二章 1
「それじゃあ改めて自己紹介といこうか。
当代『天使』、ヴァイン=ハイゼルト。能力は『炎』だ」
「ミーレルハイト、魔道騎士団長アリル=クウェート。
よろしく頼む、ヴァイン」
「『神子』、鏡氷水。能力は……いい、まだ言わない。
……よろしく」
「……シャルフだ」
四人の遭遇から半日。天使、神子の師、神子、元天使の躾け係の四人は、ミーレルハイト首都、ミーティアに存在する城の一角にて集っていた。
「……説明してもらうぞ、シャルフ。お前は今まで、どこで何をしていた」
問うのは魔道騎士団長アリル。言葉を紡ぐと感極まったのだろう。青い髪が覆う目をそっと伏せ、苦しそうにイラレージュ――シャルフへと言った。
「お前は八年前、死んだ。そう、聞いている。私も妹も、お前がいなくなって……悲しんだ。今なら、理由……言って、くれるよな?」
今にも泣き出しそうなアリルを前に、氷水はおろおろとシャルフへと向く。そのシャルフもすまなさそうに顔を伏せており、部屋の空気は重い。唯一その空気を介していないヴァインだけが、おもしろそうに二人を眺めていた。
「……俺は八年前、お前も知っての通り、騎士団入りを果たした。そこで最初に与えられた任務は、俺に騎士団を抜けてくれと言うものだった」
訥々と語り出すシャルフ。アリルは頷くこともなくただ下を向いていた。
「いきなりなんだ、とは思ったさ。しかしその意味は、無視するにはあまりにも重かった。任務内容は、ヴァル=ルージェへの潜入。百年戦争が始まる前に、あの国から神剣を奪えというものだ」
アリルは反応せず、言葉の意味を噛みしめる。
三本の神剣。それが一国で保管されているのだ。その国に英雄が降りて剣の力を振るえば、他国の勝利は遠ざかる。国柄からして、ヴァル=ルージェに神子が降り立つことなどありえない。天使ならまだしも、悪魔が降り立ち剣を奪い去っていけば、全滅以外にありえない。全てがそこにあるというのが危険なのだ。仮に降り立たなかったとしても、そこに剣があるのは知られている。英雄を得た国々は、総じてヴァル=ルージェを狙うだろう。
そうなる前に一計を案じるのは不変の理。おかしくはない。だが、
「なぜお前が?」
問題はそこ。八年前――当時十歳そこそこの子供に、潜入任務など務まるはずがない。ましてやそれが初任務とあればなおさら。
「子供だから、だ。顔も力も知られておらず、なおかつかなりの地位に昇れるだけの腕があったから。そして潜入して戸籍を得ることが容易だったから。だから俺が選ばれた」
アリルはその言葉に、頷かずにはいられない。
そもそも――子供ながらに騎士団入りを認められた時点で十分おかしかったのだ。子供ながらにその腕ならば、数年後、十数年後、相応の腕を備え、高い地位を得ることも可能かもしれない。
でも、何かひっかかる。
「ま、待って。選ばれたのは分かった。でもなんでシャルフさんは、その任務を受けたの? 確かに国としては一大事でなんとしても達成したいものだけど、でも、十歳の子供がそんな大事なことを平気な顔をしてできるとは思えないんだけど」
氷水の言葉に、なるほどとアリルは気付く。今の自分ならともかく、八年前、まだ騎士としての自覚もなかった少年が国の一大事を聞いたとしても、その重さ、その意味を理解していたとは到底思えない。
しかしシャルフは、その問いを予想していたのか。何食わぬ顔で答える。
「前金だけで、かなりの額が出たんだ」
金。
「あの時、俺が世話になっていた孤児院は、潰れるまで日を数えるほどだった。だから俺はあの時、必死になって騎士になったし、すぐさま大金が出るというのなら、どんな危険な任務にも行くつもりだった。だから、渡りに船だった」
その言葉に、女性二人はなるほど頷いた。氷水は情勢こそ知らないが、それならお世話になった孤児院のため頑張る気持も分かると納得したし、アリルも当時孤児院が潰れそうだったという話は聞いたことがある。何故立て直したのか疑問に思ってはいたが、シャルフの言葉を聞いて合点がいった。
