(072) 事態は更に深刻です
◇◇◇ 病院 ◇◇◇
ここは乃々佳の病室。
個室であるが広くて高級感があり
目に入るもの全てが贅沢な作りである。
彼女がなぜここを使ってるのか不思議だ。
その広い空間にベッドが1つポツンとある。
彼女は眠り続けてる。病状は不明。
身体のどこにも異常はなく、
だた眠っているだけという症状だそうだ。
だが、声を掛けても身体をゆすっても
彼女は眠りから覚めない。
もう1ヵ月は眠り続けているという。
彼女の隣でパイプ椅子に腰かけ、
話しかける1人の青年が居る。
彼は、けなげにも彼女が目覚めることを
信じ、毎日面会に来ては、昨日あった
出来事を報告しているのであった。
「ノノン?幕張で会ったコスプレーヤー
覚えてるか?
その人、大変なことになってる」
昨日、岩井さんからline電話があった。
内容は、TikTokとインスタが
乗っ取られたという悲痛な知らせ。
事態はそれだけでは済まされなかった。
偽のグッズ販売が投稿されてしまってた。
投稿のリンクからジャンプすると
公式サイトにしか思えないページと聞く。
オレは見てないし、URLも知らん。
サイトの内容は、衣装やペンライト等の
グッズ販売となっていた。
端的にいうと詐欺サイトだ。
衣装の販売と言っても、彼女がアップした
コスプレ写真をただ並べてあるだけ。
全て先着1名の早い者勝ちセールだったらしい。
彼女の衣装は全て自作である。
すなわち、世界に1着しかない。
そして、彼女自身が着たものだ。
これはオタク心をくすぐる商品であろう。
オレだって欲しい。
彼女は直ぐにTwitterでファンに呼びかけ、
乗っ取られたことを報告した。
またグッズ販売は偽サイトであることも
周知したのである。
更にTikTokとインスタの運営に連絡し、
現在アカウントが凍結されている。
岩井さんはインスタのフォロワを30万人
かかえる有名コスプレーヤーだ。
どれだけの人に被害が出てるか想像できない。
「朝からそれがネットニュースになってるよ。
被害者が既に3000人出てるって。
まだまだ増えそうだ」
オレは、どうしたらいいんだろうか。
岩井さんを励ますことすらできない。
彼女は不安でいっぱいなはずだ。
オレに電話してきたくらいだから。
なのにオレは話を聞くだけ聞いて終わり。
どうしたら彼女を救えるのだろう。
せめて不安だけで和らげたいのだが、
まったく思いつかない。
「そして、もう1つ。
金沢さんも大変なことになってる。
博物館の展示品に傷を付けてしまったんだ。
篠崎さんの話によると、Lineしても
既読にならないんだって」
たぶん携帯の電源を落としてる。
部屋に閉じこもってるのだろう。
もし、オレだったらそうする。
金沢さんも家に行って元気付けたいが、
どんな言葉を掛けていいか分からない。
「堀北さんは、治らない怪我。
金沢さんは、オーパーツの破損。
岩井さんは、乗っ取り&販売詐欺。
アイミーは、解散の危機」
どれもオレの手に負えない。
元気付けることさえできない。
彼女らはどうなってしまうんだろうか。
怖い。
このまま時間が経つのが怖い。
特に、金沢さんと岩井さんは自殺とか
考えたりしないよな。
学校側に知れたら退学になったりしないよな。
不安だ。
「オレはどうしたらいいと思う?
オレの前に姿を現れてくれよ。
ノノン」
ノノンが側に居てくれるだけでいい。
そしたらオレは彼女達に何か
できそうな気がする。
「明日、また来る。じゃっ!」
オレは乃々佳の病室を出て行った。
◇◇◇ 寮の自室 ◇◇◇
病院から直行で寮へと戻って来た。
何度もLineアプリを起動し、
誰からかDMが来てないか確認するも
通知はゼロ。
自分からDMする勇気はない。
せっかくできた女子の友達なのに
何もできない自分がなさけない。
なんだかこのまま彼女達とお別れに
なるような気がして来た。
せめて堀北さんだけでも、ジムに行って
オレが気を紛らわしてやらないと。
ノノンが居たら絶対に『ジムに行こう』と
オレに背中を押したはずだ。
♪ガチャ。(扉が開く)
「ハル居るかぁ?」
カイの奴が実家から帰って来てた。
そう言えば今日戻って来るんだったか。
「おぉ、帰ってきてたか。
おみあげくれんの?」
「オレ様が無事に帰って
来たのがおみあげだぜ」
なんだそれ。
お前はオレの彼女か!
「カイの無事はどうでもいい。
それより金沢さんが
大変な事になってる」
「模試の結果が悪かったとかか?」
オーパーツ事件のことをカイに説明した。
カイは、事実を確認するかのように
ニュースを見まくる。
「どうしたらいいと思う?」
「連絡が取れないんだろう?
なら家に行くしかないじゃん」
「住んでる所、知ってんのか?」
「いや。堀北さんに住所聞こう!」
・・・
「なにしてんだ!堀北さんにLineしろよ」
「アカウント知らねぇよ」
「使えねぇ」
くっそ。
帰って来るなりイラつかせる奴だ。
「カイは金沢さんの電話番号知らねぇのかよ」
「知らん。教えてくれない」
「使えねぇ」
これで、おわいこだ。
「明日、ジムに行って堀北さんに聞くよ」
「あぁ。そうしてくれ」
偉そうに。
しかし、カイは行動力があってすげえなぁ。
こいつが帰って来てくれて助かった。
オレも何かできそうな気がしてきた。
「そう言えば、オレに用があったのか?」
「オレが退学するって話し」




