22. リヴァチェスター領
ガタガタと所狭しと肩を狭めて詰め込まれる馬車の荷台では、小窓などなく何処を走っているのかは不明瞭なままだ。
隣に座る者の吐息が分かる程度にはせせこましい車内では快適さなど望むべくもなく、息苦しさだけが増していく。
休息は皆無に等しく、数十時間に一度の水分休憩があるかないかだ。
思わずため息を吐いてしまいそうになる現状に、幾度となく反芻した記憶が蘇る。
アナスタシアが疑念を抱いてしまったがために、ホロウと別れてあれよあれよの間に攫われてしまった苦々しい経験。
視線を右隣に投げかけると、うつらうつらと舟をこいでいるアリーの姿が見受けられる。
なんとも無防備であるが、時すでに遅く、既に人攫いなどという連中に拉致されているのだからと割り切っているようだ。
確かに、快適とは言い難いものの警戒をする必要のない旅路とは気の持ちようが違う。
だが、これは如何なるものか…………。
とはいえ、彼女の提案にのって共闘関係を築いたのだ、今更人間性についてとやかく口うるさく言うつもりは毛頭ない。
けれども、アナスタシアの左肩に頬をのせて目を閉じ、眠っているテリアに関しては流石といえよう。
アリーが声をかけてきた最大の要因としても、テリアの実力を買っているからこそだ。
戦闘能力のみならず、テリアは皆の精神面のケアを行っていた。
厳しい移動中にあって、感情を爆発させないように。
それでも、中には衰弱してしまい今にも意識を手放しそうな者もいる中で、ようやく変化が起こった。
あまりにも唐突であったがために、事態の理解を拒んでしまう程には大きな変化だ。
急激に速度を落としたのが気に障ったのか、慣性に従って停止する馬の戦慄く雄叫びが耳朶を打つ。
勿論、荷台で膝を抱えるアナスタシアらは飛び上がるように進行方向へと身体を倒してしまい、哀れにも潰されかけてしまった者が悲鳴を上げる。
「アリー、到着したのですか?」
「分かりません…………あたしも西側には詳しくありませんから」
「もし~、リヴァチェスター領がぐるぅ~り森に囲まれてるなら~、着いたんじゃな~い?」
「では、道半ばですね。何か、急停止する必要があったのでしょうか……?」
“龍人”たるテリアの勘は、薄い木材に囲まれた荷台の中であっても正常に機能する。
ならば、アリーの判断通り、不足の事態でもあったのだろう。
考えられる可能性としては…………獣の群れに馬が恐れをなしたか、野盗か盗賊でも現れたのか、それとも、正規の帝国兵にでも検問されたのか。
どれもこれも、アナスタシアが商人として旅をしていた頃の懐かしき思い出だ。
今となっては商品として運搬される羽目になるとは…………やはり、人生とは理想とかけ離れてしまうものだ。
「…………襲撃者、みたいね~」
「人数は分かりますか?」
アリーの問いには幾らかの希望が含有されていた。
いいや、彼女のみならず、荷台で膝を抱えていた少女たちも目を輝かせているようだ。
凡そ最悪といえる現状を打破してくれる存在が現れたのだから、気持ちはわからなくもない。
だが、この場で唯一外の情景が分かるテリアの表情は芳しくない。
つまりは──
「えっとね~、一人だけかな~?」
「ぇ? ひ、一人ですか?」
「そのとぉ~り。随分小柄だけど~、にっこり笑顔の白い仮面を被ってて、真っ白毛皮のマントを羽織って~…………サラシときれぃな太ももを惜しみなく露出してる短パンだけの~、変人さんみたいだね~」
「ね、ねえ、テリア。それって本当に? わたくしたちをからかっている訳ではなく?」
「ほんっとうのほんっとうよ~。あ、喋りだしたわ~」
衆人監査の前でなければ、思わず頭を抱えたくなる程のショックだ。
アナスタシアとて、アリーや皆と同じように希望を抱かなかったと言えば嘘になる。
あわよくば、テリアと共に襲撃者に加勢して、人攫いを懐柔した上でアリーの作戦を実行したかった。
