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(048) 堀北さんサポート①

◇◇◇ 七瀬ボルダリングジム ◇◇◇


オレ、カイ、堀北さんの3人は

ジムの看板が見えるところまで来た。


「へぇ、学校の近くにこんなジム

 あったんだ。驚き」

「ん~ん、逆かな。

 ジムに近い学校を選んだって感じ!?」

「なるほどね」


<<そんな理由で学校選ぶ子、いるんだね>>


確かに。

オレだって寮があるから、うちの高校にしたっけか。

制服で選ぶ子だっているし。

今や学力で選ぶ時代じゃないんだな。


しかし、寮からも近い。

毎日、見学に行けるじゃん。

もっと早く知ってれば、堀北さんとの距離を

もっと縮めることが出来たのに。


「倉庫にしか見えないけど」

「ですよね」


カイ、失礼だろう。


ここは品川シーサイドにあるボルダリング専用ジム。

外観は倉庫のように見えるが、

中は様々な傾斜の壁があり、その壁にはホールドと

呼ばれる人がよじ登る用の突起物が無数に張り付いてる

ボルダリングする人のためのジムってことだ。


さてジムの中はどうなっているのだろう。

ワクワク。


「こんにちわ」


入り口に居たおじさんに挨拶を交わし、

堀北さんを先頭にオレ、カイが続いて中へ。

後で知った事だが、このおじさんが

トレーナーのお父さんであった。

てっきり近所の気さくなジジイだと思ってた。


<<ここ面白い>>


そうだな。

テレビで見たことはあるけれど、

実物を見ると違うな。

不思議な世界に足を踏み入れた感覚になる。


「こんにちわ」

「こんにちわ」


挨拶したのは、ここのスタッフ。

このジムは想像よりも広い。

夜になると社会人の客も来ると聞く。

どう考えてもオーナー1人で対応するには

無理があると思ったが、アルバイトの

スタッフ2名いることを知った。


堀北さんはお着替え中。

中に入って更衣室に直行した。

可愛いセーラー服姿も素敵だが、

カッコいいトレーニングウェア姿を

早く拝みたい。


「お待たせ」


堀北さんの登場。

おお!いいじゃないですか。

ナイスバディ。

上から下へと、なめ回したてしまったが

オレの目線、見られてないよなぁ。


「堀北さん、その姿、可愛いっす」

「やめてください。恥ずい」


カイの奴、オレの堀北さんに。


<<この人、いつも女子を

 イヤらしい目で見るよね>>


おっと、オレも該当してます。

ノノンに悟られないようにしないと。


トレーナーの件は、ここに来る前に3人で

病院へ寄って来た。

怪我は、大腿骨頚部骨折(だいたいぶこっせつ)だそうだ。

リハビリもあるため退院は1ヵ月後になりそう。


面会が出来たのだ。

思いのほか元気で、安堵する堀北さんを見て、

オレはほっとした。

トレーナーには悪いが、これで試合に集中

できると確信した。


トレーナーは20代後半だろうか。

見た目が若く好青年のように見える。

初対面であるにも関わらず、オレらのような

クソガキ相手に掛けてくれる気さくな印象を受けた。


オレらが堀北さんを大会までサポートすると

伝えたところ、感謝を述べられた。

イヤイヤ、オレ素人ですよ。

逆に堀北さんを潰す可能性だってある。


聞くところによると、トレーナーがたとえ

怪我してなくても、他のお客さんもいる手前

堀北さんだけを付き切りで指導するのは

難しいという。

逆にオレとカイが居てくれてよかったと

まで言ってくれた。

なんて良い人なのだろう。

オレは、オーナーさんを気に入ってしまった。


そして、話題は本題へと変わる。

次の試合に向けての作戦会議である。

全国大会へ進むには、今週末の東京都大会で

上位2名になる必要がある。

要するに女子の中で1位か2位でないと

全国に行けないということだ。


なんだ余裕じゃん。

全国大会2位の実力をもつ堀北さんなんだから。

などと軽く考えていたが、

どうやら簡単ではないらしい。

東京は激戦区らしく、強者が集結してる

のだという。

戦う前から『難しいかもしれない』と

オレらの前でハッキリと言われた。


オレはかなり動揺したが、堀北さんは

自覚があるらしく理解してる様子であった。


試合は次の3競技で競うのだという。

・誰が一番早く登れるかタイムを競う「スピード」

・課題をいくつクリアできるかの「ボルダリング」

・どこまで高く登れるかの「リード」


堀北さんが苦手としているのが「スピード」。

これの仕上げ具合で勝敗が決まるという。

しかも、このスピード競技で4位内に

入らなければ全国への切符はないだろうと

まではっきりと告げられた。


そして、今に至る。


オレとカイは堀北さんに付いて行くがまま、

倉庫を出て裏に回る。

なんと、屋外に高さ15mの壁がそこにあった。

しかも垂直ではない、若干手前に傾いている。

嘘だろう。これを登るの?