シャルフは二人の顔を見て、納得してくれたか、と安堵の表情を作る。
だから、一人ニヤニヤと笑っていたヴァインを見過ごした。
それだけ話が分かれば、アリルにはもう訊くことはない。
二人に出会った後、簡単な事情は聞いていた。
ヴァル=ルージェから逃げたこと。開かれようとした戦端を止めたこと。国を崩壊させたこと。天使と神剣を手に入れたこと。
シャルフがヴァインと別行動をとっていたのは、まだ王殺しとして名が知られぬうちに前線部隊と接触するためだ。国王が暗殺されたと伝えて、兵を戻すために動いていた。
アリルは魔道騎士団長としての指示があるため二人を送ることはできなかったが、情報に感謝し、氷水を伴に向かわせようとした。しかしヴァインが、
「敵かもしれねぇ奴んところに、大事な神子様一人ついて行かせて大丈夫かよ?」
なんてことを言ったため、アリルは一人、確かにと苦笑して前言を撤回した。
自身は今、百人の兵を連れた魔道騎士団長だ。
旧知とはいえ、騎士団や国との関係が明らかでない者の言葉を、鵜呑みにするわけにはいかない。兵の命を預かる者として、警戒は怠ってはならない。当たり前のことだ。
彼女はそれを教えてくれたヴァインに、心中ありがとうと言葉をかける。見ているのが氷水一人と言えど、簡単に自身の非を認め、そのことに礼を言っては下の者に示しがつかない。
彼女は先の自身の行動の未熟さを戒め、アリル=クウェートではなく、魔道騎士団長として動いた。
後日。
敵兵たちが急ぐように国へと戻っていくのを確認すると、戦うことなく騎士団を引き上げ首都へと報告に戻る。
そして歓待される二人と再び会ったのだ。
「他に話すことは?」
シャルフが残りのメンバーを窺うと、氷水がそっと手を挙げる。
「なんだ?」
「あの……」
そこでチラとヴァインを見た。
「なんだ? 言ってみろよ」
彼の挑発的な言葉に、氷水はムッとして言う。
「〝天使〟と〝神子〟が、同じ国に属していていいんですか?」
確かにそれは、考えなかったことじゃない。天使は国を尊び、神子は平等を至上とする。一見相反する二つだが、そこには妥協点が存在する。
「問題ない。この国は条件を満たしている」
ヴァインが手を伸ばし、指を立てる。
「一つ。お前はこの大陸がどんな形をしているか、知っているか?」
「それくらい知ってるわよ。台形二つ重ねたような感じでしょ」
と空中に台形を二つ重ねて書く。それはむしろ蝶ネクタイを縦にした形と言った方が分かりやすいかもしれない。
「ああその通り。そしてその台形の上と下、つまり大陸の北と南を分かつ所、そこには大山脈と呼ばれる魔物の巣窟がある。東西は大陸を横断し、縦も大陸の全長一割近い。魔物も出ることからそこを超えるのは無理。
この国は大陸を北と南に分かつその大山脈が、唯一途切れている場所に存在する。大陸のちょうど真ん中。山脈が縦に分かたれているのがここ。それ故大陸中の交易品が多く流れ、商業で成り立った。その特性故、他国との関係も非常に良い。それこそ、悪かったのはヴァル=ルージェくらい。しかしそっちは友好国と言える国は一つもなく、完全に孤立していたため無理もない。兎角、この国は顔が広くて敵が少ない。平和を謳えば、それこそほとんどの国がついてくるだろう。どうにかして共通の敵を作り上げれば、後は交通の便からも国々の中心となることは間違いない。これが神子を抱えうる理由。どころか女神に選ばれた最大の理由だろう」
二本目の指を立てる。
「二つ。先も言ったように、この国は品を輸送する上に於いて非常に立地が良い。襲ってでも奪いたくなるくらいは。そのため、ある程度の武力が要求された。左右を魔物住まう大山脈に挟まれているのも大きな理由だろう。結果的に北の大国スイ・ラ・グネに戦争を吹っかけられても、護りきることができるだけの力を得た。それは見方を変えれば、小国を占領、あるいは属国にできるだけの力を持ちながら、機を待っていると見えなくもない。