更に楽観的で、希望的観測に頼るのならば…………彼が助けに来てくれたと思ったのだ。
きっと、彼のことだから救出に向けて動き出してはいるのだろう。
アナスタシア自身が一歩引いてしまう熱情を額面に出していた彼だからこそ、信用していた。
けれども、どうやら彼の到着はまだ先のようだ。
彼は小柄ではないし、テリアの語るようなふざけた格好では現れないだろうから。
「人攫いのおじさんが罵声とか野次とは飛ばして~、……………………」
テリアの解説と外から聞こえる濁声にアナスタシアの思考は引き戻される。
現段階で考えなければならないのは、彼の所在や動向ではなく襲撃者の目的だ。
必要とあらば、加勢に出る決断も下さねばならないだろう。
「……? どうしたのですか?」
「ちょっと待ってね~? 不本意だけど、あたし、おじさんたちと同じ気持ちかも~」
「はい? テリアさん、外では何が起こっているのですか?」
「驚かないで聞いてほしいんだけどね…………「ゎ……ゎたしは魔法少女ダークプリズム! 正義と公正の使者! 悪辣非道の人攫い共め、愛の名の下に泣いて許しを乞うがいい!」って~」
それは誰もが思考を止めてしまうだろう。
事実、テリアも、アリーも、皆も疑念に支配されて欠片も動けていない。
動揺を禁じ得ない瞬間を目の当たりにして、思わずそんな摩訶不思議な相手をしている人攫いの面々へ同情してしまう。
「テリア、確認するわよ? 襲撃者は魔法少女と名乗ったのよね?」
「詳しくは魔法少女ダークプリズムだよ~」
「あ、ああそう。それで、その娘は…………降伏を勧めている、でいいのよね?」
「そう捉えるのが自然でしょう。それにしても、冷静沈着なアナスタシアさんが狼狽するなんて……侮れませんね、魔法少女ダークプリズム」
「そうね~、おじさんたちの罵声も何もかも寛容に受け流してるし~、アリーちゃん。これはチャンスかもしれないよ~? 魔法少女ダークプリズムの力を借りて一網打尽にするべきじゃな~い?」
「テリアさん、あたしも同じ考えです。魔法少女ダークプリズムと一緒なら、何でもできる気がしてきました」
互いに見つめ合って固く握手を交わすテリアとアリー。
そんな二人の様子を見て信用したのか、気が付けば誰もが魔法少女ダークプリズムの名を口々に呟く始末。
いや、そもそも何だよ、魔法少女ダークプリズムって。
熱狂的な雰囲気の中、たった一人素面で佇む疎外感とは容易に言い表せない寂寥感がある。
そして、身元且つ意味不明な存在を俯瞰して判断できるのは自分だけだとハッキリと分かった。
「落ち着きなさい、二人とも。その娘が信頼できる保証がどこにあるんですか?」
「違うよ、アナスタシアちゃん」
酷く真剣な面持ちで否定を口にするテリア。
その言葉の裏には、彼女にしか感じ得ない何かがあるのだろうか。
「……ッ、もしかして何か信用に足る理由が──」
「彼女は魔法少女ダークプリズムだよ」
「はっ倒すわよ。名称は何でもいいの。テリア、先走らないで経過を教えて。その都度、わたくしが判断するから」
「はぁ~い」
不貞腐れたように外部の情景へと意識を集中させるテリア。
彼女の様子に充てられたのか、アリーもまた口を閉ざして続く言葉を待つ。
まるで感情が伝播したかのように静けさが支配していく荷台にあって、アナスタシアは改めてアリーとテリアの及ぼす影響力に感嘆してしまう。
有無を言わせないカリスマ性を誇るアリーに、そんな彼女が見初めた実力を誇るテリア。
忠実に、しかして独裁的ではない支配体制には商人として学ぶべき点が多い。
とはいえ、現状では商人どころか、人間として扱われることすらないだろう。
目下、脱出及び反撃に意識を割くべきだろう。
「…………動いたわね~。魔法少女ダークプリズムの要求をおじさんたちは呑まずに、勢いそのまま彼女も商品にして売りさばきたいって」
