レイド・オン・イノカシラ
俺達は御殿山入口から林の方へ進んだ。スコープで確認すると、ゲリラが塹壕の中から発砲している。しかし、弾丸は上空の何かに向かって撃たれていた。海削が呟く。
「あいつら野鳥を撃って遊んでいるみたいです。しかし、短時間であそこまで立派な塹壕を掘れるなんて想定外です。それなりの戦闘経験者で構成されていると見て間違いないでしょう。」
そうか。そういうものなのか。海削は魔改造前は一塊のアイドルオタクの共産主義者だったのに、いつの間にか軍人になっていた。
「しかし、対警察を想定しているようで、対毒ガスを想定していません。ガスマスク着用者が1人もいません。」
「じゃあ毒ガス撒けば終いだな。持ってきてるんだよな?」
「はい、あります。ですが、マニュアルではここで激戦を繰り広げなければなりません。向こうは20人足らずで装備も貧弱です。ワンサイドゲームになってしまいます。」
なるほどねぇ。
「じゃあ八百長やろうか。とりあえず一旦誰も殺さずに制圧してくれる?」
「マニュアルにはないですが、井上御方の意見が最優先です。すぐに取り掛かります。」
化外部隊は銃を地面に降ろし、ゲリラの塹壕に向かっていった。驚いたのはゲリラたちである。鳥に向けていた銃口を突如現れたこの得体の知れない大男達に向けて連射した。しかし大男達はヘッドショットをかましても怯むことなく前進してくる。遂には塹壕の中に入りこまれ、全員手足を結束バンドやガムテープで縛られて確保された。
俺はそれを見届けると、悠々と塹壕に近づいた。
「この中でリーダーは誰だ。」
「俺、です。ハン・ソジュンといいます。」
そもそも形式主義に則って起こした蜂起である。ここまでガチの軍隊、いや不死身部隊が来ることなど想定すらしていないので、ソジュンは観念した。
「俺は井上、よろしくな。ところで、お前ら、弱すぎるよ。少なくとも国家背負って頑張ってるんだろ?お前らが弱すぎるとファンタジーがクソすぎる。」
ファンタジー?ソジュンは頭が混乱した。
「こんなんじゃ戦争とは言えない。だから、援軍を用意してやる。それで再戦だ。ここの土は良い土だから良いキュウコンマンが育つぞ。」
俺はツアレからもらったビンから10個ほど球根を出し、地面に埋めた。暫くしてゾンビが10体ほど土から生えてきた。もちろん、化外を魔改造したものである。
「こいつらは強いぞ。これも使って俺の部隊と再戦だ!おい、海削、ガムテープを外してやれ。あとカラシニコフの弾も沢山くれてやれ!戦力差があるからPKも渡して良い。」
塹壕からは小機関銃やカラシニコフの弾幕が、木々の隙間からはゾンビが肉弾戦を仕掛けてくる。茶番とは言えない迫力だ。対する化外軍団も負けていない。ゾンビを銃床で殴り倒し、塹壕に向けて機銃掃射する。一進一退だ。
「派手な爆発が欲しいな。」
俺がそう呟くと両軍に手榴弾が配られた。向こうもなかなか柔軟な作戦ができるようで、ゾンビに手榴弾を持たせてカミカゼアタックなどの戦術を見せてくれた。狙撃が芸術的に上手い奴もいて、武蔵野市議の大井が脳天撃ち抜かれて絶命した。当然ながら、こちらも全員不死身個体を用意しているわけじゃなくてスケープゴートもいる。俺の所に飛んできた流れ弾はバニシングで消した。
そんな戦闘が小一時間続いた。キュウコンマンは全滅、北朝鮮ゲリラもハン・ソジュンを残して全滅した。キュウコンマンの死体はちょうどいい感じに一般人を巻き込んだ形に見えたので、とてもいい塩梅だ。こちらも死ぬことを想定していた羊が5人ほど死んだ。
ソジュンは改めて拘束された。最初は全員生きていたのに、茶番をやらされて自分以外全員殺された。やるせない気持ちになった。
「こんな殺し合いさせて何の意味があったんだ!」
「おいおい、ちょっと勘弁してよ。お前ら国から『死んでこい』って言われて送り出されたんだろ。殺して貰ったことに感謝して貰わないと困るよ。それともかりそめの日本人生活で怠惰になっちゃったのか。」
ソジュンはぐうの音も出なかった。
「マニュアルに従って、彼は主犯として我々が連行します。西側にいるテレビ局クルーは現在炊き出しをやっている吉祥寺北口に集ってますし、我々のYouTubeチャンネルを使って大々的にアピールします。」
海削が淡々としゃべる。
「手際がいいな。これもマニュアルのおかげかな。」
「いやいや、ここまで素晴らしい戦闘にすることができたのは井上御大のおかげです。私が質問したかったのはまさにこの点でした。マニュアルの綻びをどう繕って行けば良いのか、大変大きな学びになりました。」




