(054) ワンフェス②
◇◇◇ 幕張メッセ付近のホテル ◇◇◇
アイドルのアイミーが貧乏学生である
オレに毎晩Lineして来る。
しかも、アイミーからデートに誘ってくる。
ファンからしたら、こんな羨ましいことはない。
理由を聞いたところ、気を使わずに
会話できるからだそうだ。
「ガッカリした?」
「いえ、安心しました」
本当にそんな理由なのだろうか。
まぁ、恋愛感情はないと宣言された
ようなものだ。
少しは気が楽になった気がする。
アイミーを彼女にしたら金銭面、
外見、マナー、社会的地位、
全てにおいて釣り合いが取れてない。
「この関係を終わりにしたい
ってこと?」
言い方。
カップルの別れ話ように聞こえる。
聞いて来るってことは
続けたいのだろうか?
待て待て。
オレとLineしたり、会ったりしてたら
いつかアイドル生命終わるぞ。
アイミーには、続けることに
デメリットしかないだろ。
「この危険な関係を楽しんでる
部分はあるかもね。
さっきも言ったけど、アイドル卒業して
いいって本気で思ってるし」
この人、素が一般人とズレてるんだな。
でなければ理解できない。
「アイドルって華やかで楽しそうに
見えるでしょうけど、同じくらい
辛いことが沢山あるのよ。
それを見せてないだけ」
ジャンルは違うけど堀北さんも同じ
なのだろうか。
「ハルキのLineにいつも元気もらってる。
笑顔を届ける仕事してるのにね。
おかしな話でしょ。
嘘じゃないわ」
オレが元気を届けてるって?
嘘だろ。
くだらない会話しかLineでしてないぞ。
「だからという訳でないけど。
お友達として続けてくれると嬉しいなぁ」
おそらく本心なのだろう。
ここまで言わせてたのなら
オレも素直な気持ちを返さないと。
「オレも友達いないからLineは楽しい。
今まで通り世間話でいいなら続けたい。
それでアイミーが元気になるのなら
いつでもLineして来てよ。
でも相談はなしだよ。答えられないから。
あと、こうやって会うのもいいけど、
せめてバレないよう変装して欲しい」
「よかった。
私からも1つお願いがあります。
今まで通り芸能人扱いしないでね。」
この関係が継続することとなった。
今日で最後と思ってたのに、ほっとしてる。
そんな中、ウェイターが現れ朝食を運んできた。
品数が多い。
テーブルに料理がずらりと並べられる。
大きなお皿に3品ほどの品が乗ったものが
出てくると思ってたのに。
<<何これ、朝からゴージャスじゃない?
セレブの食事だよ>>
ほんとうだよ。
オレがシンデレラになった気分だ。
12時の鐘が鳴るまで楽しむことするか。
「インスタ上げたいから写真
取ってもらっていい?」
♪カシャ、カシャ
アイミーの携帯で写真を撮る。
カメラを向けるとやはり別人だ。
彼女がアイドルであることを
実感する瞬間である。
こんな人と一緒にいて会話してるのが
嘘のようだ。
「一緒に映る?
インスタにアップしたら
楽しいことになりそう」
「なるでしょうね。家が特定されて、
オレ、ファンに刺されますよ」
「ちょっと聞いていいですか?
前回もそうですけど。
たとえオレが映ってなくても
この写真をインスタにアップしたら
だれが取ったの、となりません?
俗に言う匂わせってやつ。」
オレは割と本気で心配したのだが
アイミーはクスクスと笑う。
「原宿のインスタ見てないのね。
スタッフと休憩時間に食事と書いてますよ。
だから安心して」
なるほどね。
もし週刊誌にバレたら、事務所の
アルバイト員になれば、嘘にならない?
「9月にライブがあるの知ってる?」
「武道館ですよね。つい先日しりました」
「来てくれるでしょ?
チケット余ってるから来て」
テーブルに2枚のチケットが出された。
「お友達といっしょにどうぞ」
<<行く行く!アイドルのライブ見たい>>
お友達って誰とだよ。
カイはやだし。
堀北さん誘うか。いや無理だ。
1人で行くか。ノノンが居るしな。
ちょっと待て。
提出されたチケットのとある場所で
目が止まる。
招待席って書いてありますけど。
「これって関係者席ですよね?
もしくは最前列なのかな。無理無理。
集中できないです」
<<えぇいいじゃない。
他の芸能人も見れるかもだよ>>
それがやなんだって。
そんな場所に、こんなクソガキが1人で
いるのおかしいだろう。
「そう言うと思った」
「それは家族に渡してください。
オレは自分でチケット取りますから」
金欠なのに勢いで言っちまった。
でもこの目でアイドルのアイミーを見てみたい。
ライブには行きたい。
一番安いチケットっていくらだろう。
「2階席なら余ってるはずだから
それならいいでしょ」
「あぁ、大丈夫です。
もし、チケットが買えなかったら
その時はお願いします。
必ずライブにはいきますから。
その代わり、つまらなかったら
途中で帰りますので」
これは、オレなりのエールだ。
「受けて立ちます。
ハルキが永遠に終わって欲しくない
と思えるようなパフォーマンスするから。
覚悟しといて!」
その後は、雑談をしながら楽しく食事をした。
アイミーは陽気な人だ。
だからオレの方が楽しい。
これは、仕事モードでオレを楽しませて
くれてるのかと勘ぐってしまう。
素でいてくれたのならいいが。
食事が終わり、アイミーは立ち上がる。
「私は着替えるので部屋に戻りますけど。
ハルキどうする?ここで待ってる?
部屋に来てもいいよ。」
見すぼらしいオレが、ここで1人待って
られる訳ないだろう。
周囲の目線に絶えられません。
部屋に行ってもいいの?
<<アイミーさんの部屋行こうよ。
ホテルの部屋、見たい見たい>>
そりゃぁ、オレもだけどよ。
「部屋に入ってもいいですか?」
「ここで待ってるの退屈でしょう?
来て来て」
軽いなぁ。
とても芸能人の言葉とは思えない。
「あのぉ、オレが気にしてるのは
スクープ写真が撮られたりしないかっ
てことですけど」
「大丈夫だよ」
この人、ちゃんと考えて喋ってるよね。
結果、アイミーの部屋へお邪魔する
こととなった。