「それで、返答は?」
アリーの問いがまるで全てを物語っているように、重くのしかかっている。
彼女は決断を、下すつもりだ。
仮称魔法少女ダークプリズムが、一体如何なる価値観で動いているのか。
如何なる信条の下で人攫いの馬車を襲撃するのか。
生憎と、アナスタシアでは彼女の心層までは読み解けない。
【権能】を用いようにも、アリー相手ではまるで霧がかかったように曖昧で、掴みどころのない結果に終わってしまう。
アリーの【権能】か、あるいは見かけによらず“霊力”操作の練度が図抜けているのか。
詰まる所、アリーの導き出した結論に、アナスタシアでは口を挟めないのだ。
アリーのみならず、アナスタシアもまた固唾を呑んでテリアの続く言葉を待つ。
「…………殺す。ただ一言だけ」
「そうですか。作戦は変わりません。このまま大人しくしておきましょう」
安堵と反発。
アリーの決断を称賛したい傍ら、本当にそれでいいのかと訴える自分がいる。
一体、自分は何に引っかかっているというのだ? 後ろ髪を引かれるどころか引きちぎられるような感覚に困惑してしまう。
薄暗く息苦しい荷台に押し込められて気でも狂ったか。
若しくは、培ってきた商人としての勘が、他者の思考や感情に干渉する【権能】が、魔法少女を名乗る少女の本性に共鳴しているのか。
どちらにせよ、アナスタシアはアリーの決断を尊重せざるを得ない。
既に協力関係を結んでいる手前、確証もない理由で彼女に否を唱えるのは愚策だから。
そんなアナスタシアの出口のない苦悩は、空気を引き裂く金切り音と共に消え去っていった。
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大失敗だ。
大木に体重を預けて肩で息をしつつ、ちらと空へと視線を向ける。
まばらに羽ばたいているものの、益がないと悟り散ったのか既に介在者の気配は薄れていた。
命の危険もなくなったところで、重ねて断言しよう。
ああ、大失敗だ。
作戦開始当初は計画通りに進んでいたはずだった。
人攫いの気を引きつつ、その隙に己が荷台へと近付きアナスタシアたちを開放する。
そして、間髪入れずにラクシュミーが捕縛された仲間へと話を通してリヴァチェスター領までの作戦を実行する。
何ら難点の見当たらない、穴のない計画であった。
無論、人攫いがすぐさま実力行使に移行する可能性も考慮に入れていたが…………だとしても、ホロウの実力をもってすれば容易に鎮圧が可能であった。
更に、乱戦の気配を感じ取ると人攫いの背後からテリアが応戦するだろうとも。
しかし、ラクシュミーの話では人攫いの裏組織には帝国内でも屈指の悪徳商会が付いていると。
故に、ホロウの素性が割れる訳にはいかなかった。
ハギンズらスウィツァー商会と同時に相手取るにはリスクが高すぎるために。
作戦に瑕疵はなく、万全に機能するはずであった。
だが、何たる体たらくか。
「おい、悪党。一体全体何があったんだよ……! てめえの作戦は成功するって触書だから信頼して任せたんじゃねえかよッ!」
傍の大木に身を隠していたラクシュミーが、まるで親の仇のように表情を歪め、己の胸倉を掴む。
糾弾する言葉にはなけなしの信用すら裏切られたかの如く、猜疑心に満ちていた。
「ああ、成功するはずだったんだ。それは確かだ…………確かなはずなんだ」
「あ゛? 根拠のねえ自信なんざ、一文の価値もねえぞ。てめえはオレらにそんな危険な橋を渡らせたのか? あァ?」
全く、御尤もだ。
ラクシュミーにしてみれば、彼女自身にも作戦があったにも拘らず、己が立案した計画を成功を断定した上で強引に進めたられたのだ。
文句の一つだって言いたいだろうし、その権利が彼女にはある。
故に、今はされるがままに憤怒を受けよう。
自身の言葉が火を付けたのか、言葉尻と共にギリギリと向上する力は余すことなく己の身体を締め付け、メキメキと背の大木が悲鳴を上げている。
