(097) 話し相手がいると楽しい
◇◇◇ ホテル ◇◇◇
時刻は21時。
現在オレはマイホームのホテルに戻っている。
今日も長く濃い1日であった。
ベランダで外の風景を眺め、落ち着かせてる。
やはり、高いところから見る東京の夜景は最高。
精神的に疲れたオレの心を癒してくれる。
ふと堀北さんの事が頭を過る。
手術は、成功したそうだ。
担当医からのメールで結果を知ったのである。
なので予定通り、本日は病室に1泊してもらい
明日の午前中に術後の確認をする。
問題なければ退院という流れだ。
退院後はリハビリセンターに通ってもらう事になる。
堀北さん、専属トレーナーを手配済み。
そこでは、主にリハビリ、マッサージ
およびカウンセリングをしてもらう。
これを受けさせる名目は、今回の手術は
臨床試験であるから術後の経過を観察する
というのを表向きにするため。
本当の目的は、手首だけでなく、その他の部位に
ついても違和感があったら故障する前に対処
できるようにするため。
全国大会まで万全でいてほしいから。
そして、世界に羽ばたいてもらいたいから。
前回のように怪我で全力が出せない
なんて悔しい思いは二度とさせたくない。
なので、リハビリセンターは堀北さんの希望が
あれば20年先まで利用できるようにしてある。
オリンピックで戦っている堀北さんを見たいじゃないか。
今からそれが楽しみで仕方ない。
ハルキの携帯を見る。
グループLineが盛り上がってる。
どうやら、朝からずーっとカイと金沢さん
とで会話がされていたようだ。
金沢>請求書が取り消しされました。
すみません。大騒ぎしてしまって。
皆さんに凄く心配かけました。
カイ>謝る必要ないよ。
よかったじゃないか。
理由は何だって?
金沢>わからないです。
請求取消しの通知書が届いて
修復代の請求を取り下げます
とか記載されてなかった。
カイ>へぇ。
報道で叩かれまくってるから
金沢さんに請求したのが報道に知れたら
騒ぎになると判断たんじゃないか。
金沢>そうなのかなぁ。
カイ>マイナス思考は良くないぜ。
ポジティブすぎるお前も問題だがな。
でもカイ、ありがとう。
金沢さんを励まし続けてくれて。
堀北>良かったね。
堀北さんが参戦してきた。
病室から投稿か。
手術のことは言わないのかな。
とりあえず、オレも会話に参戦しとくか。
ハル>ごめん、メッセージを見ました。
金沢さん、良かったですね。
金沢>もしかして細倉くんの知り合いの
弁護士さんが交渉してくれたの?
ハル>実は連絡が取れなくて
明日もう一度電話するところだった。
金沢さんには恩を着させたくない。
取り消された理由は知らないままでいい。
カイ>ハル、何やってるんだ。
まったく役に立たんわ。
くっそ!反論できん。
堀北>役に立ってないのは私の方だよ。
ごめんなさい。会話に参加できてなくて。
もしかして、オレをフォローしてくれたのか。
ありがとう、毎回堀北さんに救われてる。
堀北さんも大変だったとみんなに伝えたいよ。
ハル>ゴメン。用事があるから抜けます。
オレは、携帯のモニタを切る。
これで堀北さんと金沢さんは解決した。
ベランダに流れる夜風が心地よい。
爽快な気分である。
♪ピンポーン
誰かが来た!前田か?
オレは、入口へと移動しドアを開けると。
10代の女性が立っていた。
そして、目が合うなり
「すみません。間違えました」
その女性は病院で見た乃々佳である。
ノノンが戻って来たのだ。
来るの早くないか?
ならハルキの身体も使えるってことか。
「ノノン待て、オレだ。ジュンだ!」
「博士ですか?」
オレは頭を縦に振る。
「えぇ、おじさんじゃん」
久々の再会がそれかよ。
オレは、TOKYOギャラリーから
そのままホテルへ戻って来たから
おじさんのままなのだ。
「ダンディーと言え」
「キモイ。受け入れられない」
やはり、会話相手がいると楽しいな。
そういえば、どうしてオレがこのホテル
にいるって分かったんだ?
前田にでも聞いたのか。
「ちょっとこの部屋はなによ。
ふざけてない?」
寮の部屋と比較したのかな。
そことは比較してはいかんよ。
「スイートルームってやつだ。
ここのホテルで一番広い部屋だ。
最上階だし、ベランダに出て外を眺めるといい。
感動するぞ」
ノノンは、恐る恐る部屋に足を踏み入れ、
室内を見渡しながら言われた通りに
ベランダへと直行する。
「博士!やばいよ」
「語彙力。もっと感想あるだろう?」
「ずるい。1人でこんな部屋に住んでて」
テンション高いなぁ。
その調子で続けられると疲れるんだが。
「ノノンもここ住みたい」
「今日だけな!」
部屋が沢山あるから好きなとこ使うといい。
「どうして?
ここに引っ越そうよ。景色が最高だよ」
「通学が大変だろ?3日で飽きるぞ。
しかもノノンは明日からやることがある」
それは、1ヵ月の休学分を取り戻す。
1週間学校に通って補習受業を受けてもらう
ことになった。
そして最後に小テストを実施し70点以上で
あれば休学が無かったことになるというものだ。
ちなみに、テストが70点を下回ったなら
もう1週間補習受業を受けて再テストとなる。
「補習って1人?」
「かもな。ノノン以外に2人居るらしい。
その2人は来ない可能性が高いって」
「えぇ、テストやだな」
「研究員だろ。100点取れ。
補習受業をまじめに受ければテストは簡単なはずだ」
「分かりました」
「今日はここに泊まって。
朝、発着室で別の身体に乗り換える。
オレが保護者として、一緒に学校へ行くぞ」
「別のおじさんになるの?」
「そいつは20代のイケメンだ」
「それは楽しみ」




