(086) ノノンは幽霊じゃなかった
◇◇◇ MAEDAコンサルティング ◇◇◇
時刻は現在17時。
とあるオフィスの社長室で1人。
スマフォを片手にネットニュースを
読んでる者がいる。
田中ことオレだ。
社長が来るまでの間、ソファで暇を
つぶしてるところ。
オレに関心があるのはオーパーツ事件。
そのオーパーツ破損事件にどうやら進展が
あったようだ。
ネットや各局で報道されている。
現在、世間で注目を浴びており
全国で大騒ぎとなっている模様。
その進展とは主に3つ。
1点目、オーパーツの破損は女子高生が原因でなく、
その前日の業務時間外で起こっていた。
2点目、主催者側が破損事故を女子高生に
なすり付けたというもの。
3点目、破損させた者と女子高生を押した者が
同一人物あるということ。
そして、その人物は既に特定され公表されている。
なんとオーパーツ展主催社の社長、八重田宏一郎であった。
♪ガチャ
入り口の扉が開き、1人の男性が姿を現す。
オレはディスプレイを消し、スマフォを
テーブルの上へと置く。
入って来た男は、ここの社長である前田。
病室で乃々佳を連れ出そうとした人物でもある。
「すまん。待たせた」
「相変わらず忙しそうだな」
説明するまでもないが2人とも地球人ではない。
宇宙の外にある研究所からダイブして、
この星へと降り立っている。
彼らはどのようにして研究室から来ている
かというと、遺体から複製したクローン人間に
意識を移して動かしている。
分かり易く言うとVRのリアル版である。
「ニュース見たぞ」
金沢さんのオーパーツ事件ね。
新情報はつい先ほど報道されたばかりだぞ。
相変わらず情報収集が早いな。
「タイにいる日本人が現地の警察に
拘束されたそうじゃないか」
そっちかよ!
岩井さんの詐欺事件ね。
つうか、まだ報道されてませんが!?
「今晩にはニュースになるだろう。
あればジュンの仕業だろ?
IPの件と関係あるのか?」
流石だな。
岩井さんのアカウントで不正アクセスした
IPアドレスを一覧を前田経由で入手したのだ。
この前田って男は、政治家や省庁、著名人など
あらゆるところに顔が利く。
とある企業からの情報取得など彼にとっては容易い。
「例のコスプレヤーの件に関係がある。
インスタ乗っ取り詐欺事件と
言えば通じるか」
受け取ったIP一覧からアクセスルートを
追ったところタイに行きついたという訳さ。
困った事に、ここから先が進めない。
犯人グループはタイに潜伏してるということ。
外国では手出しできない。
これが障害となってる。
そこで、オレが取った作戦は、近日中に
爆破テロを計画している連中がいると
タイ警察へ嘘の垂れ込みを流したのである。
5時間ほど前だろうか、タイ警察による
突入があり、その場に居た者が全員拘束
されたと聞く。
捕まった連中は全員日本人だったそうだ。
押収品から彼らはタイを拠点とする
詐欺集団だというのが確定した。
要するに彼らは投資詐欺などをタイから
実行していた連中だったってことだ。
前田経由で、タイの大使館に連絡を取り
押収品を調べてもらったところ。
岩井さんの犯行に使われた購入サイトの
編集データや購入者リストの情報が
見つかったという。
証拠が見つかり一安心。
夜にはニュースが流れることだろう。
詐欺事件の犯行は彼らの仕業であり
岩井さんは乗っ取られた被害者である
と報じられるはずだ。
岩井さんも共犯なのでは?
と噂されていたので少しはやわらぐだろう。
「犯人が捕まったはいいが。
騙し取られた金はどうする気だ?
取り返せないだろう」
「想像の通りだ。彼らは下っ端。
恐らくマネーロンダリングされてる。
取り戻すのは不可能だ」
「そうか。
策があるかと期待したんだが。
確かに難しいな」
詐欺事件の情報提供されたことに付随して、
もう1件の提供も思い出す。
「監視映像の件も助かった。恩に着る」
「警察、動かすの大変だったんだぞ。
しかも、映像があんな形で使われた
とは警視庁も驚いてるだろうな」
「説明してなかったのか?」
「説明したら警察は動いてくれない。
なので別の理由で無理やり動かした」
オイオイ、後々問題にならないか。
オレに被害が来ないようにしてくれよ。
「ところで、今日の目的はなんだ?