彼女の肘は的確に己の肺を押し潰し、睨め上げる視線は鋭く細められている。
「そう凄まないでくれ、ラクシュミー。誰よりもボクがこの結果に衝撃を受けているのだから」
「そうは見えないがなァ、おい」
どうやら、怒りが臨界点に到達したのであろうラクシュミーは、右腕を己の胸倉から離して拳を固める。
血の滲む程に握りしめられた様子から、余程昂っているのだと理解できる。
まあ、いいだろう。
ここらで一撃でも受けておかねば、戒めにはなるまい。
これは、己に課す楔でもあるのだ。
「寄せ、不審者。『悪人』の言葉は事実だ。吾もまた、此度の失敗は未だに信じられない」
悟りを得たかのように瞳を伏せた己を養護するように言葉を発したのは…………オスマンでも、ビザンツでもなく、白い毛皮に包まれた正義の使者、魔法少女ダークプリズム──ではなく、ホロウだった。
なんと、ああ……あのホロウが己の肩を持ってくれるなんて。
感動の余りほろりと涙の一つでも流して見せるかと意気込んでみよう。
「おい、『悪人』。何も吾は貴様のためを思った訳ではないぞ。貴様の【権能】に全幅の信頼を置いているだけだ。だからその期待に籠った眼差しをやめろ。反吐が出る」
成程。
確かに今回の作戦を立案する上では【運命識士】にて閲覧した“未来”の中で最も安全性と合理性の高い二つの路を選択した。
明け透けに【運命識士】は使用していないものの、ホロウならば己が【権能】を用いた上で作戦を構築していると予想できるだろう。
…………そんなことだろうとは思ったさ。
そう簡単にホロウが己に命を預ける訳もない。
ラクシュミーに殴られるよりも戒めになったな。
「チッ、てめえ……【権能】を使ったのか」
「……? 不審者、貴様何か含みがあるな」
手製の仮面を脱ぎ去り、普段の装束に着替えたホロウが形のよい眉をひそめる。
暗殺者としての勘か、はたまた不穏な空気でも察したのか視線を逸らしたラクシュミーへと追求している。
まるで失敗の原因に合点のいった彼女の様子は確かに気にかかる。
「ああ。オレの友人なんだが…………あいつ、んでかわかんねぇが、【権能】が利きづらいんだよ」
「ほう? 例えば?」
「オレの【権能】…………念動力みたいなもんなんだ。【配界動観力】ってんだが、物体なら何でも動かせる」
「汎用性が高い【権能】だな」
「ああ、我ながら唯一の自慢だ」
鼻高々に応答するラクシュミーには同意できる。
一言に括ってしまえばサイコキネシス、念動力の一種なのだろうが制約が余りにもなさすぎる。
物体の許容範囲も定義次第では相手の魂すら物体として認識しうるし、指向性すらも自在ならば内外へと加える力を同時にかけてしまえば重力操作に匹敵する。
ホロウが手放しに称賛するだけはある。
「研鑽途上ではあるがな。それでも、そこの獣を留めるだけの出力はあるんだぜ?」
「ああ、だからビザンツはつんのめっていたのか。彼の全霊を押しとどめるとは、相当に強いな。人間相手では無双できるだろう」
「ああ、そうなんだけどな…………?」
「まさか、その友人には効かないとでも?」
「その通りだよ。あいつを相手にすると途端に出力が下がっちまう。そうだな、魔獣の突進を小指で止めるような感覚って言えば伝わるか?」
「…………ならば、『悪人』の【権能】が阻害されたのにも頷けるか」
ラクシュミーの説明を聞いてようやく理解できた。
どうして彼女の友人についての記述が【運命識士】では曖昧だったのか。
どうして数多ある“未来”の中で失敗する路が存在すると記述できなかったかも。
彼女の友人がそこに絡むと、【運命識士】は十全にその機能を発揮できないのだ。
全く、酷く憎々しいタイミングで最悪を引き当ててしまった。
一刻も早くアナスタシアとテリアの安全を確保したいというのに、【権能】を制限されるなど。