それにこの国、平等を謳う商業国家でありながら王制が敷かれてるじゃねぇか。民もそれに異議なし。国を尊ぶっつーか王を尊ぶ国家の出来上がり? 平等とは程遠い。それに、平等を掲げながら、自国の利益を尊重するよう動くのもまた、国を尊ぶって範疇だろう? 故、天使も属するに問題ない」
そして、と三本目。
「俺はまだこの国に属していない」
「ええ!?」
「おもしろい反応ありがとう。反応してくれないお前ら二人にゃ苛立とう」
妙な韻を踏みながら、ヴァインは氷水を見てククッと笑う。
「まぁ、まだ俺は一般市民としてこの国に入国しただけだ。イラ――シャルフの客人としてな。そのシャルフも扱いとしては死んでたんだろ? その辺りの収拾に時間がかかる。だから俺はまだ、この国に属している訳じゃない」
歓迎はされてるがな、と四本目の指を立てる。
「そして最後。俺はこの国には属すが、お前と同じ勢力には属さない」
「ど、どういうこと?」
「お前はそこの魔道騎士団長様の下につくんだろ? だから俺は別んとこ……たぶん、シャルフ君と同じところにつくだろうねぇ」
シャルフ君、とニヤニヤしながら強調する。
「先も言った通り、この国はどちらにでも転身できるし、最悪二つが妥協したところを進めることもできる。俺はどちらの可能性も残すため、厳密にはお前とは違う勢力に属す。まぁ他国と戦争でも起これば共闘することになるだろうが、連合軍ができているからその線は薄いね」
以上終わり、とヴァインは締める。しかし氷水は納得しない。
「そ、それじゃああんたが私と同じ勢力に入れば、百年戦争なんて起こさずにいられるんじゃないの? なんでわざわざその可能性を残すのよ」
ツンツンした風に言う氷水に、ヴァインはそれを逆撫でするように大仰に答える。
「おいおい神子サマ、何も考えずに喋るなよ。お肌にゃいいが、頭にゃ悪いぜ?」
氷水はピクリと頬を動かした。
「へぇ。そ・れ・で、天使様は何がしたいんでしょうか? 無能の私目に教えてくださいませんか?」
「ククッ。それじゃ順を追って話そうか……」
一つ間をおくと、ヴァインはとても真剣な顔で、声音で、皆に言った。
「おまえら、この百年戦争というシステムをどう考える?」
三人を見回すヴァイン。
「神々の作り上げた、戦争を起こさせるシステム。これは確認されるだけでも九代は前に既にあった。最低でも九百年は前から続く神のシステム。人々が盲目的に従う、作られた戦争。お前らはこれを、どう思う?」
「ど、どうって……」
返答に窮する三人。
「研究や哲学は、疑うことから始まる。慣れてないお前らにゃきついかもしれんがな。
それじゃあ質問を変えよう。お前らは、いきなり主君殺しを敢行する俺をどう思う?」
これには氷水とシャルフからすぐに返答が返ってきた。
「馬鹿」
「向こう見ず」
「素晴らしい返答ありがとう。後で覚えとけよ」
じゃれあう三人をよそに、アリルはヴァインの意図に気付いて息を呑む。
「お、分かったか?」
「自信はないけど……あなたが言いたいのは、降り立って一月でそんなことをする〝天使〟はどう思う、ってことでしょ?」
大正解、と彼は笑う。
「お前らの常識から考えていけば、天使ってのは国を至上とする考えを持つ者が選ばれるんだろう? 降り立った国に尽くすんだろう? 俺のどこが国至上主義だよ? 俺は俺の為に生き、俺の為に死ぬ、俺中心の俺様至上主義! 俺が国家元首にでもなれば国を尊ぶ天使様の完成だが、どうにもそうは考えにくい。となると、俺は〝天使〟としては異端なのではないか。そういう疑いが出てくるんだ」
ヴァインを除く三人は、その言葉の意味を理解するため押し黙る。
