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第四話:「裏切りの影」

瓦礫が積み重なり、朽ち果てた村の入り口で、レオンは荒廃した空気を感じ取っていた。この村には、異世界に飛ばされてから幾度となく訪れたことがある。しかし今回、彼はパイモンの力による強化を得て、再びこの地に足を踏み入れていた。以前のように無力感に苛まれることなく、自分の力を試すべく足を進めるレオンは、かすかな悲鳴が聞こえてくるのを耳にした。

声の出所を辿って村の奥へと進むと、荒くれ者たちが一人の少女を囲み、押さえつけているのが目に入った。少女の目は恐怖に染まり、助けを求めるように周囲を見回している。レオンの中で何かが沸き立ち、気づけば彼はその場に飛び出していた。


「おい、お前ら、離れろ」


レオンの鋭い声に、荒くれ者たちは彼の方を振り返った。最初はただの少年と侮っていたが、彼の眼光と体から発せられる気配に、男たちは不審な表情を浮かべる。レオンはパイモンの力を意識しながら拳を握りしめ、足を一歩踏み出す。


一人が怯えたように顔を引きつらせ、何も言わずに立ち去り、残りの者もその場の異様な雰囲気に圧されるようにして散り散りに去っていった。


レオンは少女に近づき、優しい声で問いかける。


「大丈夫か? もう怖がらなくてもいい」


怯えていた少女は、しばらくしてからようやくレオンの顔を見上げ、小さな声で礼を言う。


「……ありがとう。私はサラ。あなたがいなかったら、今ごろ……」


レオンは少し照れくさそうに頭をかき、少女を立ち上がらせると、今後の旅の話をし始めた。二人はすぐに意気投合し、その日のうちに村外れの隠れ家へと身を寄せることにした。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


夜、焚き火の光が揺らめく中、レオンは不意に強い眠気に襲われ、そのまま眠りについた。すると、いつものように夢の中で暗闇に引き込まれ、何もない虚無の空間へと辿り着いた。


そこに現れたのは、悪魔・パイモンの姿だ。普段はレオンと接することが少ない彼だが、時折こうして夢の中でアドバイスを与えることがある。


「レオン……お前はまだ、力の使い方が甘い」


虚空から響くパイモンの冷ややかな声に、レオンは反射的に身を固めた。


「お前に忠告だが、誰かを信じるなど愚かしい行為だ。この世界では、利用し、されるのが常だ」


パイモンの言葉に、レオンは疑問を抱いたが、彼は嘘をつけない存在。悪魔にとっても真実しか口にできない掟があることを、レオンはぼんやりと理解していた。彼の言葉が脳裏に焼き付くまま、やがて夢は途切れ、現実の世界に引き戻される。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


翌朝、目を覚ましたレオンは、隣で眠っていたはずのサラの姿が消えていることに気づいた。さらに、手元に置いていたはずの荷物もすべて無くなっている。食料、水、そして唯一の防具までもが持ち去られていた。


「……サラ?」


レオンは驚愕し、村の出口まで走った。しかしサラの姿はどこにも見当たらない。村の住人たちの冷たい視線が、彼の絶望をさらに深める。


その時、村人の一人が不気味な笑みを浮かべて近寄り、冷淡な言葉を投げかけてきた。


「あの娘か? もうここにはいねぇよ。お前みたいな甘い奴は、カモにされて当然だな」


レオンの中で怒りと虚しさが交錯する。彼はサラを助け、共に旅をしようと考えていた。しかし、結局のところ、彼女はレオンの信頼を裏切り、物資だけを持ち逃げしたのだ。


「だから言っただろう」


突然、パイモンの声が脳裏に響く。現実には存在しないが、その声だけが冷たくささやいてくる。


「人間は信じるに値しない存在だ。お前はまだ、力の本当の意味を理解していない」


レオンは拳を握りしめ、頭をうつむかせたまま震えていた。力を持っているはずの自分が、まだ何一つ変えられないことに絶望を覚えていた。力だけではどうにもならない、人間の裏切り、荒んだ心。それに、どれだけ力があっても抗えないことを思い知らされる。


しばらく村の中を彷徨い、彼は無理にでも立ち上がり、これからのことを考え始めた。信じる相手を失い、彼が行き着いたのはただ一つの結論だった。


「俺は……一人で生きる」


もはや誰も信じることなく、他人の情けにも頼らず、ただ力を持ってこの世界を生き抜く。それが彼の新たな誓いだった。そしてその誓いは、彼がさらに強力な力を求めるきっかけになる。


パイモンとの契約はまだ完全ではない。さらなる契約を求めれば、より強大な力を得られる可能性があった。しかし、それには血だけでなく、さらに大きな代償が必要になることを、レオンも理解し始めていた。


彼は振り返らず、ただ無言のまま村を後にした。その背中にはかつてのような弱々しさはなく、むしろどこか冷徹で、決意に満ちた闇の色が宿っていた。次に彼が出会うのが誰であろうとも、もう決して信じることはないだろうと、彼自身もわかっていた。


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