断章. 負け狗と小さな革命家
閃光。
衝撃。
耳をつんざく断末魔が如き轟音と、目前に迫りくる破壊の権現。
まるで大地に両脚が深く突き刺さったような、頑強な鎖に雁字搦めにされたような。
全身の筋肉が硬直し、痙攣を始めた。
ガタガタと大爆笑を始めた膝に渇を入れて必死に虚勢を張って絶望に相対した。
意識が、感覚が認知可能な範囲からありったけの“霊力”をかき集めて、未だかつてない速度で循環させた。
血脈が沸騰しそうな程に熱く燃え滾り、燃料を得た魂が終幕へ抗おうと全霊を振り絞った。
そして、勢いそのままに──
「……ッ、!? ガッビ……!?」
俺の抵抗など鼻で嗤って。
易々と、貫いた。
「くっそたれが…………いじけてやがる」
激しく動悸を訴える本能を、ただの悪夢だと宥めて落ち着かせる。
これで三週間だ。
俺が、あの怪物に敗北を喫して、這う這うの体で戻ってきて。
瞳を閉じて微睡に意識を任せると、いつだってあの刹那の光景が繰り返し鮮明に甦る。
その度に死の寸前を追体験させられて、息切れと耐え難い喉の渇きに悩まされる。
一度目覚めると寝付けの悪い俺じゃあ時間の無駄だ。
既に太陽は昇ってるのだから、うじうじと悩まずに行動を起こすべきだろう。
「いてぇ……まだ治んねえのか。この傷は」
身を起こして市場で調達した服装に着替える。
爆風と熱気で襤褸切れ同然に千切れた軍服は使い物になんねえからな。
それに、あの堅っ苦しい格好じゃあ傷が締め付けられて敵わねえ。
左肩から寸分のずれもなく一直線に引かれた刀傷。
意味わかんねえ速度で飛んできた小岩が掠った額や、それ以前に負った掠り傷は完治しているにも関わらず、だ。
こいつだけは蝸牛かと思う程度には治りが遅い。
最後の一撃に込められた“霊力”の絶対量を、それを欠片も気取らせず手中に治める技量、そして涼しい顔で「受けてみろ」とか思ってそうなあの面を。
全てが忌々しい。
「………………腹の虫がおさまんねェよな。あの怪物が」
情けねえ。
悪いのは何もかも俺だ。
ただ単に弱いから負けた。
油断していたから一本取られた。
見下していたから立場が変わった。
ギルドマスターの部屋で打ち合った時はその程度かと失望した。
鈍の鉈で俺の斬撃を弾けても、“霊力”を固めた肉体には届きはしないと。
「くそッ……頭がわれっそうだ……!」
辛気臭え面してても解決はしねえ。
腹だ。虫の居所が悪いならたらふく食って満足させてやらあいい。
明日にゃ北西のアデラに入って山越えなんだ。
滅多に来ねえロンディーン領も堪能しちまおう。
視察だ視察。
これも、帝都守護の職務だ。
だから、今は。
ちっとばかりは目を逸らしてしまおう。
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街の喧騒ならフォルド領の方が上だったな。
むしゃりと豪快にかぶりついた肉を食んで、市場を行き交う民を眺める。
パサついた食感だが、何も食わねえよりましだ。
期待よりは遥かに良い味だしな。
まだまだ未開の地だと思っていたが……東と大して変わらねえな。
だからこそ、西側領土が結束した際の反動は無視しえないものとなる。
自然の要塞によって東西に分断されている帝国は、歴史上、西の反乱を何よりも恐れている。
まっ、仕方ねェよな。
俺もてめえの眼でみてようやく理解できた。
東と変わらねえ水準なら、やりよう次第で幾らでも勝負に持ち込める。
そう、あいつみてえな化け物を頭にすげりゃあ。
「ちッ、気分わりいぜェ」
何も気分転換になっちゃいない。
中央を走る車輪の音は轟音を、きゃあきゃあと喚く歓声は俺を嘲る音に変わる。
「怖気づいてる? 俺が? ははッ、ふざけんじゃねえぞ」