世間話をしに来たのではないのだろう」
オレが前田に会いに来た理由を問われてる。
それは記憶喪失になった原因を聞きに来た。
あと、ハルキと乃々佳の状況も聞いておきたい。
明後日にはノノンが帰って来る。
使い物になるのか。
その前に、乃々佳の病室での襲撃はなんだ。
あれじゃあ、ギャングだろう。
「いつからお前は殺し屋に転職した?」
前田は何の話しをしてる?と首を傾げるも
直ぐに言ってる意味を理解したようだ。
「病院での事を言っているのか?
バカなこと言うな」
「普通、黒服の連中連れて来るか?
犯罪者集団にしかみえん。
オレはあの状況で、生きて病室を出れるとは
思わなかった」
「言っておくが、オレのお陰で記憶を取り戻せ
たんだからな」
「あぁ、そうかい。あんがとよ」
「そんな話をしに来たのか?」
「ダイブ機の破損原因について教えてくれ。
今日の目的はそれだ。
助手が幽霊となって現れて、オレは記憶が飛んだ。
どう壊れたら、そうなる?
また起こる可能性があるかも聞いておきたい」
「まだ調査中で根本原因は判明してないが・・・」
という前田の前振りで説明が始まる。
現段階で分かってることを教えてくれた。
結論からいうと、研究室側の廉価版ダイブ機に
問題があると予想してるようだ。
どうも廉価版の通信が不安定なのだそうだ。
頻繁に通信エラーが発生しているのが
ログから判明している。
4月から6月にかけて問題なかったのは
リトライによる補正が掛かってて正常動作
されてるように見えただけだという。
なので4月の時点から問題は発生していた。
そして7月上旬でのことだ。
補正不可能な通信障害が発生したとのこと。
それによってオレとノノンがおかしくなったらしい。
ちょっと待て!
通信障害は廉価版ダイブ機だろ。
なぜ、オレまで影響を受ける?
ログによると、いつものようにノノンの
通信エラーが発生したが、その時は強制切断に
なったのだそうだ。
自動復旧によって再接続を試みたところ、
なぜかハルキへ接続してしまった。
というのがオレまで異常になった原因のようだ。
ハルキは既にオレと接続済み。
通常ならば、ノノンの接続は拒否されるハズであった。
それが、なぜか繋がってしまったようだ。
よってノノンが幽霊として現れた。
正確に言うと実際には現れてなく
オレの脳内へ、割り込んで視覚情報に
オーバーラップしてきたのである。
なのでオレには幽霊として見えてた。
そりゃ、写真にも写らない訳だ。
1つ身体にオレとノノンが同居したことで
記憶障害となり、オレもノノンも
記憶が曖昧となったと推測されている。
なるほど、確かにオレにまで影響しそうだ。
これに関し、前田は興味深い情報が
得られたと喜んでいる。
確かに1体のホムンクルスに2人が
同居したんだからな。
そんなこと出来るんだ?と新たな発見である。
廉価版ダイブ機の通信が、なぜ不安定に
なるかは原因が不明のまま。
特に切断はありえない。
そこで暫定対処とて、ノイズを除去する
通信機器に差し替えるという。
機器交換は明日作業するそうだ。
しかも、ガイヤ側だけの対応で
ノノンに対してのみ実施するという。
相変わらず、前田は仕事が早い。
予定通り、ノノンは戻って来れそうだ。
そして、オレは研究室に戻る必要もなさそう。
恒久対処は、機器交換後に詳細な通信ログを
出力させてしばらく様子を見るという。
それを解析して検討するとのことだ。
前田いわく。
とりあえず、この暫定対処で多分大丈夫
だろうという淡い期待を持ってる。
原因が分かってないのに大丈夫?
と不安になる。
「なるほどな。理解した」




