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今世では幸せになれなかった※アーロン視点

作者: bob

僕の父は国王陛下と幼馴染のような間柄だった。

皇后陛下とも親しく、両家は自然と行き来する関係だった。


「子ども同士、結婚させたいね」


そんな冗談が交わされる頃、

僕アーロンと、シンシアが生まれた。


婚約したのは言うまでもない。


僕とシンシアはよく一緒にいた。

父と一緒に王城へ行き、シンシアと共に教師から勉学を教わった。

シンシアは勉強が嫌いだと言っているが、見えないところで努力しているのを僕は知っている。

合間にはシンシアの好きな散歩を楽しんだ。

シンシアは花が好きな女の子だった。


そんな時、国王陛下と皇后陛下、父が移動中に何者かに襲われた。

命は助からなかった。


合同葬儀が行われ、母と共に父を見送った。


埋葬が終わり、参列者もばらけ皆帰路についている時もシンシアは墓前から離れず涙を堪えていた。


「シンシア…」


「……」


僕がそっとシンシアの手を握る。

すると堰を切ったようにシンシアは泣き出してしまった。


「お父様とお母様に会いたい!

 一人は嫌なの!!」


「シンシア!」


僕はシンシアを抱きしめることしかできなかった。

今まで仄かにあったシンシアへの想いを痛烈に自覚する。

僕はこの子を一生かけて守ると国王陛下、皇后陛下に誓った。


――誓ったはずだった。






「今日も来てくれたの?嬉しい…」


弱々しくベッドに横たわるシンシア。

半年ほど前から徐々に体調を崩し、今ではベッドの上で生活をしている状態だ。


「この花好きだったでしょ?」


僕は百合の花をシンシアに差し出す。


「わぁ、覚えていてくれたの?」


弱っていてもシンシアの笑顔は綺麗だった。

病状は日に日に悪くなり、宮廷医すら原因がわからない。

そんな状況でも弱音を吐くことのないシンシア。

僕は病が治るよう祈ることしかできなかった。


この日もシンシアのお見舞いに訪れた。

部屋の扉が少し開いている。

中から人の話し声が聞こえてきた。

どうやら王弟殿下がいらっしゃるようだ。


中へ入るのを躊躇している時、衝撃的な言葉が耳に届いた。


「やっと死んだか」


「…ッ!!」


僕は怖くなりその場から逃げた。

この日のことを一生後悔することになる。


帰宅後、母に僕が見たことを告げた。

母は僕を抱きしめて言った。


父を殺したのも王弟だと。


王位簒奪のため実の兄弟と義理の姉、そして僕の父を殺した。

もしかしてシンシアの病は…?


そこから僕は心を無にして調べ続けた。

王位継承権一位のシンシアが亡くなり、王弟殿下が代理で務めていた王権が真に王弟のものとなった。


そんなある日、何回かの月命日に花束を持ってシンシアに会いに行った。


「あなた、誰?」


シンシアの声が聞こえた。

僕は遂に頭までおかしくなったらしい。


「今日もいい天気ね」


幻聴でも嬉しかった。


「わぁ!今日のお花はとっても綺麗ね!名前はわからないけれど、私そのお花大好きよ!」


「ふふふ」


生前と変わらない天真爛漫なシンシアの反応に思わず笑ってしまった。

この日初めて声の主人へ視線を向ける。

真っ白なワンピース姿のシンシア。

最後に会った弱々しい姿ではなく、元気な頃の姿。


しかし家に帰ると地獄が待っている。

散財と放蕩に溺れ、地位だけを振りかざす国王。

権力を傘に僕への独占欲に塗れた王女。

憎い相手に笑顔で対応するのも慣れてしまった。

視界が徐々に黒く塗りつぶされていくように、僕の心は真っ黒に染まっていった。


墓地へ行きシンシアと話すことで、心の均衡をなんとか保っているような状態だった。


そんな時王弟の娘が僕の心欲しさに放った言葉。


「私はアーロンのことを一番に愛しているわ! シンシアが毒で死んだ時、とても嬉しかったもの!!」




「貴方は女神様に聞かれたらどうするの?」


「僕は“赦さない”を選ぶよ」


あいつら全員、絶対に赦さない。

その瞬間、自分がもう戻れない場所へ踏み込んだことだけは、はっきり分かっていた。



そこからは早かった。

貴族をまとめ上げ、戦争をしている隣国へ協力を取り付けた。

あいつらの首に手をかける時がきたんだ。


「大丈夫?」


シンシアは何かを察し心配しているようだった。

それでも止まることはできない。


王弟の娘に手をかけた時、傷だらけになりながら王弟を討ったとき。

シンシアの仇を取れた達成感を味わえると思ったのに、僕に待っているのは後悔だった。


仇を討ったところで、心は何一つ軽くならない。


シンシアはそんなことで喜ぶような女の子じゃないってわかっていたはずだったのに…。

僕はあの時、王弟がシンシアの部屋でシンシアの死を喜んだあの時に一緒に死ねばよかったんだ。


最後にシンシアに会いたい。


「アーロン!」


僕のことをやっと呼んでくれた。

もっと早くに気づくべきだったんだ。


「シンシア。最後に君と会えた奇跡だけが僕の救いだった。愛してるよ…」


君がいなければ幸せになれない僕は、君を置いて逃げるべきじゃなかったんだ。





「アーロン」


「…女神様」


そうか、僕は死んだのか。


「貴方は赦しますか?赦しませんか?」


「僕は…、僕は人を赦せるような、そんな人間じゃないんです。 僕は赦しを乞うべき立場の人間なんです…」


僕は赦せるほど立派な人間じゃない。

愛する人を失って、ただ静かに壊れただけだ。


シンシア、君の最期から逃げた僕を。

君の死を理由に幸せになることから逃げた僕を赦してほしいー










「お兄さん! この公園のお花を管理してるのはお兄さんで合ってますか?」


「?ええそうですが、ここは公園ではなく墓地ですよ」


ここの墓地にいる人が安らかに眠れるよう、数年前から墓地に花を植え管理している。

そんな変わらない日々を繰り返していると、女性から声をかけられた。


「ええ!?そうなんですか? とっても見事なお花だったので…。公園だと思ってました!」


「ふふふ。そう言ってもらえると頑張った甲斐がありますね」


「私お花が好きなんですが、学がなく名前がわからないんです。お邪魔でなければ教えていただけませんか?」


「ええ。僕でよかったら」


「ありがとうございます!

 私、シンシアって言います」


「僕はアーロンです」

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