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(088) 頭から離れない女性がいます

◇◇◇ アーツファクトリ ◇◇◇

時刻は午前9時。


ここはアーツファクトリ芸能事務所。

アイミーが所属する事務所である。

オレはその社長室へと伺った。


「はじめまして、古川社長。

 田中と申します」

「お待ちしておりました」


どうしてオレがアイミーの社長と面会

しているかというと。

昨夜のアイミーからのLineがきっかけである。

内容は、本日の夜にテレビ収録が在り、

アイミーと一緒に出演してくれる人を

探してるというもの。


それを見て、あるアイデアが浮かび、

一緒に出演する人に岩井さんを

おすすめしたのである。


そのLineで、オレはアイミーに2つの

頼み事をした。


1つはアイミーから岩井さんに

出演を誘って欲しいということ。

理由は明確。

オレが岩井さんに仕事の依頼をしても

怪しまれて確実に断られるからだ。

アイミーの頼みならば間違いなく引き受ける。

しかもLine交換でテンション爆上がりなはず。


もう一つの頼みは、アイミーの社長に

会わせてくれというもの。

理由は岩井さんをこの事務所の所属タレント

にさせたいという相談だ。

プロダクションTESの元社長を務めた

田中がお会いしたいと伝えれば必ず

面会してくれるはず。

予想は的中した。(*1)


「田中様の事は存じております。

 落ち目であったプロダクションTESを

 立て直した方ですよね」

「立て直したと言えば聞こえはいいですが、

 大手神楽芸能(がぐら)に吸収されただけです」


「いやいや。世間からも批判されてた

 事務所をいつの間にか世論を味方に

 つけましたからね。見事な手腕です」

「それは過大評価しすぎです」


どうやら掴みはOKのようだ。


「では本題に移ります。

 岩井(いわい)友璃(ゆうり)さんを弊社のタレントにしたいと?

 調べたところ詐欺事件に遭われ

 現在炎上中ようですが」

「はい。ご認識の通り」


「テレビ出演ですが、事実はどうあれ

 局サイドからNGになる可能性高いです

 それでも彼女を出したいと」

「存じております。

 私にいろいろと考えがありまして

 社長との会話の場を設けて頂いた次第です」


と前置きをして、説明に入る。

オレの目的は1つ。

岩井友璃の炎上を止め、世間に好感度を

回復させること。それ1点のみ。


策はネット番組も含めたテレビやメディアを

使って露出させ、イメージを挽回させたいと

考えている。

そのためには事務所に所属する必要がある。

番組に出し易いからだ。


だが、その前に犯罪者の汚名を返上させる

必要がある。

今の所、岩井さんは共犯者だと世間に

疑われている。

そんな人をテレビ側が出演させる訳がない。


そこで考えたシナリオはこうでだ。

本日の14時に詐欺事件についての記者会見を開く。

そこでは、社長と岩井さんの2名で出席し

次の内容を述べる。

・世間をお騒がせした旨を謝罪する。

・岩井さんも被害者であると表明する。

・アーツファクトリが全責任をもって

 詐欺被害者に対し全額お返しすると公表する。

以上の3点を会見で述べるというもの。


「1ついいですか?

 記者会見に私が出席して説明するのはいい。

 だが、こんな弱小事務所が会見を開いた

 ところでメディアが集まるとは思えませんが」


だろうな。

記事にすら取り上げない可能性もある。


「そこは安心して下さい。

 私が大手メディアと有名どころの新聞雑誌

 を強制的に呼びますので」

「はぁ~」


信じられないだろうけどオレには可能だ。


「被害総額は最終的に9700万円でした。

 ザックリ1億円です。

 詐欺集団が持っていた入金リストを入手

 しましたので、金額と人が特定できます。

 これに関し、岩井友璃専用口座を開設しました。

 5億入れてます。

 岩井に関する全て経費はここから使って構わない」

「はぁ~」


シナリオには続きがある。

テレビへの出演だ。

この会見で視聴者に好印象を抱かせれば

夜のテレビ出演は可能となるだろう。

だって会見にて世間の注目を浴びれば

局サイドとしては視聴率アップにつながるから

使わざる終えない。


「もし、本日のテレビ収録で岩井さんを

 拒否されたら私が代役をあてがいます。

 その場合、岩井には別の番組に

 臨んでもらうことになりますが」

「そんな簡単に仕事が来ますかね」


「神楽芸能経由で発注をさせますので

 ご心配なく。

 世間的に好感度が出るまで活動を

 続けるつもりです」

「はぁ~」


「ただし、仕事を受ける受けないは岩井本人

 の意思を尊重させたい」


「次に御社と岩井との契約ですが、

 来年3月末まででお願いします」

「1年契約が一般的ですが」


オレは3月末には研究室に戻らなければ

ならないからだ。


「理解しております。仮契約でお願いします。

 表向き御社の所属タレントとなっていれば

 問題ありません。

 3月末までは私が資金もろとも

 全面的にサポート致します。

 その後の契約継続については、お任せします。

 私は一切関与いたしません」


「最後に1つ、お聞きしたい。

 どうして彼女にそこまで御支援されるのです?」

「知人 (ハルキ)の大事な友達だから、です」


古川社長はそんな理由で?って顔してる。


確かにな。知人の友達は他人だ。

メディアを使って大それたことを計画してる。

疑問に感じて当然だろう。


この件、社長は引き受けてくれると確約してくれた。

そりゃそうだ。

事務所にとってメリットの方が大きい。

コスプレの有名人が所属してくれる上、

大手事務所から確実に仕事がもらえるのだから。

しかも掛かる経費は全てオレの負担。

断わる理由がない。


岩井さんにはテレビ出演しか伝えてない。

記者会見すると言ったらどんな顔するのやら。

この後、アイミーと共に岩井さんが社長室へ来る。

さて、シナリオ通りに進むのを祈ろう。


オレはふと『ウララ』のことを思い出す。

初めてこの世界で知り合いになった女性だ。

オレのミスで彼女を死なせてしまった。


正直、人助けはオレの(しょう)に合わない。

この行動は、きっとウララへの罪滅ぼしなのだろう。


(*1) 田中という人物は一般人である。

 だが過去に、大手芸能事務所である

 プロダクションTESの社長代行を務めた

 経歴がある。

 経緯は、前社長の不祥事によって落ち目

 となった事務所を立て直すためだ。

 結果、数日で立て直しに成功した。

 それがきっかけで、芸能関係者の間では

 田中が有名人になっている。

 当時は不本意であったが、

 今回はその知名度を利用させてもらった。


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