まさか、事ここに至って前戯だと抜かすつもりはない。
あれは混じり気のない本気だった。
純度に満ち足りた殺意をびしばしと感じたから。
地を抉り、空を裂き、“霊力”すらも消滅させる破滅の奔流。
あれでただ本気の一撃ってだけだ。
速度や破壊力は連発できる。
まさか地形を変える斬撃を連続で放てるのか、それは疑問の余地がある。
だが、やる。
あの男なら、できてしまう。
一度本気のあれと相対すれば嫌でも理解させられる。
信じさせてしまう実力を見せてくれたのだから。
赤く煌めく双剣から放たれた一筋の光は俺のけったいな想像力じゃあ無理な像を結んだ。
いや、これも違うな。負け惜しみだ。認められねえんだな、俺は。
あの白髪の男、オリバー=ロムルスは俺より強ぇってな。
苛立ちをぶつけるように手元の肉をかみちぎるのと、小さな衝撃を足元に感じたのは同時だった。
「きゃっ!?」
「……? おォ、済まねえな嬢ちゃん。怪我ァしてねえか?」
「い、いえ……大丈夫です。どこも痛くありませんので」
頭を振りつつ立ち上がり、両手を挙げて健全をアピールするのは少女だ。
俺の半分程度しかねえ身長に灰色の長髪、きびきびと返答する声色から見かけによらず利発であることが窺い知れる。
華奢な身体を纏う質素なベージュのパンツに、白のシャツ、申し訳程度のカーディガン。
町娘と一目でわかる少女だ。
したって、目も当てられねえくらい情けねえ。
忘れられない出来事に思考を支配されて、警戒を怠るたあ…………それでも帝都守護か。
「……? どうしましたか? お兄さんこそ、怪我しましたか?」
「怪我ァ? 俺が?」
こてんと首を傾げる少女の表情は疑いなく俺の安否を案じている。
この俺を、心配しやがってらァ。
帝都じゃあ誰彼構わず目も合わせず傅きやがる。
帝都守護が皇帝の直属とはいえ、肩を震わせて、必死に「とっとといなくなれ」と願い下げたくもねえ頭を下げる。
まるで俺が理性のねえ戦闘狂みてえに扱ってよ。
『武将』、『帝国の暴走機関』だとか揶揄される俺が、西じゃあどこにでもいる、ありふれた近所の兄ちゃんだぜ?
「ははッ、はッはっは……! ヒハハハハッ! そうだよなァ! 俺はどこにでもいる人間なんだよなァ!」
「……っ、!? あ、あの…………?」
ああァ、そうだよ。
俺はシロイ。
『武将』であり、帝国一の武芸者であって、ただの人間だァ。
幾ら剣をうまく扱えても、正確に槍を投擲しても、矢をつがえて撃ち抜こうが、向かうところ敵なしの体術を誇ろうが。
突き詰めれば所詮は人間。
人外の怪物には太刀打ちできねェ。
なら、俺も。
俺も怪物になりャいいんだよ。
「ヒハハッ! ありがてェな、ありがてェぞ、嬢ちゃん。俺ァ、大切なこたァ思い出したよ」
「ちょっ……!? なん……、何ですか……っ!?」
ぐりぐりと小さな頭を撫でまわしてやると、抗議するかの如く俺の手を払いのける。
そのまま睨むように距離を取りやがる。
大人びてると思ったが、案外子どもらしいところもあるもんだ。
紅潮した頬に、吊り上がった眉、潤んだ瞳。
なるほどなァ。
ミッドアイの奴がどうして娘を溺愛するのか、理解できた気がする。
可愛いんだろうなァ。
まるで小動物だ。
「わりィな、嬢ちゃん。怖がらせちまったみてェでよ」
「発作は……落ち着きましたか?」
「あァ。吹っ切れた気分だァ。嬢ちゃん、お前は恩人だ」
「は、はぁ…………まあ、悪い気はしませんね」
「ハハッ、ちったァガキらしくしやがれってな。それはそれとしてだ、嬢ちゃん。その赤いのは何だァ?」
「へ?」
なんてことはない。
綺麗に大事に使っているのだろう、染み一つないシャツに大きく円を描くように広がる赤色。
前衛的な柄だと思ったが、変に匂いやがる。
まさかとは思うが…………?
