第十五話:「変わりゆく運命の兆し」
レオンが集落を後にしてしばらく経った頃、闇の中に異変が訪れる。彼が周囲の力を吸収し尽くし、自らの心まで闇に染められていく中、彼の前に新たな存在が現れたのだ。
夜闇の中、レオンは見慣れた荒野を歩いていたが、ふと異質な気配を感じ取った。辺りを見渡すと、目の前に淡く輝く扉が浮かんでいるのに気づく。扉の奥には微かな光が漏れ、今まで感じたことのない優しい温もりが漂っていた。
「……何だ、これは?」
戸惑いながらも、レオンは扉に手を伸ばし、その奥へと足を踏み入れる。扉の先には、青く澄んだ空と静かな湖、そして美しい自然が広がっていた。そこには、レオンが記憶しているこの異世界とはかけ離れた平和な風景が広がっていたのだ。
すると、湖のほとりに立つ一人の女性がゆっくりと振り向き、微笑みかけてきた。彼女の瞳は静かで深く、まるで全てを見透かすかのような穏やかさを湛えている。異世界の住人らしからぬその雰囲気に、レオンは一瞬戸惑ったが、すぐに彼女がただの人間ではないと直感した。
「貴方がレオン……ですね?」
女性の柔らかな声が彼の心に響き渡る。その瞬間、彼の中の闇の力がわずかに抑えられるかのような感覚を覚えた。
「……ああ、俺がレオンだ。お前は誰だ?」
「私はリリス。異なる世界から、貴方を導くために来ました」
リリスは異世界を渡り歩く「案内者」としての役割を持ち、絶望と破壊に飲まれようとする魂を救うことを目的とする存在だった。彼女の姿に何かを感じ取ったレオンは、自然と耳を傾ける。
「貴方は今、力を求め、あらゆる犠牲を払ってここまで来ました。ですが、その力は果たして貴方の望む未来を導くものでしょうか?」
その問いかけに、レオンは一瞬言葉を詰まらせた。彼の中で渦巻く力への渇望は消え去らないが、リリスの静かな眼差しが彼の迷いを引き出していたのだ。
「……俺は、ただ……自分が生き残るために戦っているだけだ」
「生き残るため、ですか?」
リリスの言葉が深く響き、レオンの胸に刺さる。これまで彼は数えきれない犠牲を払い、自らの魂を闇に染め続けてきた。しかし、その犠牲の先に待つ未来に対して、彼がどこか不安と虚無を抱いているのもまた事実だった。
「貴方が求める力は貴方を守り、そして……貴方の心を蝕みます。ですが、もう一つの道もあるのです」
リリスはレオンに近づき、彼の手を軽く握った。その瞬間、彼の体を包む闇の気配が一瞬和らぎ、彼の内側に眠っていた別の力が目覚めそうになるのを感じた。リリスの存在が、彼の心にわずかな希望の火を灯したようだった。
「貴方が歩むべき道は、決して破壊だけではない。貴方には未来を創る力が眠っている。もしその力を手に入れたいと望むなら、私は貴方にその道を示しましょう」
リリスの言葉に、レオンは初めて心の中で迷いを感じた。自分がこれまで選んできた道とは異なる、破壊の道を超えた「創造」の道。だが、彼の中にはまだ力への渇望が残っており、その心の奥底で燻る欲望を断ち切ることができないでいた。
「もし、俺がその道を選んだら……この力も消えてしまうのか?」
「そうではありません。ただ、貴方の力が異なる形で活かされることになるでしょう」
レオンはしばらく沈黙して考え込んだ。今まで歩んできた道を裏切るような選択に戸惑いがあったが、リリスの存在が彼の心に深い変化をもたらしているのは明らかだった。
リリスは静かに微笑みながら、レオンに手を差し出した。その手を取ることで、彼はこれまでの破壊の道から抜け出し、新たな力と共に未来を切り開くことができるかもしれない。しかし、その道が彼にとって幸せな結末をもたらすかどうかは分からなかった。
迷いながらも、レオンはリリスの手を取るかどうかを考え続けた。彼にとって、リリスとの出会いは今までの絶望に染まった人生を変えるかもしれない重要な出会いだった。
「さあ、レオン。貴方の選択を見せてください」
リリスの優しい声が彼を促し、レオンの心に再び迷いと希望が交差した。その瞬間、彼は自らがどちらの道を選ぶべきかを真剣に考え始めた。