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(009) 弁明させてください①

 ◇◇◇ 大学病院 ◇◇◇


都内にある大学病院の病棟でのこと。

最上階フロアを冒険する園児の姿がった。

その男の子は、他の病室とは明らかに異なる

扉を見つけると興味本位で中を覗き込む。


内装は、大物政治家が使うような広くて

立派な個室であった。

そんな病室に、なぜか10代の女子が

ベッドに横たわっていたのである。


「ボク?

 よそ様のお部屋を覗いてはダメですよ。」


通りかかったナースに注意されたのだ。


「寝てるお姉ちゃんは有名人なの?」


園児にだって理解できる。

凄い部屋=有名人、だと。


「特別な人しか入れないお部屋なの。

 そうじゃないかなぁ。」


どうやらナースも利用者の素性を知らないらしい。


「アイドルかなぁ。」

「そうかもね。もう入っちゃダメですよ。」


病室の女子は、昏睡状態で担ぎ込まれ

1週間経っても目が覚めないのだという。

彼女は一体どんな人物なのだろうか。


 ◇◇◇ 教室 ◇◇◇


1時限目の英語。

オレは授業に集中できないでいる。


原因はノノンだ。

背中から抱き付いてやがる。

オレの首に両腕を回し、お昼寝の様子。

呑気な奴だ。


オレの右肩に(ほほ)を乗せてる。

顔がメチャメチャ近い。

寝顔、可愛いじゃねぇか。

こりゃぁ勉強どころではない。


男子なら1度は憧れるシチュエーション。

オレもその一人。

その夢がこうして叶った訳だが。


感動がない。

だって、(ぬく)もりがないのだから。

触られてる感触が欲しい。


ノノンは天国への帰り方を忘れたという。

っていうかお前、天使じゃねぇだろ。

霊に目を付けられたのは運が悪かったが、

井戸から出て来るタイプでないなら問題ない。(*1)

飽きたらそのうち離れてどこか行くだろう。


ん?


ゴミが机の上に転がって来た。

いや、ゴミではない。

紙を丸めてある。ノートの切れ端?

なるほど隣の堀北さんが投げ込んだのか。


となると、何か書かれてる可能は高い。

うぁ~~~、開きたくねぇ。

せかっく第一関門突破できたのに。

早くも次の試練が待ち受けてるとは。

恐る恐るメモを広げると、

案の定、文字らしきものが見える。

何か書いてるよ。読みたくねぇ。


MEMO>昨日のあれは何?

   説明して。


なぜ抱き付いたか説明しろってか。

キター!オレのターン来た!

これはチャンス。言い訳ができるのだ。

それよりも堀北さんの字、可愛いいな。

これ持って帰ろ。


落ち着けオレ。安心してる場合ではない。

このミッションに失敗したら

卒業まで気まずいままだぞ。


さて、どう返答するかだ。

言葉を選ばないと。

果たして真実をそのまま伝えるべきか。

霊が出ただなんて信じるか。

オレだったら100%信じない。


だが、嘘で回答するにも抱き付く

正当な理由が浮かばない。

どうする?

返答に時間を掛けたら言い訳を考えてる

って疑われてしまう。

悩みながらオレは自分のノートの隅を切る。


♪ビリビリ

あ、あ。


♪ビリビリ~~~~

あ~あ。


ノートの隅を切るつもりが、大きく剥ぎ取り

黒板を書き写した部分まで切り取ってしまった。

最悪。

その状況を見ていたのか。

堀北さんは教壇の先生を見ながらニヤける。


このハプニングはオレにとって幸運をもたらした。

よし真実を書こう、そう決心させたのである。

よくよく考えたら霊が出ただなんて

子供だって信じやしない。

だったら一周回って信じてくれるかも。

それに掛けたのである。


オレは昨日のことを、こと細かく記載し、

今朝から今に至るまでを完結に書き上げる。

ただし、ノノンの事は天使ではなく霊のまま

として扱い、容姿についても触れなことにした。

露出狂の女の子だなんて説明したら

話しがややっこしくる。

書き上げた紙を丸め、隣の机へと投げ返す。


堀北さんと目が合った。わかいい。

果たして反応はどうだろうか。

怖くて顔を直視できない。

オレは悩みごとを上書きするかのように、

黒板を見ながら剥ぎ取ってしまった部分を

再度書き写す。


果たして信じてもらえるのか。

はたまた軽蔑されるのか。

不安でいっぱいだ。嘘は書いてない。

だが、もしオレが逆の立場だったら

こんな話し絶対に信じやしない。


・・・


お!来た来た。

丸められた新たな紙がそこにある。

返答を読むのが怖い。

堀北さんを横目でチラ見するも

黒板を見ていて反応が先読み取れない。

恐る恐る紙を広げることに。


MEMO>幽霊が石を投げる?


しまった!そこに食いついたか。

石は安易すぎた。

キューピットだと悟られないよう

石に変えたが、矢でも問題はなかった。

少し考えれば気付けたはず。

さぁ、どう言い訳する。考えろ。考えろ。

まだ軌道修正は可能だ。


MEMO<ごめん。

   石のような物が飛んで来た。

   もしかしたら違ってたかも。

   早くてはっきりとは見えてなかった。

   とにかく、堀北さんを的にしてた

   のは事実なんです。信じてください。


オレ天才じゃねぇ。なんとかごまかせたぞ。

安心はまだだ。

直ぐに次なるクエスチョンが送られて来た。


MEMO>私に攻撃して来たのなら

   その幽霊さんは

   私に恨みがあるんじゃない?

   どうして細倉くんが取りつかれてるの。

   おかしくない?


うぁ~。鋭い突っ込み。なるほどなぁ。


(*1) ホラー小説『リング』の貞子のこと。

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