いや、恐れていた事態が起こってしまったと悲観すべきだろう。
【運命識士】は強力だ。
幾重にも交わる“未来”の片鱗を閲覧できるなんて反則技がどこかで通用しなくなると、可能性として予測していた。
ただ、タイミングが悪かったのだ。
今はただ、瞠目して悔悟に打ちひしがれたい気分だ。
「おい、『悪人』。一から立て直すぞ」
「……ッ、やべぇ……! 締めすぎた…………!」
ホロウの言葉と視線が己を突き刺し、ラクシュミーもまた己を視界に収めようと向き直ったらしい。
だが、どうにも彼女は瞳を閉じてしまった己の姿を見て、落としたと勘違いしてしまった。
慌てて胸倉から手を離してまるで割れ欠けの水晶玉を磨くような優しい手つきで座らせてくれる。
…………そこまでするのならば、そもそも掴まなければよかったのでは? と思わなくもないが、激情に駆られた人間とは時に不合理な行動に走ってしまいがちなのだ。
「問題ないぞ、不審者。『悪人』は数分程度呼吸ができずとも生命活動に支障をきたすことはない。そら、とっとと目を開けろ」
「…………少しは労わっても罰は当たらないんじゃないか、ホロウ」
「クソ……ッ、てめえは本当に人間じゃねえんだな」
随分な言われ様だ。
けれども、呼吸は“霊力”を空気の代わりに全身へと張り巡らせることで代用可能だ。
かつて“の戦い”の最中、前代未聞の疫病が流行した際に人間の編み出した呼吸法なのだが、どうやら長い年月の中で風聞より消え失せたようだ。
閑話休題。
「一からの再構築には賛成だよ。先ずは齟齬の洗い出しだ」
【運命識士】の演算通りであれば、人攫いが拒絶した場合、ホロウが制圧する中でテリアが援軍として挟み撃ちをしてくれる“未来”であった。
素性を隠すためにホロウには仮面を被って、装いすらも丸っきり変えて魔法少女となってもらった訳だが。
「魔法少女ダークプリズムの健闘虚しく、テリアの援軍はなく。ホロウの殺気を嗅ぎ付けた翼竜の大群んい襲われて泣く泣く敗走、と」
「おい、ダークプリズム言うな」
「恐らくだが、そのテリアとかいう奴に待機を命じたのがあいつだ。魔法少女ダークプリズムの存在には勘付いてはずだが、あいつの意思が介在するだけで悪党の【権能】は大きく歪んじまうと思う」
「おい不審者、ダークプリズム言うな」
ホロウの茶々は黙殺で構わない。
だが、ラクシュミーの言葉には大部分で頷ける。
あの荷台で如何なる応酬があったのかは不明だが、少なくとも、テリアがいる限り暴力をもってねじ伏せられている可能性は低いだろう。
加えて、話術で懐柔しようにもアナスタシアがそう簡単に鞍替えするとも思えない。
ラクシュミーの友人と、アナスタシアたちは良好、若しくは不可侵の関係にあると憶測してもいいだろう。
差し当たりは.──
「襲撃のチャンスは先の一本道の街道のみだった。しかし、それに失敗してしまったがために…………」
「ああ、懸念通りだろうよ」
「……リヴァチェスター領の、人攫い共の本拠地を襲撃する他にない、か」
ホロウの言葉を最後に三人は思わず口を閉ざしてしまう。
最善は先の作戦でリヴァチェスター領に入る前に先駆けて襲撃をかけて、先手を奪い取ること。
しかし、如何に【運命識士】であろうとも、時間遡行は不可能だ。
つまり、敵の戦場で勝利を目指す以外に道は、なくなってしまったのだ。
「では、決まりだ。オスマンとビザンツの足ならば、リヴァチェスター領まで凡そ三日。それまでは、改め作戦を練るとしよう」
口に出してみれば驚くほどに簡潔だ。
三日後に人攫いの本拠地に乗り込んで、アナスタシアたちを救出。
後に、ラクシュミーたちの本来の目的である、囚われているとされる奴隷たちの開放。
けれども、実行し成功するには途方もない労力が必要とされるであろう。
だとしても、やりきらねばならない。
己の不手際のせいで生じた失態なのだから、完璧に拭いきらねばならないのだ。