「もしかしてよォ、嬢ちゃん」
「……………………は、はい。サイビです」
「詳しくはなれの果てってなァ」
「い、いえ……ほとんど食べていたので包み紙に残ってたソースだと…………思います」
サイビ。
西側領土、ロンディーン領で著明な軽食だ。
薄いパン生地に新鮮な具材を載せてロンディーンの専業調剤師の特性ソースで味付けをした美味な食い物。
そういや、まだ食ってなかったなァ。
「違ェな。俺のこたァいいんだ。嬢ちゃん、時間あるか?」
「……ぇ?」
「ちっと付き合ってもらうぜェ?」
「は……? え、まっ…………?」
困惑に身を固める彼女には悪いが、あまりごねられる訳にもいかねェしな。
確か、城で給仕の連中が話してた。
女の子はいつだってお姫様ってやつに憧れてるらしい。
悪いなァ、嬢ちゃん。
この程度で恩が返せるとは思っちゃいねェよ。
けど、やらせてくれ。
俺とぶつかってその服をダメにしちまったのなら。
俺が清算するのが、筋ってもんだ。
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一つ、俺に身なりをどうこうする気はない。
一つ、俺が他人の服装を気に掛けることはない。
一つ、必要最低限の防御力さえあれば装備はなんでもいい。
だから、俺に服飾屋の知識は皆無だ。
例えば年頃の娘に贈る服だとか、ひらひらした可愛らしい洒落た服だとか。
しったこたァねェ。
だが、俺が唯一知ってる服屋ならある。
「済まねェな。俺が見繕える衣服ってなァ。こんなもんしかねェ」
帝国各所に点在している防具店。
西側とはいえ、多少名の知れた刀匠が提供している武具ならば、嫌でも俺の耳に入ってきやがる。
ここがロンディーンでよかった。
比較的、東に近ェおかげで視察までした店が一つだけあった。
所狭しと並べられた防具の数々。
白刃を晒す空間に、ぽっかりと主張をしない布が数多つり下がっている。
「あの……?」
「俺が汚しちまった服の代わりだァ。お前に案内させると煙に巻かれそうだったからなァ」
「だから、無理やり連れてきたんですね……」
「あァ。最短距離、最高速度でなァ」
「強引な人ですね。急に笑い出したかと思えば、いきなり防具を買うだなんて」
ぶつくさ呟いてはいるが、俺には関係ねェな。
迷惑? 同情? しったこっちゃねェよ。
俺がしてェことだ。
俺ァいつだって手前勝手で、だからこそ誰よりも自由なんだよ。
「いらっしゃいませ。お望みの武具はございますか?」
「ァ? そうか、測量もやらなきゃいけねェしな。これ、このガキに合うものはあるかァ?」
「少々お待ちください」
にこやなか店員だ。
終止客へ向けた仮面をつけたままに奥へ引っ込んでいきやがった。
ここの店主とは幾度か顔を合わせてる。
基本的に俺を出迎えるのはあいつだから、店員に武具を頼むことはない。
そもそも、俺は俺の獲物をよく知ってる。
つまりは、勝手に手に取り吟味できる。