オレの想像を超えていた。


「これを登るんですか?」

「そう。一番上にある四角(しかく)いのを何秒で

 触れるかを競うの?」


「何分ではなく?」

「ええ。大体8秒前後の戦いになります」


カイが勘違いするのも分かる。

オレだったら何分あっても辿り着けないだろう。


<<嘘でしょ?15mだよ>


同感だ。

ノノンでさえ8秒では行けないと思うぞ。


「またまた。冗談でしょ?」

「本当だよ」


堀北さんは携帯で男子の試合を見せてくれたら

6秒台で到達していた。

冗談ではなかったのだ。

6秒って。走るのではなく登るんだぞ。


堀北さんがウォーミングアップしてる間、

スタッフの1人に器具の使い方を一通り学んだ。


役割としては、オレが命綱を引き、

カイは撮影となった。

オレの担当は、堀北さんが手足を滑らせて

落ちそうになったところを助ける役目だ。

オレが堀北さんの命を握ってる。

なんという使命感にあふれる役得だろう。


スピード競技の練習場はジムの外。

トレーナーからのポイントは聞いてある。

手や足を掛ける部分をホールドと言うが

10番目がキモらしい。

3秒台で通り抜ける必要があるのだという。

自己ベストが大会で出せればと語ってた。

ちなみに堀北さんの自己ベストは8.1秒。


どこが苦手なのでしょう?すでに化け物級。

だがトレーナーいわく、4位以内は難しいとのこと。


どうやら都内に、7秒台を出す女子選手が

3名居るとのこと。

1人は大会記録を持っているという。


はい?

この3人が自己ベストを大会で叩き出されたら

既に4位以下が確定だ。

大体、スピード競技でギリ4位を取れたところで、

総合で確実に2位になる保証はない。

やばい。

試合が始まる前から東京大会の難しさを

やっと理解した。

自己ベストを越える勢いで(いど)まないと

全国は遥か彼方だ。


♪ピ、ピ、ピッ


1度目のトライが始まった。

スゴ!

堀北さん、あなた忍者だよ。

登ってるではなく、壁を走ってる感覚だ。

カッコいい、カッコよすぎる。

そして、本当に秒で一番上にいっちった。

タイムは9.36秒。

ベストから1秒以上離れてはいるが、

すごいものを見せてもらった。

人間って鍛えれば何でも出来きるんだな。


♪ピ、ピ、ピッ


2度目のトライが始まる。

タイムは8.35秒。おお良いじゃないですか。

オレの目には、大きなミスはなかったように見える。

逆に、ここから記録を伸ばすのは大変そうだ。


♪ピ、ピ、ピッ


3度目。

タイムは8.49秒。

ひとまず休憩に入る。疲れてたのか?

これ、やばくないか。

大会まで間に合うのだろうか。


「堀北さん!ちょっといいすか?」


カイが堀北さんを呼びつける。

オレとカイは堀北さんのところへ。


「10番は3秒台なので、いいでしょう」


何言い出すかと思えば、こいつ偉そうに。

お前、素人だろう。


「早い人との比較してみたら、

 12番は手じゃなくて足を使ってて、

 逆にこっちは手を使って上がってる」

「なるほどね。ちょっと試してみます」


凄いなカイは。

やはり、こいつを連れて来て正解だった。

運動部は見るところが違う。


体格や身長差、不得意があるから、他の選手

のマネが必ずしもいいとは限らない。

今は、安定に登れるようにする状況ではない。

むしろ、いろいろと試すべきだと思う。

でないと、自己ベスト更新は運任せとなる。

今はそのための期間なのだから。


活き込んでここに来たはいいけれど。

オレは必要なのだろうか。

むしろ居ない方がいいのではと考えてしまう。

なんて無能なのだろうか、オレは。


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