(082) 状況を確認します
◇◇◇ 不気味な一室 ◇◇◇
7つの棺が横一列に並べられている
部屋。
そこは、人が居なく静寂に包まれてた。
どうやら午前中の作業員は出て行ったらしい。
その不気味な部屋はいつもの風景を
取り戻していたのである。
♪ウィーーン
突然、棺の1つが開く。
そして、中に居た男性が目を開け、
ゆっくりと起き上がったではないか。
外見は20代後半のエリートといった感じだろう。
棺に閉じ込められてた人は、遺体ではなく
生きていたのである。
「ガイヤ (地球)に戻って来れた」
彼はハルキだった人物だ。
正確に言うとジュン博士である。
どうやら研究室から、ここに並べてある棺を
選択すると、その人物に乗り移れる仕組み
のようだ。
ジュンは棺から出て壁掛けの時計を確認する。
20時40分。
乃々佳の病室から、この部屋へ戻って来る
までに約2時間の経過してるようだ。
金庫の場所まで移動し、数値4桁の暗証番号で
ロック解除する。
目的は、自分の携帯と財布の入手するため。
オレは金庫に手を入れ、それらを掴み取る。
ハルキの部屋ではなくここに置いといて
よかったと安堵する。
ハルキの部屋だったら、
この身体では入手困難だったであろう。
暗証番号4桁で携帯のセキュリティを
突破し使えることを確認。
更に銀行の残高も確認する。
残金は約1000億円であった。
ふっふ。ふふふふふふ。
おにぎり1つ買うにも必死だったことを
思い出し、笑みが止まらない。
では状況確認から。
まずは金沢さんの安否だ。
携帯を使って、都内で女子高校生の
自殺または遺体発見のニュースが
出てないかネット検索する。
2件ヒットした。
『渋谷での女子高生殺傷事件』と
『火災による女子高生焼死事件』。
オレは、恐る恐る記事の内容を確認する。
1件目は氏名が違っていたのでセーブ。
2件目も昨夜の事件によりセーブ。
とりえずは一安心。
もしかしたら、既に家に帰っている
可能性が考えられる。
さぁ、どうやって確かめるか?
ハルキの携帯がないと確認できない。
突然、玄関の方が騒がしくなった。
人の話し声が聞こえる。
かなりの人数がこの家に入って来たようだ。
廊下を通てオレのいるリビングへ。
♪ギィィ (扉が開く)
オレの斜め前の扉が開かれる。
そして、その者と目が合う。
「わぁ~。びっくりした。
旦那、脅かさないでくださいよ」
「お前か」
オレが良く知る技術者の1人である。
「暗闇で何してるんですか?」
彼は前田の子会社の者だ。
前田とは、病院で乃々佳を連れ出そうとした
奴である。
ここへ修理しに来たのだろう。
リビングの照明が点灯され室内が明るくなる。
彼に続けて、担架を抱えた黒服たちが
リビングへと入って来た。
先ほど、病院で戦った連中である。
その担架に横たわっていたのはハルキである。
なるほど。
病院からここまで、運んで来たということか。
ということは。
予想通り、続けて乃々佳も担架で運ばれて来た。
オレはハルキに指を差し、技術者に話しかける。
「ナイスなタイミングだ。
この高校生の携帯を取りに行くところだった。
受け取ってたりしないか?」
「携帯ってこれですか?」
技術者がポケットから無造作に携帯と財布
を取り出し、差し出す。
ハルキが持っていた物である。
「助かる。手間が省けた」
ハルキと乃々佳は所定の棺へと
格納された。
「田中さん、社長から頼まれて部品交換と
システムの再起動をしたいのですが?」
田中とはオレのことだ。
この身体は田中と名乗って行動してる。
「部品が届くのが明後日の午前中ですので
午後以降に実施したいのですが。」
「作業時間はどのくらい掛かる?」
「我々の作業は半日ですが?
田中さんが身体を動かせなくなる時間は
2分ください。」
「OK、では明後日の22時にお願いしたい。」
「了解です。
明後日の22時、ここで。」
「申し訳ないが急いでいるので、
あとはここを頼む」
そんな捨て台詞で、オレはマンションを出る。
せっかく技術者がいるので、
通信異常のこととか聞きたかったが
次回にとっておくことにした。
オレにはやるべきことがある。
ハルキの携帯を開き、Lineを確認。
すると40件ほどの通知が来ていた。
見なくても分かる。
恐らく、堀北さんとカイからだ。
ほったらかしにして済まねぇ。
メッセージを見ると大半が、
ハルキはどこ辺を探してるの?だとか
連絡ください、などであった。
通知は、岩井さんからも来ていた。
連絡ください、との内容だ。
さて、こちらもどう説明するか悩む。
ここで朗報を発見。
つい5分前のメッセージに、カイから
金沢さんを発見したという連絡が入っていた。
カイの奴、やるじゃないか。
しばらく2人きりにさせてくれとの事である。
こういう時、カイは役に立つ。
とことん話し合ったらいい。
金沢さんは単に家に帰りたくなかったのか。
自殺しようとしてたのか。
それとも家出しようとしてたのか。
それは分からない。
真相はあとでカイに聞こう。
堀北さんはカイの通知に対して、お任せします。
何かあったら呼んで、と返信してある。
♪ピコ
堀北さんからLineが来た。
しまった既読になったからだ。
オレがメッセージを見てることを把握された。
Line>どうして無視してたんですか?
何度も連絡したんですけど。
やばい。堀北さんがプンプンです。
どう返答したら丸く収まる?
考えろ!
Line<ゴメン。
携帯の充電がなくて切れてる
のに気付かなかった。
今、全部のDM拝見しました。
金沢さん見つかってよかった。
これで納得してくれるだろうか。
Line>私の方こそ御免なさい。
それなら仕方ないですね。
でも今度から、このような
緊急事態は小まめにLineを
チェックしてくれると嬉しい。
謝らせてしまった。
堀北さんはそういう人だった。
もう罪悪感しかない。はぁ、へこむなぁ。
こんな良い子、いないよ。
落ち着け!オレにしかできない事がある。
オレはオレの仕事をする。
携帯を使って10億円をPMC社へ送金。
続けてその会社へ電話。
♪プルル、プルル
「田口です。会長どうされました?」
「緊急で頼みたい事がある」




