(068) アイミーも大変なことに
◇◇◇ アーツファクトリ ◇◇◇
ここはアイミーが所属する芸能事務所。
その一角で立ち話する2人の女性がいた。
「この記事って本当なの?」
アイミーは週刊誌のスクープ記事を
相方である凛々華の正面へと突き出す。
それはアイドルグループ『エルピース解散』
とう見出しで、リリーこと石川凛々華が
大手事務所へ電撃移籍するという記事であった。
「事実よ。私がリークしたんだから」
「なんでそんなこと?」
「宣伝のためよ。
予想よりも反響があったわ。
騒動が取り扱いされれば世間で
私の認知が上がるもの」
「逆に事務所間でもめ事になるでしょう?」
「ならないわ。
うちの事務所の契約更新はしないと
社長に伝えてあるもの。
移籍しなくても、どのみち今月で
退所するつもりでいましたから」
「卒業って、来月のライブはどうするつもりよ」
「来月のライブで私が卒業発表する形に
した方が双方の事務所にとってWinWinに
なりませんと交渉中。
どうなるかは分からないわ。
最悪、エミリンのワンマンライブになるかも」
「かもって」
確かに一理ある。
凛々華の知名度を上げつつ、
お互いの事務所が納得のいく形での移籍に
非の打ち所がない。
うちの事務所は今更コンサートの中止は
できないだろうし、ラストライブのDVDで
稼げるチャンスがある。
対して、移籍先は遺恨を残さずに
リリーをゲットできる訳だ。
凛々華が考えたとは思えない。
おそらく移籍先の事務所が考案したのであろう。
やはり大手事務所は格が違うと思い知らされた。
アイミはなんとか引き留めようと
模索するも時は既に遅し、
あの口ぶりでは凛々華の意思は固く、
契約的にも移籍を止められない状況に
あるものと理解した。
移籍先の事務所も動いてる。
もう凛々華ですら止められないだろう。
移籍は確定事項なのだ。
現事務所に入った時、凛々華とは同じ
地方出身者で同い年。
東京に頼る者がいない者同士でもある。
そんな彼女と一緒に活動し始め、辛いことも
お互い励まし合って乗り越えていったことで
いつしか凛々華は家族ような存在となっていた。
だが単独の仕事が忙しくなるにつれ、
会話する時間が徐々に短くなると
心の距離が次第に離れていき、
気付いた時には凛々華と壁ができていたのである。
それを正したいと勇気をもって
心の底から言い合い、壁を取り除こうと
してた矢先に、こんな事態に。
予想だにしてなかった状況に全身が震える。
アイミーはリリカに意識を確認する。
「武道館ライブはやるのよね?」
「もちろん。
最後のライブだもの楽しみにしてる。
出演していいなら全力でやりたい」
「わかった」
アイミーはその一言を放って事務所を飛び出す。
あれ以上、問答を続けたら感情が
爆発しそうだったから。
スクープ記事を見るまで事務所内で
そんな話になってるとは全く知らなかった。
アイミーは特大のショックを受けて
全身震えが止まらない。
今まで何のために頑張って来たのか、
分からなくなって来たのである。
なぜ、凛々華は事前に相談して
くれなかったのか。
マネージャーもである。
こんな重大なことなのに。
自分が蚊帳の外だったことに
孤独感を感じることに。
心のどこかで、凛々華はまだ自分のことを
家族のような存在だと信じていたのに
そうではなかった。
◇◇◇ 学校の寮 ◇◇◇
オレはの部屋でぼーっとしてたところに
コスプレの岩井さんから衝撃的な
Lineが送られてきたのである。
Line>エルピースが解散するって
何か聞いてる?
というLineメッセージである。
いやいや、ありえないだろう。
ライブで最高のパフォーマンスを
オレに見せるとアイミーは約束したんだ。
アイドルやめる訳がない。勘違いしょ。
Line<いや聞いてない。
デマじゃないの?
Line>ネットでニュース見て。
オレは『エルピース 解散』で検索する。
確かにニュースを見つけた。
相方のリリーが事務所を退所するという
内容であった。
エルピースは2人組みである。
片方が脱退となると解散しかないと
記載で予想されていた。
Line<リリーが退所するんだね。
でも解散するとは書いてないよ。
Line>そうだけど。
1人になるから解散しかなくない?
確かに解散だろうな。
ライブは中止になるのだろうか?
そう考えたら急にアイミーのライブ
メチャメチャ見たくなって来た。
ラストの生ライブが見たい。
アイミーが歌って踊ってるとこを目に焼き付けたい。
Line>1人でもいいからアイドル活動
続けて欲しい。
新情報が来たら教えて?
オレも続けて欲しい。
Line<分かった。
岩井さんの思いを伝えておくよ。
ありがとうのスタンプが帰って来た。
Lineはそれで終了する。
岩井さんが無理やりLineアカウントを
交換した理由をやっと理解した。
オレなんてどうでもいいのだ。
目的は、オレを通じてアイミーと
つながりたいだけなのだ。
だがそれは、オレにとってもありがたい。
岩井さんを理由にオレからアイミーへ
会話する口実が生まれるのだから。
とりあえずアイミーには明日Lineしよう。
すぐ聞いて、岩井さんに返信したら
要求が激しくなるような気がするから。
アイミーがアイドルを卒業したら
その先はどうするのだろう?
実家に帰るのかなぁ。
せっかく知り合いになれたのに。
悲しいことが続くな。
ノノンが居てくれたら元気になれるのに。
頼むよ、遊びに来てくれよ。
ランド行くんだろう?
出て来てくれ!




