(055) ワンフェス③
◇◇◇ ホテルの部屋 ◇◇◇
<<へぇ、面白い>>
先ほど食事を済ませ、アイミーが着替えたい
ということで宿泊してる部屋で待つこととなった。
女子が宿泊してる部屋だから詮索するのは
NGだと頭では分かっていながらも、
初のホテルであるため興味深々であちこち
見て回ってしまう。
<<ハルの部屋より広いね>>
比較するな。
<<バス、トイレ、洗面所まである。
小さな家って感じだね。
冷蔵庫もあるよ。
ハルの部屋より機能的>>
だからオレの部屋と比較するなって。
最後に窓際まで行き外の景色を眺める。
<<ハルの部屋のより景色いいよ>>
確かに眺めがいい。
これが格差社会ってやつか。
あの部屋に住んでて、
自分が可哀そうに思えて来る。
そして窓際の椅子に深々と座り、くつろぐ。
「シャワー浴びてくる。ゆっくりしてて!」
「言われなくてもマッタリしてます」
「いいね、ホテル」
<<セレブになった気分じゃない?>>
ホテルごときでセレブだなんて、
オレ達は小者だなぁ。
「ホテルの最上階は部屋が凄いらしいよ」
<<どんな部屋か見てみたい>>
最上階か。オレのような輩は
拝見する事すらできのだろう。
せめてノノンをディズニーランドのホテルに
泊まらせてやりたいけど、今のオレには難しい。
オレはなんて無力なのだろうか。
「今は無理だけど。
ノノンを最上階の一番いい部屋に
いつか泊まらせてあげるな」
<<ハルならできるよ。楽しみにしてる>>
鼻で笑われるかと思ったけど、
ノノンはいい奴だよな。
冗談だったのにマジになるじゃないか。
起業して社長になれば実現できるかなぁ。
ハハ、自分で言って笑ってしまう。
まったく小学生の思考だな。
そんな甘い考えでは一生無理だ。
将来の目標が無いオレには社会人にすら
なれないかも知れないな。
そんな夢物語な会話をノノンとしてたら
アイミーがバスタオル姿で登場した。
歯ブラシをくわえ、髪の毛をタオルで束ねて。
身体はバスタオル1枚という状態だ。
ベッドに腰かけ涼しんでる。
「ふぅー、気持ちい」
当然だけどアイミーはスッピンだ。
スッピンのおばちゃんが、化粧して美少女に
なる動画を見たことがある。
アイミーが別人だったらどうしようと
思ってたけど、変わってないのに安心した。
しかし、見えそう。
あなた意外と大胆なのね。
<<ハル!どこ見てるの?>>
やべぇ。
だが、その後の行動の方が衝撃的だった。
歯磨きの後、洗面所で口をゆすいで
ベッドへ戻って来ると、スーツケースを
開けて何とその場で着替え始めたのだ。
そう、彼女はオレの目の前で全裸になり
恥ずかしげもなく、着替えだしたのである。
<<ダメー。見ちゃダメー>>
アイミーを隠すようにしてオレの目の前に
ノノンが両手を広げて立つ。
一瞬しか見えてなかった。
バカ、ふざけんな。見えない。
頼む、ちょっとどいて。
ノノンを消すスイッチないのか。
<<ハル!ダメー。
アイミーさんも洗面所で着替えて!>>
そうだ。動画だ。
動画ならノノンが映らいない。
オレは必死にポケットから携帯を手に取る。
「何してるの?」
やばい。
携帯を持ってる理由が説明できない。
「写真撮ったらオークションで
高く売れるかなって」
「別に取っても構わないけど
その写真信じるかしら?」
確かに。
現代の加工技術は凄まじい。
オークションに出してもファンは信じず
むしろ世間から叩かれる可能性は高い。
そして、事務所からは損害賠償
されることになるのだろう。
良いことはなにもない。
「大胆ですね。
恥ずかしくないんですか?」
「別に。
見られて減るもんじゃないし。
でも、化粧してるところ見られるの
恥ずかしいかも」
なんだそれ。意味が分からん。
・・・
アイミーの支度が終わり、
いよいよ会場へ行くこととなる。
「そろそろ行きましょうか?」
派手な服装でなくてよかった。
オレの言いつけを守ってくれたのか
サングラスもしてくれてる。
確かにアイミーだとは気付けない。
だが普通の女子にも見えない。
スタイルはいいし、オーラがあり
どうしても目を惹く。
これ絶対バレるって。
さっさと逃げるしかないな。
金無いから帰ると言おう。
「はい、チケット」
ん!
「もう購入してました?」
「いえ、まだですけど」
アイミーは関係者口から入れるが
さすがにオレは無理なので、
チケットをわざわざ自腹で購入して
くれたようだ。
そうなるとチケットを受け取るしかなく。
会場に入って見学するしか選択肢はない。
ということで、会場まで仲良く並んで歩くことに。
ファンが大勢いる中。
どこまで会場に近づいたらバレないか
という罰ゲームでしかない。
裏口目指して歩くので、正面口よりも
人は少ないが、逆に熱狂的なファンが
アイミーが来るのを待ってる可能性がある。
<<ハル!見て見て>>
会場の所まで来たら、建屋の外にコスプレ
の激写エリアが設けられていた。
数えきれない人数のコスプレヤー達に
ノノンは釘付けだ。
「エミリンさん」
突然、1人のコスプレした女子に
声を掛けられた。
やっぱバレバレやん。サングラス意味なし。
「レイナ可愛い」
レイナさん?知り合いですか?
「頑張って作りました」
あぁ、衣装のことね。
自分で作れるんだ。へぇ。
レイナはアニメキャラの名かな?
「エミリンさんに褒めてもらえるの嬉しい。」
「ユーリちゃんだよね?」
「分かります?」
「分かるよ」
この女子がチラチラ、オレを見てるけど。
オレはマネージャーですから気にしないで。
どこから見てもクソガキだ。
仕事の関係者でないことはバレバレ。
オレの方がサングラス掛けるべきだった。
顔覚えられたかも。
写真だけは撮れらないよう注意。
「一緒に写真撮ってもいいですか?」
「撮ろう撮ろう」
コスプレーヤーから携帯を受け取り
オレが撮影することに。
♪カシャ、カシャ
中腰で仲つつましい姿を数枚撮ってあげた。
「インスタに投稿してもいいですか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます。
ステージ見に行きますので
お仕事頑張ってください」
「あとでね」
嵐のように現れて、コスプレエリアへと
去って行く。
「いい子でしたね」
「ダメよ、ファンの子に手を出したら」
オレのファンじゃないから。
そして、関係者口付近での別れ際で。
「この後、どうします?
ステージ終わったら直ぐ
次の現場に行かないと行けないの。
一緒に会場を回ること出来ないけど」
一緒に回らなくていいです。
ファンにボコ殴りされますから。
「オレも午後用事があるので、
適当に見学して
アイミーのステージ見て帰ります」
「じゃぁ、今晩Lineするね」
そう言って、会場へ入って行く。
その後ろ姿を見て、
オレの彼女のような気がしてきた。
勘違いしそう。




