兄
地鳴りのような足音が響いていた。
あれは、わたしたちの家族なのよと、あの甘ったるい女は言っていた。
確かに遺伝子的には我々とほとんど同じであろう。ただ、体の大きさを抑制する遺伝子が切り取られてしまっただけなのだ。
その代わりと言っては何だが、幸か不幸か、あの怪物には知性が乏しい。というのも、巨大化した体に心臓が足りず、脳に充分な酸素が供給されないのである。
ただし、それは裏を返せばいつも低血圧に悩まされているということであり、一般的な人間もそうであるように、そのストレスは外向きに爆発した。
簡潔に、はっきりと言おう。あの怪物はストレスの余り、我々の町を破壊しているのだ。あの、体長10m超にして、未だ成長を続ける巨体の化け物は。
あの人とだってきっと分かり合えるはずよ、と言った甘ったるい女の声がまたよみがえる。そういえば、あの女は結局、怪物を諭すために奴の目の前で喋り、潰されていたような気がする。
いくら彼女の夫がその怪物を生み出したからと言って、彼女が救う義理はなかったではないか。
地鳴りは止まらない。地下シェルターの壁にまで振動が伝わってきたから、近くまでやってきているようだった。
あの甘ったるい女は、私の父の妻だった女は、夫が作った化け物を、最後まで愛していたのだと思う。
土の床に水が落ちたのは、多分、雨漏りしているだけだ。
次の話はとても読みにくいですが、お読みいただけると嬉しいです。




