第七話:「血に染まる始まり」
新たな契約を果たし、アルファスの力を得たレオンは、冷たい夜風を感じながら森の奥深くへと歩を進めていた。身体にはかつてない力が宿り、その強大なエネルギーが心の底から沸き上がってくるのを感じていた。彼は以前の自分とは完全に異なる存在となり、何者にも屈しない絶対的な支配者としての道を歩もうとしていた。
アルファスの力は恐ろしいほどの強さを持っていたが、その力を解放するたびに代償として魂を捧げる必要がある。アルファスが言っていたように、レオンはこれから出会う敵の魂を喰らうことで、自らの力を強化していくのだ。しかし、契約の真の意味を実感することになるのは、これから始まる残酷な戦いの中でだった。
最初の標的は、森の奥地に潜む凶暴な盗賊団だった。荒れ果てたこの世界では、盗賊たちが無防備な村人を襲うのは日常茶飯事であり、その犠牲者は数え切れないほどだった。レオンはその盗賊団を見つけ出し、彼らの命を奪うことでアルファスへの代償とする覚悟を決めた。
夜が更け、盗賊たちが焚き火を囲んで酔いしれる中、レオンはその静寂を破って姿を現した。暗闇の中から現れた彼の姿に、盗賊たちは一瞬驚き、次の瞬間には武器を手にした。
「おい、誰だ貴様!こんな夜更けに死にに来たのか!」
盗賊の一人が叫び、レオンに向かって突進してきた。しかし、その刹那、レオンはアルファスの力を解放し、圧倒的な速度で彼に近づいた。力を解放する瞬間、体に湧き上がる感覚は言葉にできないほどの快感と共に、深い闇を体の中に取り込むような狂気だった。
一瞬のうちに剣を振り下ろし、相手の喉を深く貫いた。彼が息絶えると同時に、その魂がレオンに吸い込まれるように感じられ、アルファスの冷たい笑みが頭の中で響いた。
「いいぞ、レオン。その魂が、お前の力の糧となる。お前の手で多くの命を捧げよ。そうすれば、お前の力は無限に増していくのだ」
レオンの心に、冷たい狂気と絶望が渦巻いていた。彼の中で、「殺し」が単なる生き残りのための手段ではなく、力を得るための手段へと変わっていくのを感じた。
盗賊団の中には強力な能力者も混ざっていたが、アルファスの力に触れたレオンにはまるで歯が立たなかった。敵の魂を吸い取るたびに、彼の肉体が異様に膨張し、瞳が赤く輝き始める。気が付けば、レオンの心の奥底には制御しがたい衝動が燃え上がっていた。
「もっと、もっと力を……」
その囁きに突き動かされるまま、レオンは無我夢中で敵を斬り伏せ、次々と魂を取り込んでいった。やがて、自分が何をしているのか分からなくなるほどの状態に陥り、無意識のうちに全てを敵とみなして攻撃し始めていた。
レオンの暴走によって、周囲のものが敵も味方も関係なく攻撃の対象となった。命乞いをする盗賊たちも、彼にとってはただの力の糧でしかなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
すべての敵を倒した後、レオンの意識はぼんやりとしたまま、やがて暴走は収まっていった。足元には、散乱する無数の死体が転がっており、彼の手には血が滴り落ちていた。冷たい夜の静寂の中で、レオンは自らの所業を呆然と見つめていたが、内心では満足感と狂気が湧き上がっていた。
しかし、その時、アルファスの冷たい声が脳裏に響いた。
「暴走の代償、味わったか?これはほんの序の口に過ぎない。さらなる力を欲すれば、より多くの魂を捧げねばならぬ。だが気を付けろ。お前の欲望が限界を超えれば、自らの意志で暴走を止めることなどできぬ」
レオンは息を整え、アルファスの言葉に考えを巡らせた。この力を使うたびに、何かを失っていくような感覚が残り、それがやがて自分を喰い尽くすかもしれないという恐怖も感じていた。
「分かっている……それでも俺は、この力を使って、全てを支配する」
レオンの瞳は冷たく光り、決意を新たにした。この道が狂気と絶望に満ちていると知りながらも、彼はその先に待つであろう絶対的な力を求めて歩み続ける覚悟を固めていた。
全ての盗賊を討ち倒し、新たな力を得たレオンは、次なる標的を思い描いた。盗賊だけでなく、この腐敗しきった世界に潜む強者たち――人間、魔人、他の異種族さえも、全てが彼の力の糧となる存在だった。アルファスとの契約によって、レオンの野心はますます膨れ上がり、やがてその力は一つの組織を築くほどのものとなるだろうと確信していた。
やがてレオンは、自らの欲望に飲み込まれながらも、自分の力を思い通りに扱い、恐怖と絶望を支配する存在へと変貌していくのだった。その先には、まだ見ぬ強大な敵や絶望が待ち受けていることを彼は知っていたが、もはや後戻りするつもりはなかった。