(081) 再ダイブします
◇◇◇ 病院 ◇◇◇
乃々佳の病室にリーダーを含む総勢5名
の不審者が侵入してきた。
オレは黒服の1人に拘束され、乃々佳はベッド、
岩井さんは恐怖で座り込んでいる。
絶対絶命の状況。
というかオレらは既に詰んでる。
何か策はないのか?
警察に電話だ!
あれ?
視界が真っ暗になった。
身体が動かない。
オレに何しやがった。
すると周囲が突然無音となる。
ゆっくりと目を開けると、
ゴーグル越しに天井が見える。
周りを見渡すと、機器が沢山設置してあり
ピカピカと光を発してる。
明らかにここは乃々佳の病室ではない。
どこだ、ここ?
乃々佳の病室から意識は失ってなかった。
一瞬視界が悪くなっただけ。
1秒も経ってないハズ。
なのに違う場所にいる。
どういうことだ?
周囲には誰もいない。
オレは起き上がり、ゴーグルを外す。
ゴーグル?
いつ装着された?
ここの部屋は12畳くらいだろか。
乃々佳の病室と比べると狭い。
ベッドが2つと、分からん機器が
敷き詰められている。
隣のベッドは空いており、
この部屋にはオレだけしかいない。
後ろを振り向くと、ガラス張りの壁であり
外の様子が伺える。
反対側に白衣を着た男女2名が
立ち話しをしている光景が見える。
状況がつかめないが、ここは逃げた方が
よさそうだ。
幸いにも手錠とかされてなく自由だ。
白衣の男性がオレに気付いた。
フレンドリーな感じて手を振ってる。
知り合いか?
そして、近づいて来た。
来る。どうしよう。逃げ道は1つ。
ガラス張りの扉のみだ。
♪ウィーン (扉が開く)
「博士も戻られたんですね?」
博士?
この部屋には1人しかいない。
オレのことだ。
「顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?
博士も気分悪いですか?
さっきノノンも起き上がった直後、
気持ち悪いって」
隣のベッドはノノンが居たのか。
ノノン!?
「ジュン博士?」
そうか、オレは『ジュン』だ。
ハルキではない。
そうか、そうだよ。
ようやく全ての記憶を取り戻した。
なぜ今まで忘れていたんだ。
ガイヤ (地球)へ、ノノンと旅行に
行ってたんじゃないか。
正面の男性はオレの助手だ。
ノノンは明らかに異常だった。
幽霊で現れる想定でないのだから。
「ノノンはどこだ?」
「ソファで休んでます」
ここはオレがリーダー兼代表を務める研究室。
助手は男性1名、女性2名のチームだ。
その助手の1人がノノンである。
我々は、偶然見つけたガイヤと名付けた星の
文明を観測してる研究チーム。
オレが先ほどまで居た場所は、
その星の日本と呼ばれてる小さな島。
オレはベッドから降り、ダイブ室を出る。
「ノノンは何分前に戻って来た?」
「1時間半くらいですかね」
1時間半。
ガイヤはここよりも100倍早く時間が
早く進んでいる。
1.5時間×100÷24=約6日。
なるほど、堀北さんの試合を見てる途中で
研究室に戻ったという訳か。
どおりでノノンが現れない訳だ。
だか、全ての記憶を取り戻しても
なぞは残る。
本来はノノンが乃々佳に乗り移るはずだった。
なぜ、オレのところに幽霊として現れたのだ?
事の経緯は、廉価版ダイブ機が完成から、
その耐久試験をするというところから始まっている。
日程はこちらの時間で4日間。
すなわちガイヤ時間で約1年間過ごすというもの。
それに志願したのがノノンだ。
実験は、最低1日1回こちらに戻って来る想定で
次のようにガイヤで過ごすというもの。
1回目のダイブが 4月~ 6月。
2回目のダイブが 7月~ 9月。
3回目のダイブが10月~12月。
4回目のダイブが 1月~ 3月。
1回目はうまく行ったが、
2回目のダイブで問題が発生したようだ。
今までの事を整理し、ノノンの正面まで
来るとしゃがみ、目線をノノンに合わせる。
ノノンはソファに座り下を向いていたが、
オレに気付き顔を上げ、そして目が合う。
ノノンだ。これが本当のノノンだ。
「ノノン、具合はどうだ?」
「さっきまで頭痛と吐き気が
酷かったんですけど、
今は少し落ち着いてます」
「そうか。
自分が研究員だということを覚えてるか?」
「戻って来た直後はもうろうとしてましたけど、
今は意識も記憶もはっきりしてます」
「ガイヤでの事はどうだ?
覚えてるか?」
・・・
ノノンは何を思い出したか。
ソファから降り、土下座をする。
「博士、すみませんでした。
私、大変失礼なことをしてました」
「誤るな。あれは事故だ。
オレも記憶が混乱していた。
問題ない」
男の助手が割り込む。
「どうしたんです?
向こうで何かあったんですか?」
「細かく説明している時間がない。
オレは急いで戻らなければならない。
もはや手遅れかも知れんが」
部活メンバー全員が心配だ。
特に金沢さんと岩井さん、
バカな事を考えてないといいが。
深刻な顔にノノンが反応する。
「ガイヤで大変なことが起こってるのですか?」
「時間が惜しい。説明は現地でする。
その前に1つ確認しておく。
ノノンはまだ実験を続ける気はあるか?」
「行きます」
「無理はしなくていいぞ」
「みんなに会いたいですから」
そう言うと思ったよ。
乃々佳の身体は動かせるようになるのだろうか。
そんなこと考える場合ではないか。
ここでの1分は向こうの1時間半だ。
急がないと。
金沢さん、生きててくれよ。
「博士!ノノンを行かせるのは反対です。
廉価版に問題があると思われます。
ノノンの様子を見てくださいよ。
危険だって。
ちゃんと調査してからに行くべきかと」
廉価版による不具合は考え辛い。
オレまで記憶障害になるのはおかしいからだ。
「今回の問題は廉価版による不具合
ではなくガイヤ側での通信機器が
原因と推測してる。
もし、廉価版に欠陥が見つかったら
ノノンは戻らせる。
それでいいな、ノノン!」
「承知しました」
「ノノン!もう1点。
経済研の前田が3日後に来てくれと言ってた。
おそらく修理期間だろう。
計算すると40分だ。
あと40分は休んでなさい。
それでちょうどいいはず。
ガイヤに着いたら電話をくれ」
「わかりました」
オレは立ち上がる。
「博士は、もう行かれるのですか?」
「ああ。急いでるんでな」
オレは急いでダイブ室へと戻り、ゴーグルを装着する。
前田は3日後に来てくれと言っていたが、
もしかしたら、ハルキの身体も修理する
可能性が高い。
よし、別の身体を選択してダイブだ。




