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(077) 岩井さんとデートします②

◇◇◇ コンクール会場 ◇◇◇


ひょんなことから岩井さんとデートしてる。

それは彼女を1人にしておけなかったから。

今更だが、よくもまぁオレの誘いを

断わらなかったと驚いてる。

彼女はオレに興味がないはずなのに。

だってオレに接触して来たのは

アイミーに近づくためなのだから。


そんな岩井さんを連れ、

オレはコンクール会場に来てる。

目的は篠崎さんを応援するため。

と言っても出来る事は見守ることくらいだ。

それだけでも十分だと確信してる。


ストリートピアノで感じたのだが、

篠崎さんは見られて能力を発揮する

タイプの人だ。

だから、オレらが会場に居ると知れば

モチベーションが爆上がりするに違いない。

なので先ほどLineし、オレが会場に

来てることを伝えた。

これで準備OK。目的の90%は達成できた。


コンクール会場へ入ったはいいが、

演奏開始まで約2時間あることが判明。

そこでお昼を食べるようと、

会場を出たところまではよかった。


問題は、オレにお金がない。

頼むから『ファミレス行こうよ』とか

言い出すなよ。

フリードリンクだけでも厳しいのだから。

どうしたら解決するか模索するも

お昼を食べないという選択肢以外

ないような気がする。


とりあえず、会場周辺を散策することに。


会場の目と鼻の先にウォーキングコースの

ある小川があるのを発見した。

コースの途中、ベンチもあり休憩できる。


「コンビニでお弁当買って

 ここで食べない?」


なんと素晴らしい提案だろうか。

オニギリ1つくらいなら買える。

しかも小川を見ながらの食事だなんて

風情(ふぜい)がある。

オレはその提案に乗っかった。


だがコンビニに入って、店内にて

ハプニングが起こる。

お惣菜を次々とカゴに入れる。

岩井さんがオレに対して。


「オニギリ1つだけ?嘘でしょ!」


1日は長い。

嘘を付いても絶対にバレる。

オレは正直に所持金がない事を説明した。

なのでオニギリ1つだけでいいと

主張したのである。


すると岩井さんは、チケット代を出して

もらったのでお昼代は私が出す

と想定通りの解答が帰って来た。


「オレには(かね)がない。

 いわゆる貧乏学生ってやつだ。

 オレにとってのお金は

 生活するためのものであって

 遊びに使うものではない。

 そんなオレにとって大事なお金を

 チケット代に使って、

 岩井さんにプレゼントしたんだ」


金がないと威張(いば)って言う台詞か?

むしろ自分で言ってて恥ずかしいぞ。


オレの悩みなど岩井さんに比べたら些細(ささい)な事だ。

だけど、生活費を切り詰めてまで岩井さんを

オモテナシしようとしてるのを感じ取って

くれたら嬉しい。


「おごってくれるのは有難いが、

 今日は岩井さんをオモテナシすると決めたんだ。

 なので、おごってもらう訳にはいかない」

「分かりました。

 その気持ち、受け取りました」


『じゃあ』と言って岩井さんはカゴに

食べ物を次々と入れていったのである。


えぇ!あなた、意外と大食いだね。

と思ってたら。


「私、ちょっとづついろいろ食べたいの。

 半分食べてくれない?」


とんちで返された。

要するに『おごる』という言葉を使わずして

おごると言ってるのだ。この人は。

オレも子供ではない。そう問われたら


「別にいいけど」


と返すしかない。

結果、オレはオニギリを買うのをやめた。

どう見ても食い切れる量ではないからだ。


案の定、ベンチに座り、小川を見ながら

食事を始めたら、一口食べて『あげると』

残りを差し出したのだ。


手を付けてない残りの量を見るとぞっとする。

食い切れるのだろうか。

半分は夕飯であってくれと願うばかり。


会話しながら食事をしてる最中。

ふと頭を過る。

岩井さんの食べ残しをオレが口にする。

これって間接キッスにならないかと。

何を考えてるんだか、オレは。


浮かれるのも当然だ。

お相手は30万人のフォロワーを抱えてる

だけあって、ルックスもスタイル抜群。

しかも外見と違って気さくで話しやすい。

元気付けるために岩井さんを誘ったのに

オレが幸せになっているってどうよ。


これでいいのだろうか?

もう考えないことにした。


「制服デートいいよね。夢でした」


フラグか?

もうこの世に未練はありませんとか

言い出すなよ。


「こんな貧乏くさいデートでいいなら

 いつでもお相手しますけど」

「いいの?

 乃々(ののか)さん、彼女じゃないの?」


「わからん」

「ならハルキの彼女に立候補しようかな」


何、言ってるんだか。

そんな言葉でオレは騙されないぜ。

絶対にオレをからかってやがる。


岩井さんの立候補発言に対し、

オレは返答しないまま、

コンクール会場へと戻ったのである。


1人目が演奏を開始する前にホールへと入る。

良い場所がキープしたいからだ。

あと、篠崎さん以外の演奏も聞いてみたい

というのもある。

先頭から4列目を確保できた。


「ねぇ!この曲知ってる?」


岩井さんがプログラムを見て、篠崎さんが

演奏する曲のタイトルを指差してる。


タイトルは『R.シューマン/ピアノソナタ

第3番 ヘ短調 Op.14 第1楽章』。


ヘ短調?なんだそれ!


「知らん。どこまでがタイトル?」

「ですよねぇ」


「ハルはクラシックとか聞くの?」

「いや、全く聞かない」

「わたしも」


いよいよ1人目が登場だ。

ドキドキしくる。

堀北さんの時を思い出す。

オレが緊張してどうするよ。


ノノン?

篠崎さんがコンクールで演奏するぞ。

隣の席、空いてるから出て来いよ。



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