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(062) 明日から楽しい夏休みのはずが

◇◇◇ 学校の寮 ◇◇◇

堀北さんの試合が終わったあと、

寄り道せずオレは寮へと直行した。


今頃はジムの皆さんは、堀北夫妻による

焼き肉屋でのお疲れ様会をしてるころだろう。

総勢10名ほどで、その中にカイもいる。


堀北夫妻が店を貸し切ったらしく、

ジムの皆さんでご馳走してくれるのだそうだ。

なんとも太っ腹な家族なのだろうか。

確かにめでたい。こんな嬉しいことはない。

だって都大会で1位になったのだから。


お疲れ様会は、試合結果に関係なく、

先週から予約してたそうで、朝から参加の

有無を聞かされてた。

朝の時点では、当然迷うことなく参加すると

伝えてはいたさ。

だが試合後、緊急の用事が出来たと言って

不参加を示したのである。


理由は、ノノンの消失がショック

過ぎたからだ。

その会合で笑える自信がなかった。


部屋へ戻って来ても、ノノンの姿はない。

まさか、永遠にお別れじゃないよな。

土日の2日間消えてたこともあるので

まだ希望は残ってる。


今日は疲れた。時刻はまだ19時。

とにかく疲れた。もう眠い。

シャワーは朝にしよう。


オレはヘッドに横たわり、何もせずじっと

天井を眺めてた。

思い浮かぶはノノンのことだけ。

なんだろうこの脱力感は。

もう何もしたくない。


***


♪ピッピ、ピッピ、ピッピ


目覚ましの音?

朝だ。

オレは飛び起きて周囲を確認。

ノノンの姿はいない。

だよな。

居たら起こしてくれたはずだ。


本当に消えたのか?

もう、会えないのか?

ランド、一緒に行くんだよな?


◇◇◇ 教室 ◇◇◇

教室に入るといつもの光景が目に飛び込む。

一点違うのは、ノノンが居ないことだけ。


今日が前期最終日である。

明日から夏休みに突入。

人生で初めて楽しみにしてた夏休み

だったのに、今は興味が薄れてる。

このままノノンが現れなかったら

トラウマになりそうだ。


堀北さんが居る。

左手を包帯でグルグル巻きにしてるのが

目に入る。

よし、元気出そう。

堀北さんの前では笑顔でいないと。


「堀北さん、おはようございます」

「細倉くん、おはよう」


女神のような笑顔。(まぶ)しすぎる。

その包帯について聞きたい。

メッチャ聞きたい。

笑って会話できるところまでガマンしよう。


「総合1位おめでとうございます。

 最後まで見てました」

「ありがとう。応援してくれてたの

 うちの親から聞きました」


わぉ。

堀北家はオレを認知してくれてる。

オレのロビー活動が身を(てい)したぞ。

ご両親と顔見知りですし、

お家に遊び行ってもいいすか?


あ!プレゼント買うの忘れた。

やっちまった。

ノノンがショック過ぎて忘れてたわ。


「試合、退屈じゃありませんでした?」

「いやいや、初めて見ましたけど、

 メッチャ楽しかったです。

 オレ、スポーツ見ないんですけど

 あんなに興奮したの初めてです」


リアクションが大げさだったかな。

オレが言うと嘘くさく聞こえる。

本当に楽しかったんだよ。

多くの人から(あこが)れてるこの人と

こうして会話してるのが夢のようだ。


「多くの選手に声掛けられてましたよね。

 堀北さんって人気者ですよね」

「そんな事ないよ。選手達みんな仲いいの」


なぜ、そんなに明るくしてられるんだ?

手首の怪我は深刻ではないの?

もうガマンできん。


「包帯してますけど、大丈夫ですか?」

「これよね。

 昨日の試合で無茶しちゃって痛めたの。

 午後、病院行くつもり」


まだ、診てもらってないのか。


「全国大会っていつですか?」

「12月、だから4カ月後」


まだまだ先だ。ちょっと安心した。


「じゃあ、それまでに怪我治さないとだね」

「そうなの。夏休みは治療に専念するつもり」


こうやって会話してるところを

昨日の選手どもに見られたら睨まれそう。


「お待たせ」


カイの登場だ。

良い感じだったんですけど空気読めよ。


「待ってなどいない」


岳中(たけなか)くん、おはよう」

「堀北さん、おはよう。

 昨日は楽しかったね」


やばい。

お疲れ様会参加してなかった。

何て言い訳しよう。


「ハル!うちのクラスの岩井(いわい)

 お前呼んでるぞ」

「どこ?」

「入り口に居る子」


オレと目が合ったら手を振ってる女子がいる。

基本、学校の女子はオレをキモ扱いする。

ありえないパターンだ。


「知らない子だけど。オレに用なの?」

「ああ、細倉くん呼んでって」

「わかった」


半信半疑で、その子の元へと行く。

()ぇよ。

もしかして他クラスからも罵倒されるのか。

C組で何した?心当たりないぞ。


その女子の正面まで行くと。


「あまり人に聞かれたくないので、

 あっち移動していい?」


オレを学園の番長に会わせて

ボコボコにする気だろうか。


「あぁ、はい」


人気の居ないところに連れて来られたけど

何されるのだろう。


「私、覚えてます?」


えーっと、小学校の時、同級生だったとか?

まさか。


「土曜日。

 レイナのコスプレしてました」


土曜日?コスプレ?

あぁ!

アイミーと会場へ入るところで

コスプレイヤーに声掛けられたわ。


「幕張でコスプレしてた人?」

「シー!大きな声、出さないでください。

 学校ではコスプレのこと秘密にしてるんです」


やはり、あの時の子だ。化粧してたからか?

事実を知っても同一人物とは思えない。

しかし、まさか同じ学校の子だったとは。

小説のような在りえない展開になってきた。


「教えてください。

 エミリンさんと、どういう関係ですか?」


なるほどね。そう来たか。

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