(084) 貧乏学生は最高です
◇◇◇ ホテル ◇◇◇
オレは、とあるホテルの最上階にいる。
1泊200万円のスイートルームだとさ。
笑ってしまう。
つい先日まで、一生かかっても無理だと
思われていた最上階の部屋に居るのだから。
面白い物だな。
ハルキのときは、上流階級の人間に
憧れていたというのに、今はハルキの
部屋が恋しくてしかたない。
カイや堀北さんらとワイワイしてる方が
好きだ。
オレはガイヤ (地球)へは1人で何度も
訪れている。
今回、誰かと来たのは初めて。
事の発端は廉価版のダイブマシンを試作
したところから始まっている。
ノノン自ら実験台になりたいと志願した
ので、その申し出を許可したのである。
目的は、耐久テスト。
ガイヤで1年を過ごせるかを目標に掲げた。
その際、ノノンにガイヤでしたいことを
確認したところ、学生に戻って青春したいという。
そこで、高校の3年生を体験させる
ことにしたという経緯だ。
オレの役目はノノンの状態監視と初のガイヤ
ということで付き添いも兼ねている。
なので、オレも自動的にノノンと一緒に
高校の学生をすることにした。
学生をやり直すのは楽しい。
結果、高校生を体感するのは正解だった。
オレが楽しんでいるように思える。
やっと楽しくなって来たという時に
みんなが不幸になるという事態。
また、お昼に部室で楽しく会話する
日常を取り戻したい。
それを出来るのはオレだけだ。
しばらくは、このホテルに滞在する必要がある。
この身体でハルキの寮には戻れない。
あと、この身体でやらなければならない
ことが沢山ある。
それを終わらせるまではハルキに戻れない。
寮と言えば、先ほどカイからLineが届いた。
金沢さんを家に送り届けたという報告だ。
何事もなくて良かった。
よくやったカイ。
それは君にしかできない仕事だ。
あとは、オレに任せろ。
金沢さんがなぜ家に戻らなかったのか。
カイとどんな話をしたのか。
オレはカイから聞いてない。
それについては向こうから話し出すまで
待とうと思う。
♪ピコ
おっと。そのカイからLineが届いた。
Line>部屋に居ないけど、どこ居んの?
さて困ったぞ。
少なくとも3日間は寮に帰れない。
旅行に行ったと嘘をついても直ぐばれる。
オレが金持ってない事を知ってるからだ。
Line<つい先ほど、親戚が東京に遊びに来て
その人のところに居る。
明日東京を案内することになったので
寮には戻らない。
何かあったら連絡して。
と返答した。
信じてもらえただろうか。
とりあえず、返信がない。
残るは岩井さんだ。
まだ、Lineを返せてない。
彼女はオレを凄く心配してるはずだ。
そして、家にも居たくないと言ってた。
朝まで一緒にいる予定が、
だいぶ狂っちまった。
ちなみに、岩井さんにオレの事を
どう説明したのかを前田に聞いてみたが。
特に説明ぜす、自宅に返したらしい。
先ほど、PMC社に伺った際、
岩井さんを保護するよう依頼した。
これで記者も含め周辺に変な輩が
寄り着くかなくなるだろう。
あとは、ハルキとしてどう返答するかだ。
適当に返して様子を見ることにした。
Line<細倉です。ゴメン、心配掛けて。
僕は大丈夫なので安心してください。
Line>寮に戻ってるの?
さぁどう答えよう。
戻っていると言って嘘を通せるだろうか。
♪ツチツツ、ツツ。ツチツツ、ツツ。
うわぁ、電話して来た。出れるわけないよ。
誰、アンタと言われるのがオチだ。
とっさに拒否してしまった。
Line<ゴメン。今電話に出れない。
Line>あなた誰?
会話してる相手がハルキでないとバレた。
すげぇな。
あなた探偵になれるよ。
逆にこの展開は都合がいい。
Line<ご名答。
私はハルキくんの知り合いの者です。
彼は別の場所にいて連絡がとれません。
あなたの事を凄く心配されてます。
無事だということをお伝えしたく、
私が代理で対応した次第です。
Line>嘘ね。
問答を続けたらオレがボロボロになりそうだ。。
ここは強引に行くしかない。
後の事は、ハルキの身体に戻った時に考えよう。
Line<信じる。信じないはお任せします。
一方的に3つ、お伝え致します。
1つ、あなたの詐欺事件は心配いりません。
明日、明後日には解決するでしょう。
2つ、ハルキくんは3日後に寮へ戻ります。
戻ったら、必ずLineするとのこと。
3つ、自宅周辺にボディガードを
配置しました。
言い寄って来る者はいないので
ご安心ください。
オレはそれだけを伝えてLineを閉じた。
ハルキに関しては、より不安にさせた
可能性は高い。
このLineで岩井さん自身も含めて、
希望を持ってもらえたら嬉しい。
どっと疲れが出て来た。
篠崎さんのコンクール、病室での乱闘、
研究室に戻る、PMCでの事件究明と
濃厚な一日だった。
篠崎さんは大丈夫なのだろうか。
カイもなんとかしないと。
この2人は申し訳ないが後回しだ。
先ほど堀北さんも対策した。
オレの仕込んだレールに乗るかは、
堀北さん次第だ。
本当に疲れた。
今日は寝よう。
◇◇◇ ホテル ◇◇◇
時刻は朝8時。
♪プルル、プルル
電話だ。
PMCの諜報員からである。
「オレだ。どうした?」
「オーパーツ破損事件の件です。
国立科学博物館の警備会社から返答が来ました。
監視映像はお渡しできないとのことです」
まぁ、想像通りだな。
「プランAで進めますか?
それともBに変更致しますか?」