「これは現状、調べようにもない。現在まで残る英雄の記録を確認し、そいつらの本当の顔を知らなきゃ、俺が異端なのか、全員が何か共通するものを持っているのか把握しようがない。だが、もし俺が異端なら、それはこのシステムに矛盾が起こったということだ。もし俺が異端ではなかったら、お前らの言う天使の大前提が間違っていたということだ。どちらにせよ、世界の根幹を揺るがす大事件だよ。
ここでもう一つ、疑問を投じてみよう。
お前らは何故、このシステムの頂点を神――『護神』、『女神』、『死神』の名で呼び、その下につく者を『英雄』と呼び、『天使』、『神子』、『悪魔』と言い換えた? 何故それぞれの神はそれぞれの力を有するのだろう? 何故そう決めた?」
二人が答えないのを見て、シャルフが仕方なく答える。
「歴々降り立った者たちが、その名に相応しい行動をとったからだ」
「例えば?」
ヴァインの白々しい問いかけに、シャルフはこらえて続ける。
「英雄が『英雄』と呼ばれる所以は、その行動を信奉する者にとって最高の存在だからだ。
天使は自らが認めた仲間を助け、護る為に戦った。それが結果的に国を尊ぶという解釈に代わったが、大筋は変わらない。そこからできた名が『守護者』で、他との比較から神に仕える『守護天使』に転じた。
神子は常人でありながら聡く、神に選ばれた者。それゆ――」
「待った。そこは『何かに選ばれた者』とぼかそうか」
細かいな、とシャルフが眉を顰める。
「――何かに選ばれた者。それゆえ『神子』の名を冠する。
悪魔は人を殺す為に動き、そのためなら欺くことも残虐なことも為す。畏怖の意味を込めそれを『悪魔』と呼んだ。
それらを呼び寄せた存在として、上位の存在は『神』とされた。
守護者を呼ぶがゆえ『護神』。
平等を第一とする神子を選ぶがゆえ、その平和への追求、慈悲深さから『女神』。
殺しをなんとも思わない非道を使役するがゆえの『死神』。
そしてそれぞれが有する力は――」
そこでシャルフは言葉を切った。
「選ばれた英雄たちが、常にその力を行使したからだ。天使なら『属性』。神子なら『法則』。悪魔なら『生物』。そこから神はその力を――」
「嘘だ(ダウト)。それだけじゃないだろう? お前はまだ知っている」
ぐっ……と言葉に詰まり、渋々切りだす。
「……この世界の創生神話を知っているか?」
「いや。ヴァル=ルージェ(あの国)じゃそんなのは見なかった。仕方ないからミーレルハイト(こっち)で調べるつもりだったんだ。まだ許可が降りなくて困る」
やれやれとは首を振るヴァイン。しかし残りの二人も同じように首を振った。
「……こっちでもないのか」
考えるように手を口許に当てるが、続けてくれと目線を上げてシャルフを見た。
「世界は三人の神が作り上げた。一人の神が万物の基礎を作り上げた。アイデンティティ――属性を。一人の神が世界を縛った。万物を動かす法則を。一人の神が万物を作った。生けとし生けるもの含めた万物を。
それぞれ『護神』、『女神』、『死神』に対応していると考えれば、何もおかしくはない。創世神話が語られなくなろうと、そちらの伝承の中身が分からなくなろうと、伝わるものは伝わるだろう」
「ああ。おかしくはない。おかしくはないが――お前、情報源は?」
「残念だが覚えていな――」
「分かった。黙秘か。問題ない。おもしろい話ありがとう。
仮定が結果に変わる日は近そうだ……」
ヴァインは後半、一人納得するように呟いた。
二人が息をつき、置き去りにされていた氷水が声を上げる。
「結局なんであんたは私と同じ勢力に入らないのよ!?」
「あーそれか。おもしろくなって忘れてたぜ」
ケケケと嗤い、椅子にもたれかかる。
「つまり俺が異端なのか否かが問題となる。
