(051) 堀北さんサポート(続)
◇◇◇ 七瀬ボルダリングジム ◇◇◇
「7.90秒。ついに7秒台が出ましたよ」
「本番で出せないと意味ないですけどね」
オレはスコアボードを読み上げガブプル。
堀北さん的にも手ごたえを感じてるご様子。
結果はともあれ、リラックスできてそうでなにより。
現在、オレらはジムで昨日の続きをしている。
堀北さんのスピード競技による改造計画。
素人が口を出していいものなのかという
議論はあるが、する・しないは堀北さん本人
の判断だし、コーチがいない現在、俯瞰で
見てくれる人が居て助かっていると感謝されている。
このまま、この方法を信じて進むしかない。
昨日は、20個あるホールドの約半分を
1つ1つ再確認する作業を実施した。
そして先ほど、3回連続でトライしたが、
3回とも自己ベスト越えのタイムを叩き出せてる。
<<すごーい。これもう優勝だよ」
ノノンさん?気が早い。
堀北さんも言ってるでしょ。
確実にこのタイムを出せるようにならないと。
「昨日の今日で結果を出せるのは
才能ありますね」
カイの奴、相変わらず上から目線だな。
指摘が的確だからしゃくに障る。
くっそ、言い負かしたい。
「では昨日の続きで10番より上を
1つ1つ確認して行きましょう」
お前はコーチにでもなったつもりか!
勝手に決めんな。
「今の感じを忘れたくないので
あと2本やってからでいい?」
カイ!変なこと言うなよ。ここはオレが。
「もちろんですよ。
今日と明日しかないんです。
堀北さんがベストだと思う方法で行きましょう」
「ハルの言う通り。
堀北さんのやりたいように行きましょう」
どうも偉そうなんだよな。
「凛心先輩~」
堀北さんの名を呼ぶ女子の甲高い声が。
その声に反応して、オレは身震いする。
<<あら!また見ない子たち>>
本当だ。
昨日とは違う子。しかも3人。
「凛心先輩。頑張ってください」
「凛心先輩~」
次々とJKが出現してる。
オイオイ、ここのジムに所属してる
女子高生は全部で何人いるんだよ。
男子はいないのか。
うわ。その後から昨日の子も来たよ。
しかも、こっち来てる。
首を振って挨拶しても無視だんですけど。
感じ悪い連中だな。
仲良くしようって気がないらしい。
この場にカイが居てくれてよかったよ。
オレ1人だったら心が折れてたぜ。
「凛心先輩。早いですね」
「お疲れ様です」
昨日の茶髪コンビが堀北さんの正面まで
来て挨拶してきた。
「私もさっき来たところ。ここ使う?」
「先輩が終わってからでいいです」
次にミデアムヘアの美沙って子が
オレらに振り向き。
「3日後に大会だから、先輩に
変なことや無茶させないでよね」
来てそうそう頭ごなしに怒られた。
理不尽だろう。
確かに、素人だから反論はできんが。
「美沙、やめて!
それは私が判断することだから」
「ごめんなさい」
謝るなら堀北さんじゃなくオレにしろよ。
そして、茶髪コンビはジムの中へと
行ってしまった。
昨日もそうだが、熱烈なファンなら
堀北さんの練習風景見ないのか。
見たら影響され、自分のプレイが
できなくなるってやつ?
その後、みっちり練習を重ね。
タイムが8秒前後と安定し、
いい感じに仕上がって来た。
ただ、現状は喜べない。
他の選手も同じように努力してるからだ。
そして世界記録は5秒台。
タイムが8秒だからと喜んでいられない。
一通り終え、舞台は室内へ。
と同時に、オレとカイはアルバイトモード
へと変身する。
ジムの中へ入ると女子しかいない。
正確に言うとスタッフを除いてだけど。
堀北さん含めて8名のJKが集まってる。
ここは女子専用ジムなのか?
どうにも居心地が悪い。
夕方になれば会社帰りの男性が現れる。
それまでオレの精神がもつだろうか。
「こちら山口彩乃ちゃん。
同じ高校で1年生。
テスト期間中だから、もう帰るんだって」
同じ学校の後輩を紹介された。
このジムで、同じ高校なのは、堀北さんと
この山口さんの2名だけだそうだ。
残りは他校だという。
ちなみに、ジムに通うJK達は
3年生は堀北さんのみ。
2年生が茶髪コンビの2名。
残りの5名は1年生だという。
<<同じ学校の子、居たんだね。
学校で姿、見たことないけど>>
そりゃ、そうだろ。
1年生が3年の教室へ行くのはハードルが高い。
オレらと会わんのは当然だ。
「1年C組の山口です。
よろしくお願いいたします」
おお、良くできた子だ。
育ちがいいのだろう。
「初めまして、岳中凱人です。
皆からはカイって呼ばれてます。
学校で見かけたら気軽に声掛けていいから」
「止めろ!怖がってるだろう」
まったく、こいつは見境なく女子に
アタックする。
「山口さん?こいつ無視していいから」
「ハル?
もしかして彩乃ちゃんに興味あんの?」
こいつ、彩乃ちゃんって呼んだか!
羨ましい。オレもそう呼べばよかった。
もう無理だ。
「はいはい。いいからお前は仕事しろ!」
ちなみに、このジムから大会に出場するのは
5名だそうだ。
残り3名は当日オレらと一緒に応援することとなる。
他校とつながりができた。
そんなことある?
あの告白未遂から予想してた高校生活の
上を進んでるぞ。
挨拶が終わり、堀北さんはボルダリングの
練習へと移る。
オレはというと、茶髪コンビ2名が
スピードの練習を開始するということで、
器具に慣れてるオレがサポートすることに。
オレとカイは正式なアルバイト店員となった。
だから『やりたくない』とは言えない。
カイは付いて来てくれない。
要するにオレと彼女ら2名だけだ。
最悪。
良いことが在れば悪いこともある。
甘んじて受けようではないか。
せいぜい馬頭されるだけだろう?
死にはしない。
そう決心するのであった。
「ちょっと急いでるんですけど」
「すみません」
それが店員に対する口の利き方かよ。
こいつ絶対学校で嫌われてるな。




