(059) 大会当日:ボルダリング②
◇◇◇ 試合会場 ◇◇◇
ここは女子選手の控室。
1人の選手がベンチに腰かけ
自分の名を呼ばれるのを待っている。
その選手は自分の左手を見つめ
グーとパーを何度も繰り返す。
指1本1本が思い通りに動かせるか
握力が下がってないかを確認している。
他の選手には分からないだろうが、
実は手首から上がしびれている。
さらに痛みもある。
そんな状況であるにも関わらず、
彼女は痛みがガマンできるレベル
であることに安堵してる。
そう、その選手は堀北凛心。
そんな堀北選手に多くの選手からの
熱い視線が集まっている。
その視線は決して敵視してるものではない。
全て憧れの眼差しである。
学生でフリークライミングを始めれば、
誰しもが一番最初に覚える選手は
堀北凛心選手といっていい。
少なくとも、本大会で男子も含めて
堀北凛心を知らない選手はいない。
それは決して、先日の藤沢選手による
ライバル発言によるものではない。
ジュニア時代からの経歴と誰にも
マネ出来ないムーブに魅了されたからである。
フリークライミングという競技に
のめり込めば込むほど、彼女のムーブが
異次元であることをみな身に染みて理解する
こととなる。
それが憧れや目標へと変って行ってるようだ。
そんな堀北選手が同じ控室にいる。
どの選手も話し掛けたいところではあるが、
試合に集中する彼女に声など掛けられる
訳がない。
そんな中、この控室で唯一1人だけ、
堀北選手を見つめて涙ぐむ選手がいる。
同じジムに所属する中島奈美だ。
彼女もまた堀北選手に憧れている1人。
堀北選手が居るという理由で同じジムに
通っている子でもある。
先輩が自身の手のひらを見つめているのを
見て状況を察したのだろう。
もしかしたら今日の試合が最後かもしれない。
そう感じ取ってしまい涙が溢れるのであった。
♪実況
女子の方は現在ボルダリング第3課題
に移ってます。
既に3名の選手がトライし完登に失敗
している模様
♪解説
そうですね。
第3課題は男子選手でも苦戦しておりました。
女子は男子に比べ身長が低いという
こともありハンデがあります。
攻略は相当難しいと思われます
♪実況
次はいよいよ菊池選手になります。
どのように攻略するかが楽しみです。
第3課題はメチャメチャ不安だ。
左斜め上に登っていくコースなのだから。
堀北さんは左手首の怪我が完治してない。
素人でも分かる。左腕を多用しそうだと。
堀北さんの手首がもつのか不安だ。
そんなことを考えていると
会場に菊池選手が登場した。
次は彼女の挑戦となる。
そして、スタート。
♪実況
第3課題。
現在、菊池選手が挑戦してますが
なかなかうまく行かないようです。
やはり6番ホールドがキモのようですね」
♪解説
ジャンプで掴まざるを得ないのですが、
ホールドが小さく握り辛いのが
難点なところでしょう
ジャンプで左上の6番を掴もうとするも
滑ってらせて落ちてしまう。
結果、菊池選手の第3課題は完登できなかった。
本来、全力を尽くした選手に対して
称えるべきなのだろう。
オレにはできなかった。
心の中でガッツポーズしてしまってる。
きっと堀北さんはハグをして称賛したに違いない。
♪実況
次はいよいよ堀北選手になります
♪解説
彼女がどのように攻略するか楽しみです
堀北さんが会場に登場し挑戦が始まる。
やはり1発目は堀北さんも5番でジャンプして
6番で掴んだ握り切れず落ちてしまった。
ボルダリングは時間内であれば
何度でも挑戦できる。
堀北さんは、マットから6番ホールドを
じっくりと確認してリトライを開始する。
♪実況
2度目の5番ホールドまできました。
そして、おっと。
自身の身体を振り子のように振って
大きくジャンプ。右手で掴んだ!
♪解説
掴んだというよりも人差し指1本で
支えましたね。
右手を使ったのは素晴らしいです。
次の7番にもつながりました
♪実況
ベテランの技でしょうか。
流石と言ったところです
いや、成功したのは恐らく偶然だ。
オレには、左手をかばうために
無理やり右手を使ったものと推測してる。
それが結果的にうまく行ったんじゃないかと。
♪実況
堀北選手、第3課題見事完登しました
我々応援団は完登に全員で喜んだ。
だがオレは素直に喜べないでいる。
先ほどの件で左手首が気がかりでならない。
そんなオレの不安は的中した。
次の第4課題で、堀北さんが左手首を
テーピングして出て来たからだ。
やばい。痛みはあるのか?
どこまで動かせるのか。焦った。
オレが動揺してどうするよ。
堀北さんの最後を見届けると誓ったのだ。
全力で応援しなければ。
最後の瞬間を目に焼き付けるんだ。
だが、そんなオレの不安をあざ笑う
かのように第4課題も完登してしまった。
全ての課題が終了し結果は次の通りとなる。
<<ボルダリング結果>>
1位 堀北 4完登4ゾーン ★★★
2位 高岡 3完登4ゾーン⇒後輩の美沙
3位 石谷 3完登4ゾーン⇒後輩の優香
4位 菊地 3完登4ゾーン⇒注目選手
5位 神崎 2完登4ゾーン
6位 真田 2完登4ゾーン
7位 本間 2完登3ゾーン
8位 森口 2完登3ゾーン
我らが堀北さんは堂々たる1位を獲得。
注目の菊池選手は4位に終わった。
ここでビックリなのが、茶髪コンピの2名が
2位と3位に位置したことだ。
菊池選手と同じ3完登の4ゾーン通過であったが
トライ数の差で上位になれたのである。
同じジムとして堀北さんも鼻が高いだろう。
控室で肩を抱き合って喜んでる姿が想像つく。
やはり、今大会は同じジムがライバル
のような気がして来た。
そしてなんと言っても女王堀北である。
4完登できたのは彼女だけだ。
これで伝説が1つ増えたのではないだろうか。
なぜかオレが誇らしく感じてる。
そして泣きそうになってる。
まだ試合は終わってない。
応援をつづけなければ。
総合結果は、「スピード」「ボルダリング」
「リード」の各順位を掛けたものが
スコアとなそうだ。
順位は、その値が小さいのがトップとなる。
したがって、ボルダリング終了時点での
中間順位は次の通りとなる。
<<中間順位>>
1位 菊地 1×4=4 ⇒注目選手
2位 堀北 6×1=6 ★★★
3位 神崎 2×5=10
4位 高岡 8×2=16 ⇒後輩の美沙
5位 石谷 7×3=21 ⇒後輩の優香
5位 本間 3×7=21
7位 森口 4×8=32
8位 真田 5×6=30
現時点では、菊池選手が1位をキープしてる状況。
堀北さんは2位にまで浮上。
結果を見て、堀北夫妻に報告だ。
「ボルダリング1位。
おめでとうございます」
「皆さんの応援が伝わったんだと思います」
「現在2位です。
総合1位きっと取れますよ」
「あの娘、毎日頑張ってましたからね。
取れたらいいですね」
堀北母は良い感じの人だ。
家族ぐるみな関係を築けそう。
あとパパの方だ。
こちらを攻略できれば親公認の仲になれる。
オレも戦っているのだ。
全国大会へ行くのは上位2名。
すなわち1位か2位になること。
中間順位の上位4人に関しては全国行きの
チャンスがある。
なので、堀北さんが2位内に入れるかは
まだ不透明だ。
次の最終種目であるリードが不安でならない。




