(066) 手根管症候群？
◇◇◇ 病院 ◇◇◇
ここは乃々佳の病室。
「堀北さんの試合中に消えるのはなしだよ。
消えるなら消えるで、せめて
お別れの挨拶していけよ。
急にいなくなられたら困る」
オレは目覚めることを信じ話し掛ける。
先ほど看護婦さんが見えて
乃々佳の健康チェックしに来た。
その最中に質問してみた。
話し掛けるのは良いことなのかと？
すると患者は寝てても話は聞こえてますと
教えてくれた。
マッサージと声掛けは回復に効果が
あるとのこと。
沢山声を掛けてあげてと言われた。
ならば続けるまでのこと。
７月の頭から倒れてるんだよな。
１ヵ月眠り続けている。
この先、目覚めてくれるのだろうか。
「天使でいいからオレの前に現れてくれよ。
１人で一方的にしゃべるのは寂しいぞ」
手を握っていいだろうか？
マッサージも大事と言ってたよな。
ここには誰もいない。
看護婦が来る時間帯も把握してる。
手を握るだけなら問題ないだろう。
いやダメだ。カメラがある。
録画されてるしリアルタイムで
監視されてるはずだ。
あぶねぇ。触らなくてよかったぁ。
出禁になるところだ。
「カイを知ってるよな？
あいつ実家に帰ったよ。
高校来て初めての帰省だって。
なんでも高校卒業したら
地元で働くんだとさ。
卒業したら会えなくなるな。
ウザい奴だけど居なくなると
寂しいものだ」
オレは話し掛けながら、
乃々佳の表情や指の微かな動きを見逃さ
ないようチェックしてるがピクリともしない。
胸を揉んだら反応するか？と
よこしまな考えが頭を過るも
監視カメラがオレを止めさせた。
「ノノンなんだよな？」
昨日は乃々佳をノノンと結論付けたけど。
餃子やディズニーランドを知らないと
発言したノノンを、ふと思い出した。
乃々佳が知らないとは考えずらい。
乃々佳とノノンは関係がないかもと
揺らぎ始める。
とにかくだ。
乃々佳が目覚めることに全力を注ごう。
昨日から頑張ってるが成果が出ないから
オレのネガティブが発動しだしたのだ。
しかし、腹減ったぁ。
気付いたら昼である。
外行くついでにジムに寄るか。
バイト代。もらえるんだった。
堀北さんも来てるかも知れないし。
「ノノン、ちょっとジムに行ってくる。
大会のあと挨拶せずに帰ってしまった
から後輩ちゃん会いに行って来る。
東京都大会の結果、ノノンはどこまで
知ってる？
美沙が総合４位で、
優香が総合５位だったんだぞ。
うちのジム、レベル高いな。
オレ関係ないのに鼻が高いよ。
また明日来る」
オレは、病院を出てジムへと向かう。
夏休みになったらバイトするつもりで
いたけどどうしよう。
ノノンが消えてからお金を稼ごうという
意欲が薄れてしまった。
心がポッキと折れてる。
ランド一緒に行こうって約束したのに。
あの約束は本当にフラグとなった。
バイトしないとなるとオレの予定は白紙だ。
明日から何しよう。やっぱバイトすっか？
乃々佳が目覚めたらランド行くかも知れんし。
そもそもアイミーのチケット代も稼がないと。
やべぇなぁ、チケットが完売になってないのを祈りたい。
◇◇◇ 七瀬ボルダリングジム ◇◇◇
あれやこれやと考えるうちにジムへと到着。
そして、中へと入る。
「こんにちは」
お！茶髪コンビのショートの方がいる。
ボルダリングしてるわ。
しかし、こいつ良い筋肉してるな。
「エッチ、変態」
お尻しか見てない。その目つきやめろ！
美沙が壁から降り、オレの正面へ。
「誤解だ。お前に興味はない」
ハッキリ言ってやらないとな。
「ちょっと話しあるから来て」
会って早々なんだよ。
それが先輩に対して言う言葉か。
外に出たけど、どこ行く気？
なんだか人気のないところですけど。
まさか、不良グループが現れて
オレをボコボコにする気か？
「凛心先輩の怪我聞きました？」
堀北さんの怪我？
手首のだよね。
そう言えば、検査しに行くと言ってたけど
結果はどうだったんだろう。
「いや、まだだけど」
「重い手根管症候群だって」
それ病名なの？
心の病？
「多分。もう」
何を言わんとしてる。
「試合に出れないかも」