他人に何かを贈るなんて行為自体、俺には初めての……。
「……待ってください。“霊骸”なんて受け取れません」
「いいや、受け取れ。俺の感謝と謝罪の証だァ」
俺がリクエストを申し出た商品。
最高級の布へと“霊力”を込めた防具。
それが“霊骸”。
重く動きずらい鎧とは異なり、シャツのように着用するだけで木端の鎧よりも防御力を上回る優れもの。
俺の誠意を示すのに丁度いい。
「だからって高価すぎます……っ! 最低でも六金エールですよっ!」
「安心しろやァ。んな薄っぺらい“霊骸”な訳ねェだろ? ここで一番のやつにする」
「安心できませんよっ! だって…………! 三十金エールですよ!?」
「金の心配してくれんのかァ? やっぱし、お前は優しいなァ。まァ、ここのオーナーとは顔見知りだしなァ。つけてくれっだろ」
「え、えぇ…………あの、ほんとに、あたしは…………っ」
まだごねるのか。
心根が善性に偏り過ぎてやがるな。
ここは俺が折れねェとマジで受け取らねェ気だな。
「ならァ、次に会った時に、もう一度俺と話してくれ」
「は…………?」
「自慢じゃねェが、俺ァ独りだァ。だから、言葉を交わすってのが愉快なことだって知らなかったァ」
「……………………変です。やっぱり、変な人です」
「ヒハハハッ! 変人かァ。新鮮だなァ。狂人としか呼ばれたことねェしな」
「それは……いいことなんですか?」
…………心地いい。
会話、いや、対話か。
そうだ、対話だ。
俺とこのガキは今、対等なんだァ。
だから気遣いも、恐怖も、差異だってねェ。
なんてこたァねえ言葉を交わして、他愛ない出来事を共有して。
強者と死合をする快楽じゃなく、心が澄み渡るような感覚。
きっと、これは忘れちゃならねェ感情だ。
だが、もう終わる。
練磨した感覚が気配を教えてくれる。
店員が戻ってきて、“霊骸”を見繕ったらさよならだ。
名残惜しいってなァ…………いってェな。
「お待たせいたしました。こちらなどどうでしょう?」
「あァ……? そいつァ?」
──どういうことだァ?
そう、俺は問おうとした。
ふざけてるのかって、怒りが湧き上がってきた。
だが、俺の口は、思い通りには言葉を紡いでくれやしなかった。
「奴隷には勿体なき代物でございますので、こちらで。おい、拾え」
「ひゃっ…………!」
ガランガランッ! と甲高い金属音は、赤黒い血潮の乾燥した古びた鎧から発していた。
全く違う。
俺に向ける視線と、あいつに発する声が。
「困ります、お客様。ここは名のある冒険者の方や、あの帝都守護のシロイ様もお使いなされる由緒ある店なのです。フフェス人との混血に与える武具など、それで十分ではありませんか」
こいつァ、何を言ってる。
シロイは俺だァ。
確かに普段の軍服は着てねェが…………違う、待て。
混血だと? それだけの理由で?
「そら、犬みたいに這いつくばって失せろ」
こいつは本気で言ってやがるのか?
侮蔑を甘んじて受け入れろと、それを許容しろと、言ってるのか?