俺が異端ならば、本来ありえなかったであろう――天使と神子の共闘を作り上げることになる。そうなったとき、システムの綻びが大きくなってはどうなるか分からん。今聞いたように創生から続く話なら、最悪世界自体ぶっ壊れるかもしれん。だから言い訳が必要だ。俺たちは暫定的に手を組んでいるだけですよ、というな。
そして俺が異端でなかった場合。これは何も問題はない。俺という思想が天使として選ばれたのなら、俺は俺の思うままに動く。結果天使と神子が手を組むなんて前代未聞の出来事も平気で起こす。異端でないのなら、これは予想された行動であるはずだ。仮にも『神』と呼ばれる存在が作り上げたシステムだから。そう言っちゃ俺は異端――矛盾であるというのはないってことになるが、まぁいい。
こんなところだ。何か質問は?」
完全に諭され、「うぅ……」と意気消沈の氷水。
話を聴き入っていたアリルが手を挙げる。
「ちょっといいか?」
ヴァインは投げやりに「どーぞー」と答えた。
「なんでこの世界に来て一月のお前がそんなに詳しいんだ?」
しばし、部屋に静寂が訪れた。
「そ、そう言えばそうよ! 私と同じ時にこの世界にやってきといて、なんでそんな『何もかも知ってます』って顔でバカにしてるのよ! おかしいじゃない!」
それを聞くと、ヴァインは冷静に氷水の目元を指した。
「何?」
「隈」
見ればヴァインには深い隈があり、反して氷水は健康そのものというような、綺麗な肌の色をしていた。
「一日何時間寝てんだ? 寝すぎじゃねぇのか?」
「うっ……うぅ……。確かに一日七時間は平気で寝てますよ! 元の世界のリズムだとそんなんだからしょうがないじゃない!」
「参考までに聞くが、元の世界は一日何時間で回ってたんだ?」
「二十四時間よ!」
「ここより二時間多い訳か。それじゃおねむの時間が長くてもしょうがないわな」
「バカにしないでよ! あんたのとこは何時間よ!」
「二十五だ。つっても足りなくて、徹夜なんか日常だったが」
今も変わらん、とニヤニヤ笑う。生気は有り余っているようだ。
「まぁそういう訳で? 夜もぐっすりな神子サマと違い、俺は研究熱心なんだ。寝ても覚めても好奇心。歩けば調べ、調べば探る。それが俺様の日常よ」
「いや、研究熱心って何? あんた科学者なの!?」
氷水のツッコミに「言ってなかったか」と笑う。
「聞いてないわよ! それならなんであんたあんなに強いのよ!」
「お前が弱すぎるだけだ。まぁ科学者ってのとはちょっと違うけどな。うちの家系はそーゆー疑問に思ったら調べなきゃ死ぬ、調べないくらいなら死んだ方がマシだっつー、好奇心と知識欲の針がぶっ壊れてるバカばっかなんだよ。……俺も似たようなもんだがな。
俺だってこの一族に紡がれてきたこの炎がどこまで継承されてるのか――戦乱の全盛期から進化しているのか。知りたくて知りたくて堪らなかった。元の世界じゃ戦う相手もいなかったからな。この世界で試すのは決定事項だが、一概に試すと言ったっていくつか方法は分かれる。雑兵を蹴散らす汎用性、猛者と対峙可能な高火力。まぁ――王に反逆しようとしまいと達せれるんだが、それで死んじゃ元も子もない。単純に、生存確率の高い方を選ばせてもらった。それが反逆の理由だ。ずっと気になってたんだろ、イラレージュ君?」
とシャルフをその名で呼んだ。
ハァー、と長い溜息をつく氷水を尻目に、シャルフは立ちあがった。
「今の話、上に報告してくる」
「あ、私も……」
アリルが続いて立ち上がり、二人は扉に向かう。
「シャールフ君。終わったらそっちの隊長の妹さんに会いに行ってやれよ」
立ち去る背中に、ヴァインがからかうように言った。
「……言われなくとも」
照れるように進むシャルフと、後ろを笑顔でついていくアリル。
扉が閉まる直前、アリルは残る二人の会話を耳にする。
「お前はお前で暇そうだな。町の案内でもしてくれねぇか?」
「イ・ヤ・よ!」
パタンと扉が閉まり、二人の声はアリルに届かなくなった。




