(093) カイの将来に選択肢が増えました
◇◇◇ RSテクノロジー社 ◇◇◇
時刻は現在19時。
「田中さん。ご無沙汰です」
岩井さんの記者会見を見届けた後、
RSテクノロジー社へ直行することに。
入り口で社長と出会い挨拶を交わす。
ここは舞台装置を手掛ける会社で、
主にハイテク技術を使った演出を得意としてる。
そして、オレが社長を務めたプロダクション
TES傘下の会社でもある。
従業員は社長を含め7名と少数ではあるが
ドームなどの大きなステージをも手掛けたり
して業界内では有名な会社である。
オレがここへ来た目的は、優秀な研究者を
ここの会社へスカウトするためだ。
要するに、社員にさせたいと考えている。
その人物は、ある製薬会社に勤めていたが
先月倒産してしまい。
失業中のところをヘッドハンティングするためだ。。
社長に相談したところ、煙、火花、爆発などが
扱えるなら是非欲しいという回答を得た。
電子機器関連は強いが、薬品系は弱いらしく
現在は他の業社に発注している現状だそうだ。
「忙しそうだね」
「神楽 (他の芸能事務所)の仕事も
入ってきてますからね。
特に大きいステージが多いんですよ。
人がぜんぜん足りてない状況です」
「新卒を雇っても使い物になるまで
3年はかかりそうだな」
「そうなんです。即戦力となる人
どこかにいないですかね」
今からオンライン会議にて、スカウトする
人物と面接することになってる。
その人物について、もし噂通り優秀ならば
既に大手薬品メーカーからお呼びが掛かっても
おかしくないはずだ。
現に、その倒産した研究員の多くは
次々と就職先が決まっているという。
なのに、その人物は職が決まっていない。
本当に優秀な人なのだろうか?
不安になる。
会議に人が入って来た。
「岳中さん、聞こえますか?」
「岳中です。聞こえてます」
その人物とは、カイの父だ。
会議は、オレと社長、そして岳中さんの
3名で行われる。
進行はオレの役目。
「では始めましょうか」
オレは、会社の概要を軽く説明した上で、
この会社に欲しい人材を提示した。
岳中さんがその欲しい人材に、
ふさわしい人物か会話で探ろうとしている。
カイの父とは言え、無条件で仕事を提供する
ほどお人好しではない。
あくまでチャンスを与えているに過ぎない。
勝ち取れるか否かは、カイ父次第である。
だからオレもガチで面接する。
「2点ほどお伺いしたい」
1つ目は、人体に影響のない煙や
熱くない炎、火花、爆発の類を
作りだすことが可能かどうかだ。
カイ父によると、作ったことはないが
頭の中にイメージはあるとのこと。
またネット検索すれば製造方法が見つかる
ので、作れるかという問いに対しては
可能という回答だ。
ただし、1人での作業は非効率で難しいという。
当然、実験が必要で1ヵ月から3カ月は欲しいという。
同僚で他に優秀な2名の研究員がいるとのこと。
彼らも加えてもらえないかと、
逆にカイ父から要望が出された。
恐らくの2名は失業中の残りなのだろう。
人を増やすのは問題ない。
だが、これは遊びではない。
「理解しました。
人を増やすのは問題ありません。
ですがその分、採算が取れなければ
会社は成り立ちません」
受注してるイベントだけでなく、
他社のイベントへ売り込むのもありだな。
ダンマリを決めてた社長が口を出す。
「その件でちょっといいですか?
例えば安全性を担保しつつ手軽で
コンパクトものを作れたりしますか?
大量生産も可能そうでしょうか?」
どうやら社長もオレと同じ考えらしい。
他社への人材レンタルもありだな。
「善処しますとしかお答えできません」
そりゃそうだよな。
作ったことがないのだから言いれないわな。
「もう1点、お聞きしたいのですが、
特殊な薬品を扱うと想定しております。
失礼ですが取り扱える資格を
お持ちでしょうか?」
「そこは大丈夫です」
オレは社長に打診する。
1年間、契約社員になるのはどうかと。
彼らを受け入れるには資金がいる。
新設備を含めた初期投資、および
研究開発費、そして人件費だ。
ここは、オレが全額を融資すると宣言した。
社長にはメリットしかない。
例え成果がゼロだったとしても社長には
なんの影響もないのだから。
これでカイ父も楽になったことだろう。
だが同時に遠回しで1年で成果を出せな
ければクビだということを意味する。
「我が社は体力 (資金力)が乏しい。
資金提供してくれるのであれば問題はない」
「岳中さん、どうでしょう?
3名とも雇います。
給与は製薬会社の時と同額を
お支払いします。
また、別の分野ということもあり、
入社後に勉強代として3カ月分を
給与は別に支給い致します。
良い条件かと思われますが。
検討して頂けないでしょうか?」
オレの目的は、カイの退学を阻止すること。
親父さんにはもう分けないが
期待して会社説明会を開いたのではない。
「回答には2、3日時間をください。
メンバーの意見も聞きたいので」
「それは、もちろん。
将来に影響することです。
そこはじっくりと話し合ってください」
さて、即断とはならなかったか。
話しの素振りからカイ父は入社しそうで、
他のメンバーがどうするかって感じか。
「別件でお聞きしたいのですが、
電子制御が得意な方はおられませんか?」
確かにな!人手不足だからね。
即戦力となる人材は欲しい。
だが社長、相手は薬品会社ですよ。
聞くだけ野暮じゃありませんかね。
「仕事がまだ決まってない方ですよね?
1人おります。製造ラインを設計されてた
者ですけど。
どのような能力をお望みか
分かりませんが、ご紹介しましょうか?」
おぉ、居るんだ。驚き。
「是非、会って会話がしたいです」
「この会議のあとで声を掛けてみます。
別途ご連絡致します」
「お願いします。
電話お待ちしております」
やばいな。
最後の社長との会話で、カイ父が即戦力
として求めらてない事がバレたな。
打ち合せは終了した。
会話した感じでは、カイのお父さんは好印象。
カイには学校に残ってもらいたけど、
それはカイの家族で決めること。
カイの未来にも関わる話だ。
オレが口出しする筋合いはない。
カイのお父さんは優秀と聞く。
なのに失業中。
残されたメンバーをどうするか。
それに悩まされ、ご自分の進路を見つけ
られないでいたのだろう。
良い返事を期待してる。