「…………はい」
「やめろ」
「ぇ……?」
「やめろってんだァ。拾う必要もねェし、泣く必要も、ねェ」
くそったれが。
俺はこいつを、このガキを不幸にしてェ訳じゃないんだ。
フフェス人であろうが、エルシニア人であろう、混血だろうといいじゃねェか。
何が違う、俺とこのガキと。
「お客様? お気に障りまし──」
「黙ってろ、てめえは」
あァ、いけねェ。
これは抑えきれないなァ。
怒りで何も見えねェってのはまやかしだと思ってが、存外ありふれた話らしい。
「ですがお客様、“霊骸”は奴隷に勿体ない代物であります」
「奴隷じゃねェ……ッ! こいつァ、俺の──友だッ!」
まるで当然のように言葉と拳がするりと発せられた。
そうか、俺は。
名前も知らねェ、このガキを。
友人だと、心を許してもいい存在だと。
そう、思ってたのかァ。
馬鹿みたいに吹っ飛んだ人の形をしただけの鬼畜のことはどうでもいい。
謝罪なんざ建前だ。
感謝なんざ表層だ。
俺は、少しでも長く…………こいつと話をしていたかっただけなんだ。
❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐
日は落ちていた。
ひと悶着はあったが、とりあえず身体に合いそうな“霊骸”を購入した。
怒りが、誰かを想って力を振るうことが、精神に負荷をかけるなんて知らなかった。
この俺に、『武将』シロイに、友人だと思える人間が現れるなんて、想像もしていなかった。
いつだって俺の前に立ちはだかるのは敵だ。
俺の隣に並び立てる者は騎士でも部下でもない。
ミッドアイは俺より弱くて、オロライアやオリバー=ロムルスは俺よりも強い。
だから、俺の隣には金輪際誰も座らねェもんだと決めつけてた。
まったく、とんだお笑い種だ。
殺し合いにしか生を見出せない俺が、談笑と平穏を良しとするなんざ。
「…………済まねェなァ。気分悪くさせちまった」
あの腐りきった奴の口ぶりは侮蔑と嫌悪に溢れ、あれっきり、彼女は一言も喋らない。
店を出る時も、“霊骸”を受け取った時も、こうしてあてもなくふらふらと歩いている最中でもあっても。
ただ俯いて、口元を引き絞っているだけ。
どうにも、失敗続きだ。
「なァ、あいつの言ってたこたァ気にしなくていいんだ。俺ァ、お前を見下してたりなんざしねェからよ」
滑稽だ。
必死に機嫌を取ろうとして、慰めようとしている。
今日は未知だらけだ。
俺はこんなにも弱くて、人の感性は酷く脆くて、複雑な回路を描く感情とやらに。
翻弄されている。
「だからよ、なんだァ…………」
「いいですよ、あたしは大丈夫です。慣れてますから」
「慣れてるってよォ。そりゃァ、いいのかァ?」
心底、反吐が出る。
気丈に振舞っているだけかもしれないが、それでも返答してくれたことに。
歓喜している。
俺が、こいつを傷つけたくせに。
「あの、“霊骸”ありがとうございます」
「お、おォ。まァ、気に入らなかったらァ売っちまっていいからよ」
「売りません。絶対に。これを着る度にあたしは貴方を思い出します。そして、もう一度。もう一度、会えることを楽しみにしてます」
絶句した。
肝が据わってると、臨機応変に対応できると高をくくって。
振り返った彼女の瞳の、芯の強さに。
口元に携えた微笑みに。
快活にステップを踏む足取りに。
「あたしはアリーって言います。今更ですけど、あたしの名前です」
まるで悪戯が成功した子どものように、彼女は──アリーはべっと舌を出した。
小さくて、細い。
力を込めると手折れてしまいそうになるアリーは、きっと俺の出会ってきた誰よりも強い。
壊したくなかった。
手放したくなかった。
こんな曖昧で、ひりひりと魂が痛む経験はなかった。
だから、俺は純粋に怖かったんだ。
俺は帝都守護の『武将』シロイ。
この帝国じゃあ皇帝の次に席次の高いお役人だ。
シロイなんて名は特別で、白髪の武芸者ってだけで特徴的。
失いたくはないものを、人は一体どうやって守る?
「俺ァ、ブラン。アリー、俺はお前を見つけて、会いに行く。今度はお前の行きたいところへ連れていってやる。だから──」
「はいっ、楽しみにしてます。では……また、会いましょう」
パタパタと忙しなく遠ざかる後ろ姿を、俺は見えなくなるまで追っていた。
シロイではなく、ブランとして。
どこでにもいる人間として。
俺は初めて、噓をついた。
最初で最後の、噓を。
どこかの青年に完膚なきまでに叩きのめされたシロイ君。
彼の往く道には、一体何が待ち受けているのでしょうか?




