MEGAMI vs UNDERCOVER
竹下は無事暗殺された。薬物のオーバードーズで天国を観ながら逝った。一方、金子は田中との交渉を成立させていた。まずは、俺が全然戻ってこないことを詰問したがはぐらかされていた。これは交渉材料には全くならなかったらしい。決め手は竹下の魂だ。良質な魂は女神側は喉から手が出るほど欲しい。今まではレベルは高いが高齢の魂が多かったので、今回の竹下の魂はとても魅力的に映ったのだ。金子は暗殺実行を焦らしに焦らし、女神の所有欲を掻き立てた。その間、俺は三度会った女神の人となりと性格を竹下にレクチャーした。俺が何を教えるまでも無く、事実を伝えるだけでスルスルと吸収した。
「俺と話してた時のオタク口調はやめたほうがいいぞ。」
「そんなのわかってますよ。人に合わせてやってるだけですから。」
それって俺はオタクくさいってことか?まあそれは置いておいて、重要なアドバイスをしなければ。
「あと最後に大事なことを一つだけ。エルフの長老、ルカには絶対に近づくな。心を読まれる。」
壁も天井もない真っ白く光輝く部屋で竹下は目を覚ました。そこには立派な玉座に鎮座した、今まで見たこともないような絶世の美女がこちらに慈愛の微笑みを投げかけながら座っていた。ここまでは想定通りだ。おもむろにその美女の口が開いた。
「あなたは死んだのです。そして、異世界に転生して世界を救うのです。」
女神は、井上さんが言っていたことを一言一句違えずに言った。このあとは問答無用で異世界転生が段取りのはずだ。しかし、女神は次の言葉を発した。
「ここ10年、魔王軍の動きが活発化しています。全面戦争には至っていませんが、小競り合いがずっと続いています。あなたには選ばれし勇者として魔王討伐を命じます。」
想定外の下命だ。心は慌てず、しかし所作は慌てた振りをして問答をはじめた。
「いや、ちょっと、あの、まず俺は死んだってことで間違いないんですよね。え、なんで死んだのかも分からない。一旦整理していいですか。」
「どうぞ。」
「原因は分からないが俺は死んだ。異世界に転生した。そして、魔王討伐の命を女神様から受けている。」
「そうです。」
「質問ですが、俺が魔王を討伐したあとはどうなるんですか?」
「この世界で英雄として暮らすことになります。」
「元の世界には戻れないのですか?あと、なんで死んだのかわかりませんか?」
「戻れません。もう死んでしまった、ということでご理解ください。死因もこちらではわかりません。第二の人生ということでご理解ください。」
「だいたい整理はできました。失礼な物言いになってしまうと申し訳ないのですが、第二の人生は、私の世界のRPGみたいなもの、と理解しました。それで、私に魔王討伐の素質はあるのですか。バックパッカーをしたり自由気ままに暮らしていただけなのですが。」
「あなたの素質は素晴らしい。若く、そしてレベルが常人に比べて高い。これから冒険を続けてレベルを更に上げていけば必ず魔王を倒せるでしょう。それに、この聖人田中があなたに付き従います。」
初老の男性を紹介された。噂に聞いていた田中さんだ。年齢は井上さんと同じ位と聞いていたが、異世界にいる時間が長く老け込んでしまったのだろう。エルフの長老ルカは?ここには居ないようだ。安心した。
「いや、付き添いは結構です。今まで気ままな一人旅をしてきましたから。ゲームでもパーティを組まずに一人で楽しむタイプなんです。あと、何らかの手段での監視もやめてください。自由がないと私は生きていけないです。」
「わかりました。あなたを信用していますので、必ず魔王討伐を果たしてください。」
「あ、冒険を始めるに当たって、何かスキルとか武器とか貰えるんですか。」
「あなたは自由がいいといいました。スキルについては転生後に付与しますが、武器防具の類はありません。自由に探索して揃えてください。」
「そうですか。じゃあ気ままにやらせてもらいますね。」
「これから5秒後にあなたは転生します。グッドラック!」
尻の下に穴があいた。竹下は無表情でその穴に吸い込まれていった。
「女神様、武器防具の類をお渡しにならず良かったのでしょうか。」
田中は少し不安げに女神に尋ねた。女神はその天女の微笑みを田中に返した。
「あの様な無頼漢は自由にさせるのが一番です。一歩一歩着実にゴールまで近づくでしょう。」
「あと懸案は井上です。向こうの世界の金子から、早く井上を返せとせっつかれています。」
「それはそれほど問題では無いのでしょう。」
「しかし、井上自体、魔王領内で消息を絶ってだいぶ立ちます。もしかしてバニシングで向こうの世界に逃げたのかと思い、向こうの世界にある奴の死体を確認しましたが、死んだままでした。念話も通じません。向こうの世界では念話は井上の死体が受信しました。同行していたエルフの長老も別行動後に行方不明になったと言っており、魔王からは魔獣にやられて死んだ、と聞いているとのことです。」
「あの汚らしい男は、飼い殺して行き倒れを狙って無理難題を押し付けたので、その話が事実ならば問題は何もありません。」
「ただ、結局次元の歪みは見つけられなかったわけですし、エルフの長老もそれ以降隠れ里に引きこもってしまっている。そこに来てここ数年の魔族の興隆と、何か引っかかるんですよね。」
「聖人田中も年を取りましたね。今までの尽力、とても感謝しています。しかしそれは考えすぎかもしれません。少し休まれてはどうですか。後のことは勇者竹下に任せて。」
「女神様のお心遣い感謝いたします。お言葉に甘えさせていただきたいと思います。」
田中は女神の神殿を退出して、自分が統治する神聖リーセ国に戻った。




