第十一話:「魂の代償」
新たな力を得たレオンの姿は、人々にとって恐怖そのものであった。闇の中を進み、彼は次なる目的地である村へと向かっていた。彼の足取りは迷いがなく、すでに彼の心は失われた魂たちの囁きにかき消されていた。アルファスとの契約で殺した相手の魂を代償に捧げ続けることで、レオンはさらなる狂気と絶望の闇に沈んでいくばかりだった。
村に入った瞬間、レオンの目にとまったのは、ただひたすらに日々を生きる無力な人々の姿だった。誰もが彼をただの旅人だと思い込み、深い闇をまとったその存在の恐ろしさに気づくことはなかった。
彼は静かに村の中央へと歩みを進め、そこで周囲を見渡した。村の人々はまだ彼に気づかず、子供たちが楽しそうに笑い、老人たちが平穏に話し込んでいた。だが、その光景はレオンにとって意味をなさなかった。
「くだらない……この無意味な光景もまた、すぐに消え去る」
そう呟いたその時、彼の周囲に黒い闇のオーラが一瞬で広がり、村全体がその不気味な力で覆われた。村の人々は突然の異様な気配に気づき、徐々に恐怖に染まっていった。
レオンは、彼に近づいた若者に冷ややかな視線を向けた。彼の顔には、かつて人間としての情が感じられたものの、それはすでに消え去り、まるで機械のような無機質な目で相手を見ていた。若者が何かを言おうとした瞬間、彼は力を使ってその命を奪い、その魂をアルファスへと捧げた。
次の瞬間、村の人々は事態の深刻さに気づき、パニックに陥った。子供たちは泣き叫び、大人たちは家へ逃げ込もうとするが、レオンは容赦なく彼らを追い詰めていった。その行為は、まるで目的を持たずにただ殺戮を繰り返すかのように無秩序であり、彼の狂気と闇が具現化したかのようだった。
「お願いだ……命だけは助けてくれ!」
一人の若い母親が必死に命乞いをした。しかし、その声もまた彼の心には届かなかった。レオンは無感情なまま彼女に手を伸ばし、その魂を吸い取っていく。彼がこの世界で求めるものは、もはや誰にも理解できなかった。
アルファスが心の奥で満足げに囁く。
「よいぞ、レオン。貴様の選択は間違っていない。力を得るために他者の魂を糧とし、この世界をさらに支配するのだ」
しかし、その囁きがレオンにとって励ましであるか、あるいは堕落への誘いであるかはわからなかった。ただただ、彼の目の前に立つ存在を排除し、魂を代償として捧げることが日常となり始めていた。
大量の魂を捧げ終えた後、レオンはふと、かつての仲間や友人たちの記憶が心の片隅に蘇るのを感じた。かつての仲間と共に旅をし、絶望と希望を共有した日々。その一瞬の感情は、彼の中にわずかな人間らしさを呼び戻したかのように感じられた。
「……俺は、本当に、これでいいのか?」
その疑問が心にわずかな動揺を与えたが、すぐにデカラビアが夢の中で語った言葉が脳裏に浮かんだ。「貴様は選択し続ける限り、さらなる力が手に入る。その代償を払い続ける覚悟がある限り、心の奥に残るわずかな後悔すらも飲み込まれることになるだろう」
その囁きを聞いた瞬間、彼はかつての感情を再び抑え込み、再び冷酷な支配者の表情を取り戻した。
村を後にしたレオンは、再び闇の中を彷徨い続けた。彼にとって、もはや人間の命や絆など無意味でしかなかった。得た力は確かに強大だが、その代償として自らの心は限りなく薄れ、ただの力の器となり果てつつあった。
彼の背後には数え切れないほどの魂が漂い、その一つ一つがかつて彼が手に入れた力と同じくらいの重みを持っていた。しかし、レオンはそれに気づくこともなく、さらなる力を求めて暗闇の中を進み続ける。
レオンが新たな力に溺れるたびに、彼の魂は確実に闇に染まり続けていた。そして、彼が次に出会う敵や、さらに強大な悪魔との契約が、彼をいかに変えていくのか――それはまだ、誰にもわからない。