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(044) 2度目のストリートピアノ②

◇◇◇ 展望室 ◇◇◇

篠崎さんによる渾身(こんしん)の演奏が終わり

オレの所に2人が集結すると

カイがとんでもないことを口にする。


「今の演奏、全然ダメ!」

「お前、ふざけんな」

<<ハル!喧嘩はダメ>>


本気で頭に来た。

カイの冗談には慣れてる。

だが、流石にこれは笑えない。

篠崎さんがどんな思いで

この撮影に取り組んでるか。

この演奏にどれだけ魂をつぎ込んだか

知ってんのか。


「ハル、落ち着け!」

「細倉くん、お願い、止めて」


篠崎さん、ごめん。

楽しいはずの撮影会をぶち壊してしまった。

どうしてもガマンができなかった。

篠崎さんが良くても、オレはゆるせない。


オレら3人は隅の方へと移動することに。


岳中(たけなか)くん、

 どこが悪かったか教えてください」


<<全然ダメは、言い過ぎだよ>>


ノノンの言う通りだ。

小さい時から積み重ねて来た努力を

無駄だったような発言しやがって。

オレはそいうのが一番嫌いだ。


「プロのような演奏だったと思うが。

 お前には素人のように聞こえたか?」

「いや、そういう問題ではない。

 客の反応を見れば分かるだろう」


<<意味が分かりません>>


要するに演奏技術は問題ないらしく

むしろ上手い部類のようだ。

カイはピアノが全く弾けないのに

偉そうに主張してやがる。


悪いのは選曲だとさ。

篠崎さんに聞いたところ、

弾いた曲はコンクールの課題曲だという。

しかも一般人には聞き馴染みのない曲。

カイいわく、曲を聞かせてるのではなく

テクニックを聞かせていたのだという。


それじゃ、誰の心にも響かないんだとさ。

オレとノノンには十分届いたけどな。

聞く側の姿勢もあるんじゃないのか。


「聞いたよ。

 コンクールが近いんでしょ?

 反応を知りたい気持ちは分からんでもない。

 冷静に考えてみて。

 聞いたこともない曲を流されたら

 喫茶店のBGMとかわらん」


<<ちょっと言い方。この人、ほんと嫌い>>


ノノン、もっと言ってやれ。


「いいか!篠崎さんの前の人も

 聴いたことない曲を弾いてたぞ」

「彼は恐らく有名なピアニストだ」


「どうして分かる?」

「見ろ、みんな彼に声を掛けてるだろ?

 演奏系Youtuberかも知れない。

 少なくともこの場の多くに認知されてる」


カイが言いたいことは、彼が有名人だから

自ら演奏を聴くし、終われば称賛する。

まさにオレが篠崎さんを称賛したのと

同じだという。


対して篠崎さんは無名だ。

観客は自ら聴こうとしないし、

知らない曲ならなおさら興味を持たない。

だそうだ。

確かに、カイの意見には一理ある。


篠崎さんは少し落ち込んでるように見える。

カイの言葉が刺さったのだろう。

多分オレと発想は同じだ。

『上手い演奏=多くの人が聞いてくれる』だ。


「ならどんな曲がいいんだ?」

「そうだな。外国人もいることだし、

 洋画の曲が良いんじゃないか。

 アナ雪の主題歌はどう?

 弾ける?」


「メチャクチャ有名ですけど

 ちゃんと聞いたことないかも。

 サビの部分しか分からないです」

「なら変えよう。じゃぁ」


「待ってください。アナ雪やってみます」


はい?


<<聞いたことないのにどうするの?>>


だよね。

曲自体知らないんですよね?


「列に並んでる合間に耳コピします」

「いいね。

 どうせ、ここの人達とは2度と

 会わないんだから。やってみよう」


マジで?本当にやるの?

一度も弾いたこともない曲をですか?

いきなり演奏できるものなの?


篠崎さんは列の最後尾にならび、

bluetoothイヤフォンを使って

スマフォから楽曲を聞き出した。


オレはあっけにとられてる。

いくらなんでも無謀すぎるだろう。

素人のオレにだって分かる。

楽譜見て何日か練習は必要なハズ。

それを耳で聞いて、いきなり弾くなんて。


驚いてるうちに、先ほどの有名人が

2度目の演奏に入った。

やはり彼は有名人だったようだ。

弾く前から人が沢山集まる。

そして演奏が終わると、盛大な拍手に包まれた。


すげぇなぁ。

篠崎さんがああなるには

どうしたらいい?


それから待つこと20分。

我ら篠崎さんの演奏が始まる。

ギャラリーの数は1回目と同じだ。

20人ほどが聴こうとしてくれてる。


しかし、もの凄いメンタルの持ち主だ。

見てるオレの方が緊張してる。

もし途中で弾けなくなったら、

オレが代わりに演奏するよ。

恥ずかしい思いをするのには慣れてる。

オレは篠崎さんのメンタルが壊れないよう

気を付けることに集中する。


さぁ、始めるぞ。

録画スタート。


♪ ♪~♪~♪~


演奏が始まった。

おぉ、すげぇすげぇ。クオリティ高ぇ。

耳で聞いて、いきなり鍵盤を叩いてる。

どいうこと?

篠崎さんには驚きっぱなしだ。

次々と才能が溢れ出ている。


それよりも注目すべき点は周囲の反応。

多くの人が篠崎さんの演奏に耳を傾けてる。

やはり知ってる曲だと

みんな聴いてくれるようだ。

5分はあっと言う間。

終わってしまった。


♪パチパチパチ


おぉ。有名人ピアニストよりかは

遠く及ばないものの、演奏中に人が集まり

多くの人に拍手をもらった。

今回は大成功じゃないか。

ここにもう1人、絶賛してる子がいる。


<<すごくよかった。5分短いよ>>


「お疲れ。凄くよかったです」

「ありがとう。楽しかった」


「な!言った通りだろう?」

「ドヤ顔で言うな」


岳中(たけなか)くんもありがとう」

「あぁ、こいつに礼言う必要ないから」


<<ハルの言う通りだよ。

 初対面に対して失礼な人よね>>


「的確なアドバイスしてあげたのに、

 それはないだろう」

「確かにカイの指摘は正い。

 だが、全然ダメには今でも

 納得がいってない」


<<はーい、ノノンもハルに1票!>>


ノノンはいつでもオレの味方になってくれる。

だから、オレは自分の発言に迷わなくて済む。


「選曲もあるが、テクニカルな演奏が

 あったからこそ成功したんだ」


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