッツポーズをするクロリス。
確率が低いのは残念だが、自分から積極的に話しかけることもなくチャンスが巡ってきたことに喜ぶのであった。
※
放課後。
希望者たちは自分の名前を書いた『くじ』を箱に投じた。
大和がその箱の中に手を突っ込み、一枚だけ『くじ』をひく。
そのくじに書かれた名前を読み上げるという流れであった。
この催しには、希望者以外のクラスメイトも見物として参加している。
一名だけが笑い、他全員が泣く。
見ているだけなら最高に楽しめる催しであった。
「どうしてこうなった……」
なお、どうなっても面白くない大和。
彼は教室の机に置かれた箱に手を突っ込んだ。
ヒュヘルムネーやオルプネ、エコーやクロリス。
その他大勢の生徒が見守る中、厳正かつ公平、適当にくじを引いた。
「ええっと、なになに……」
くじに書かれていた名前は如何に。
「アトランティエ……?」
ぱっと思いつかなかったのか、大和はしばらく考える。
「委員長じゃねえか! え、委員長もくじに参加してたのか!?」
「なに、悪いの?」
「いや、そんなことはまったく……意外だっただけだ」
幸運にもくじで当たりをひかれたのは、ヒュヘルムネーと同じく現地民、ドリュアデスの女生徒、アトランティエであった。
ドリュアデス特有の深緑をベースとした体の色をしていて、背はクラスメイトの中でも低い。
かつ切れ長の目をしている、厳しい印象を与える顔だった。
参加していない者たちも意外そうに委員長、アトランティエに注目している。
「そんなに日本に行きたかったのか?」
「日本には興味があったけど、そこは本題じゃないわ」
「本題?」
「貴方が普段言っている通りの事よ……!!」
憤慨の視線で、オルプネやエコーを睨むアトランティエ。
「ドリュアデスの国の誇りであるアレクサンドロス学園に留学してきた貴方たちが! 日本に行きたいといって騒いでいるのが気に入らないのよ! とても失礼でしょうが!」
どうやら日本に行きたいから参加したいのではなく、大和以外の留学生が日本に行く確率を下げたかった様子である。
なるほど、わからなくもない理屈であった。
「あの、委員長。そういうことなら、ドリュアデスの私ならいいよね? 私に譲ってくれないかな?」
「私としてはそれでもいいけど、他の生徒がまた騒ぐでしょ? ここは私が行かせてもらうわ。日本に興味があったのも本当だしね」
「そんなあ……」
(ぐぎぎぎぎ!)
くじに参加した生徒たちから恨みがましい目を向けられつつも、アトランティエは日本行きのチケットを入手した。
そんな彼女を見て、大和は少し安心する。
(まあ、ヒュヘルムネーが当たれば一番だったけど……委員長なら悪くはない。他の生徒と違って暴走とかしないだろ……)
その安心が逆杞憂であったことを、彼は日本で知ることになるのだった。
秋の大型連休 アトランティエ編 が始まります。




