表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/261

(067) 堀北さんはみんなに元気を届けます

◇◇◇ 寮の自室 ◇◇◇


ジムから帰宅後、着替えもせずオレは

ベッドに仰向けで倒れた。

天井を眺め、長い時間ボーっとしてる。

考え事ではない。

むしろ何も考えたくない心境。

ジムからずーっと動揺してて

モヤモヤが晴れない。


怪我こと。

そう、堀北さんの怪我が頭から離れない。


病名は、なんちゃら症候群。忘れた。

ストレス性の(やまい)かと思いきや

詳しく聞いたら手首の怪我だそうだ。


かなり重症で、治すには手術しかないとのこと。

その手術も100%治るかは保障できないらしい。

最悪である。


更には手術代だ。

1000万円くらい掛かるのだという。

大金を掛けて治るか分からない手術を

やる意味があるのだろうか。


現状、手首から上がしびれてるらしい。

あの試合で悪化させたのだ。

リハビリでの回復はできるらしいが

日常生活に支障がでない程度で

選手としては絶望だという。


後輩ちゃんから泣きながら

そんな話を聞かされたら信じざる負えない。


その後、堀北さんがジムに現れた。

正直、対面で会話するのが怖かったが

そんなオレの思いを消し飛ぶように

彼女は笑顔で、いつものように話し掛けて来た。

オレだけではない、みなんにもだ。


今なら理解できる。

堀北さんはそういう人だ。

周囲に心配させないようにする人なんだ。


同じジムに居て無視はできない。

堀北さんと挨拶を交わし世間話をするも

上の空でチグハグな会話になってしまった。


オレが動揺してどうするよ。

応援団として逆に元気付けないと。


おそらくオレの表情が聞きたいって

訴えていたのだろう。

堀北さん自ら手首の怪我について

切り出したのである。

応援団として最大の失態である。


怪我は、事前に聞いていたので驚きはなかった。

ジムの仲間もみな把握してる印象である。

知らないのはオレだったって感じ。


堀北さん自身は、落ち込む様子もなく

『もう私の手、治らないかも』って

冗談まじりに語ってくれた。


オイオイ。

治らないって悲しいこと言うなよ。


ジムの中はお通夜ムードであるが、

堀北さん1人だけが陽気でいる。


普通逆だろう。

オレらが(はげ)まさなければならないのに

堀北さんが安心させまいと笑顔でいてくれている。


全国大会の切符を自ら勝ち取ったんだ。

ライバルが待ってる。

誰よりも続けたいに決まってる。

堀北さんの気持ちを考えれば考えるほど

悔しくて仕方ない。


なのに彼女の口からは。


「引退だね。しょうがないよ。

 治らないんだから」


だってさ。

無責任に『治るよ』なんて言えない。

『お疲れ様でした』とも言いたくない。

オレは堀北さんの前で泣くのを必死で

こらえる。


「手術はするの?」

「治るか分からないのに

 そんな大金掛けられないよ。

 ただでさえ今まで遠征費とか

 親に負担を掛けたんだから」


だろうな。そういうと思った。

オレがもらったバイト代3000円を

渡しても入院費にすらならない。

くっそ。何てオレは非力なんだ。


「えー」


なんて声を掛けていいか言葉がでない。

何も浮かばない。

オレがこんなにショックなのに

堀北んさんは強い人だ。


「ごめんね。

 湿っぽくなっちゃって」


オレの方が、ごめんだよ。

なんで堀北さんにフォローされてるんだ。

クソすぎて、自分をぶん殴りたい。

堀北さんは笑顔でいるのに

オレは終始不安な顔でいたと思う。


オレは、あの試合が最後かもと

分かってて応援してたんだ。

そして、それが現実となった。

堀北さん自身も同じ思いだったはず。

だから、この状況に納得してるんだと思う。

なのにオレが納得いってない。


「東京都大会での

 堀北さんの全ての競技が

 今でも目に焼き付いてます。

 最高の試合でした。

 スポーツであんなに興奮したのは

 始めてなんです。

 誰かを応援したのも。

 見に行ってよかったです」


「ありがとう。

 学校でも言ってくれてたよね。

 何度言われても嬉しいものだね。

 みんなが応援してくれたから

 200%の力を出せました。

 ありがとう。私はやり切りました」


嘘だ。

高校卒業後はオリンピック目指すんだろ。


「今後はどうするんですか?」

「ね。なにしよっか!?

 小さい時からボルダリング一筋

 だったからなぁ」


「最後に細倉くんと一緒にトレーニング

 できたの、いい思い出です」


あぁ、ダメだ。胸が締め付けられる。

泣くなオレ。今、泣いてはダメだ。


「ずーっと応援してるので

 手伝うことがあったら

 何でも言ってください」

「うん、その時はお願いする」


「じゃ、月曜日学校 (部活)で」


では退散しますという意思表示で、

オレは頭を下る。

だがそれは涙を隠すためのポーズで

既に温かい物が頬を伝わっていた。

顔を見られないよう背を向け、

逃げるようにしてジムを後にする。


他人の事で、こんなにも苦しい思いに

なったのは初めてだ。


どうにか選手を続けさせたい。

まったく役に立ってないオレの左手と

交換できないものだろうか。


いろいろ考えるもオレには堀北さんを

救うことができない。

なんという無力感だろうか。

帰り道、しばらく涙が止まらなかった。

そして今に至り、天井を眺めてる。


♪ピコ


Lineだ。岩井?

あぁ、コスプレの人か。

こんな時間になんだ?


Line>エルピースが解散するって。

   何か聞いてます?


エルピース?なにそれ。

ネットで検索すると、アイミーの

グループ名であることが判明した。

アイミー、アイドル引退しちゃうの!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