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(090) 堀北家族が病院に乗り込んできました

◇◇◇ 某大学病院 ◇◇◇

時刻は午前10時半。


オレは諜報員からの連絡を受け、

次の現場へと向かうべく事務所を後にした。


堀北さんが両親を連れて

大学病院に来るという。

手術を受けることを前向きに

説明を聞いたいのだという。

それを知ったら飛んで来るしかない。


ちなみに岩井さんの件は、

本人が契約されることを決意されたので、

あとは事務所に任せることにしてある。

まぁ、オレの事務所でないのだから

出しゃばるのもおかしな話しだ。


並行して記者会見のセッティングも進行中。

会場は昨夜から抑えてあるので、

準備という準備はそんなにない。

それよりもメディアへの周知である。

こちらは前田におまかせた。

きっと多くのメディアが集まることだろう。


岩井さんはオレと会話したそうな表情でいたが

オレは急いで出たので実現できなかった。

会話したところで何も答えられないから

ちょうどよかった。


♪コンコン


オレは堀北さんが待つ応接室前に立ち

ノックする。

そして、担当医と共に中へと入る。


「お待たせしました。田中です。

 こちらは堀北(ほりきた) 凛心(りこ)さんの担当医となります

 星屋医師です」

星屋(ほしや) 佳爾(けいじ)と申します」


お互い立って、会釈で挨拶を交わす。

堀北パパとママだ。試合依頼ですね。


「座って話しをしましょうか。

 早速ですが、手術をお受けしたいと

 伺っております。

 承諾書に同意されるで

 よろしいでしょうか?」


「その前に聞いておきたい事があります」


おっと、堀北パパからの先制攻撃。


「はい、何でしょうか?」

「失礼ですが、田中さんはこの病院の

 関係者ではありませんよね?

 ホームページで調べてみたのですが、

 田中(たなか) 飛満(とみち)という名前は

 病院の名簿に記載がなかったです」


まぁ、調べるわな。そりゃ当然か。

オレが、この病院に堀北さんの手術依頼を

持ち込んだのだから。

病院側からしたらオレも客になる。


「この病院の関係者ではありません。

 それは事実です。

 医療関連の仕事に従事している者です。

 主に病院間で医師を手配したり、

 新薬や医療機器の紹介など幅広く

 活動しております。

 先にお伝えしておきますが、

 日本医師会とは関係ありません」


「今回、日本初の手術法を試みたい

 というお声を受け、私が仲介人として

 頭を張って動いている次第です。

 この病院が手術会場に名乗りを上げ

 たため、ここが使われてることとなりました。

 そこで被験者を探し、堀北(ほりきた)凛心(りこ)さんを

 選定させて頂いたという経緯です」


おぉ、相変わらずキレのあるストーリー。

オレ、適当を言う選手権があったら

優勝する自信あるぞ。


「ということは、うちの娘は

 実験台ということですか?」


やばい、堀北パパが噛みついて来た。


「お父さん、やめてよ。

 いいです。実験でも何でも。

 治らないかもって半分諦めてたんだから。

 治る見込みがあるなら受けたいです。

 それが実験とか私には関係ない」


やっと堀北さんの叫びが聞けた。

いつも自分の本心を語らない堀北さんがだ。

嬉しい。まかせろ。

絶対に怪我を治してみせる。

オレが治したいんだ。

もう一度、堀北さんの試合が見たい。

その思いで、こんな大それたことをしてる。


「では執刀医(しゅっとい)中雄(なかお) 壱景(いっけい)さんは

 どのような人物なのでしょうか?

 この方もこちらの病院に記載が

 ありませんでしたが」

「こちらは、今回の手術に関する

 最高権威者であります。

 世界各地の病院からお呼びが掛かる

 凄腕の方でして、現在アメリカ

 ロサンゼルスの病院で従事されて

 おります」


「中雄医師は、うちの娘の手術だけ

 のために帰国されるのですか?」

「その通りです。

 手術のためだけに帰国して、終わり次第、

 直ぐ戻られる手はずになっております。

 術後は、隣の星屋先生が担当を引継ぎます」


堀北さんの怪我を治したい一心で集めた

チームなんだ。

頼むから理解してくれ。

堀北父は娘が実験台に引っかかっている。


「もう1つ、いいですか?」

「お父さん、もうやめて。

 何を言われても私の気持ちは

 変わらないから」


父の気持ちも分からなくもない。

ここは安心させてやらないと。


「後で後悔されては、お互い

 しこりが残ります。

 些細(ささい)な事でも聞いてください」

「承諾書に、手術に失敗した場合、

 当病院および手術に関する如何なる

 責任を負いませんと記載されておりますが」


「これは形式的な記載になります。

 どのような手術におても記載されてる

 内容です。

 確かに手術に100%はありえません。

 しかも実施する術式は世界初なのですから。

 手術計画も検査結果に基づいて立てて

 おりますが、切開して何もせず

 閉じる可能性もあれば、

 失敗して二度と指が動かなく

 可能性もないとは断言できません」


堀北父は険しい表情へと変貌し、

堀北母も動揺を隠せないでいる。


「ですがお父様、聞いてください。

 世界トップの執刀医、最新の医療機器、

 一流のスタッフという現代医学の

 (すい)を集めた舞台を整えました。

 もし、この環境で失敗したとなれば

 現代医学では娘さんの怪我を治す

 ことは不可能でしょう」


これだけは出まかせではない。

本当のことだ。

ここまでして治せないのなら

世界の誰にも治すことなどできない。

それは言いれ切る。


ここで堀北さんが口を出す。


「お父さん、お母さん。

 これは私の人生です。

 私に決めさせて」


そう言って、サイン入りの承諾書を

オレの前に差し出す。


「二度と指が動かなくなったとしても

 決して後悔しません。

 誰かを恨んだりもしません。

 ここまでしてくれたんです。

 希望を与えてくれただけで

 私は満足しています。

 先生方には感謝しかありません。

 よろしくお願い致します」


堀北さんはテーブルに頭をぶつけそうな

ほど頭を下げる。

あぁ、オレに任せろ。

もし、失敗したら死ぬまで面倒見る。


堀北父も続けて無言で頭を下げる。

堀北母は、ハンカチを目頭に当て


「娘を宜しくお願いします」


と頭を下げるのであった。


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