(047) テスト2日目
◇◇◇ 教室 ◇◇◇
「細倉くん、おはよう」
「おはようございます」
いつもと変わらない朝の挨拶。
だがオレはドキドキしていた。
昨夜、金沢さんから『堀北さんが大変』
というLineが送られて来たからだ。
<<あら、堀北さん元気そう>>
そうだな。
空元気でなければいいけど。
◇◇◇
それは昨夜でのこと。
通知を受け取ってLineを見るのが怖かった。
タイトルに『大変』と書いてあったから。
堀北さんは今週末に大事な大会を控えてる。
もし、事件や事故に巻き込まれて
怪我でもしたら終わりだ。
毎日ジムに行ってトレーニングしてるのを
オレは知っている。
それが無駄になるんじゃないかと動揺した。
恐る恐る文章を確認したところ
どうやら堀北さんのトレーナーが交通事故で
怪我したという内容であった。
ひとまず安心した。
堀北さんの身に何もなくてよかった。
そのトレーナーは、堀北さんが通う
ジムのオーナーでもあるのだそうだ。
要するに指導者と練習場所を失ったことになる。
大会、間近だというのに?
これは偉い事だ。
トレーナーの怪我の具合は聞いてないが、
命に別状はないらしく意識もあるという。
医師の話では1週間は入院が必要とのこと。
以上が金沢さんからの第一報であった。
金沢さんとLine交換しといてよかった。
こんなこと堀北さんの前では話せない。
今週末の都大会まで、どうするかだ。
既に対策を考えているのだろうか。
オレは練習場所をよりも堀北さんが
動揺してないかの方が気になる。
明日から練習に身が入るのか。
大会で実力を発揮できるのか。
メンタルが心配。
すると1時間後だろうか。
金沢さんから第二報が届く。
トレーナーのお父さんが、ジムを開けて
くれることになった、という朗報だ。
これで練習場が確保できた。
ただ、お父さんはクライミングの
指導はできないという。
トレーナーの友人で指導できる人が
いるらしいが、来週から週1日なら
可能とのことだそうだ。
なので指導者なしで大会に挑むこととなる。
オレに何ができるか分からないが
サポートすることを決心した。
金沢さんには伝えてない。
カイには堀北さんが大変になってるこを説明し
オレがサポートすることを伝えた。
そして、カイも手伝ってくれと頼んでみた。
こいつは口が悪いが意外と役に立つからだ。
二つ返事で引き受けてくれることに。
堀北さんだから手伝うのか、
金沢さん絡みだからなのかは分からないが、
手伝ってくれるのは心強い。
◇◇◇
サポートの件は堀北さんにまだ伝えてない。
挨拶を交わしたが、さて、どう切り出そう。
金沢さんいわく、事故直後のことなので
トレーナーのことを心配されており、
自分のことは考えてない様子だったらしい。
「勉強しました?」
「ちょっとだけ。」
「勉強しなくても点取れるからいいよね。」
「流石に前日なので教科書開いたよ。
なぜか5分で眠くなるんだよ」
「分かるぅ。不思議よね」
何もなかったかのように明るく振舞っている。
内心ではどんな感情なのだろうか。
不安でいっぱいなのか、それとも気持ちを
切り替えて、前向きでいるのか。
表情からでは読み取れない。
さて、トレーナーのこと。
サポートにこと、どうやって話を持って行こう。
「堀北さん、トレーナー怪我したんだって?」
オイ、ばか!
カイがオレ達のところに来て、
いきなり直球を投げたのである。
<<相変わらずデリカシーのない人だよね>>
本当だよ。
思いやり回路がぶっ壊れてる。
「そうなの。昨夜交通事故に遭ったみたい」
あれ!意外と落ち込んでない?
どのようなアプローチでこの会話に持ち込むか
悩んでたオレがバカだったじゃないか。
「堀北さんは怪我してないの?」
「一緒じゃなかったから私は平気」
「よかった。試合近いから心配したよ」
お前は、心にもないことを次から次へと。
<<絶対心配なんかしてないよね?>>
ノノンの言う通りだ。
「もしかして細倉くんも
そのこと知ってるの?」
「実は昨夜、金沢さんからLineが来ました」
「心配させちゃった?ごめんね」
「謝らないでください。
落ち込んでないならいいです」
「ハル!
何で金沢さんのLine知ってるんだよ?」
ヤバい!ついにバレてしまった。
どうしよう。
<<その話、今関係ないでしょ>>
そうだそうだ。もっと言ってやれ。
「篠崎さんのプレイ動画を共有するのに
教えてもらっただけだ」
「まさか、隠れて口説いてないよな?」
お前、なぜいつも堀北さんの前で
そんな話しするんだよ。
ふざけんな。
<<この人バカなんじゃないの?>>
正解です。
「堀北さん、こいつバカだよね?」
堀北さんはクスクスと笑う。
笑顔が見れて安心できた。
内心では動揺してたとしてもだ、
この瞬間だけ忘れてくれたのなら満足。
「今日もジム行くんですよね?
トレーナーの親父さん。
店開けてくれるって聞きました」
「行きますよ。まだ課題も残ってるし」
よし、ここだ。言うぞ。
「手伝わせてください。
拒否しても絶対行きますから」
オレは、堀北さんを応援してる。
全国行ってライバルと戦わせてやりたい。
だから、堀北さんを好きとか関係なく
手伝いたいんだ。
役に立ちたい。
ほらカイ!お前も何か言え!
「オレらに出来ることあれば協力するけど」
「二人ともありがとう。嬉しい。
お願いしてもいい?」
来た!すんなりOKもらえた。
朝からずーと悩んでた。
どうせオレなんか役に立たないから
やんわり断られるだろうなと。
嬉しい。頼ってもらえる。
オレに何ができるか分からないけど
悔いの残らいよう頑張ります。
「テスト終わったら一緒にジム行こう」
「病院寄ってからでいい?」
トレーナの容態が心配だよな。
「そうですよね。
一緒に病院行ってもいいですか?
会話出来たらですけど、オレに何ができる
のかトレーナーさんに聞きたいです。」
「ハル、良いこと言うな。
ならオレも付いて行くぜ」
「面会できるかもわからないけど
それでもいい?」
「もちろん。」
「私も状況を詳しく知らないの。」
「たとえトレーナーと会話できなかったと
しても意志は受け継ぎます」
<<きゃあ~、カッコいい>>
「ハル!堀北さんの前だとカッコつけるな。」
台無し。絶好調のテンションが
どん底まで下がったわ。
「ほんとありがとう。
なら3人で病院へ行きましょか。
テスト終わたら下駄箱集合でいい?」
こうして、堀北さんのトレーニングを
手伝うことに。




