(033) ■■ ファースト・インパクト ■■ ■■■■■■■■■■■■■■■
◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇
「何恥ずかしがってるのよ。
カッコよかったぞ」
オレはベッドに横たわり、
のたうち回っている。
寮に戻って、篠崎さんとの会話を思い返し
たら急に自分の発言が恥ずかしくなった。
いつもは優柔不断なのに、
いかにも全てを分かってる風を装って
キザな男性を演じた節がある。
しかも、半分愛の告白とも受け取れる発言だ。
単に自信を付けたかっただけなのに。
オレが熱くなっていたような気がする。
全てはあのオヤジが悪い。
あいつのせいでオレも篠崎さんも
おかしくなったのだ。
あの後、ちょうど自宅方面へ向かう
バスが来たので篠崎さんは1人乗車して
去って行った。
次回の撮影は土曜日とだけ決めて
そのまま別れたのである。
明日、もしかしたら学校で出会ったら
どんな顔をすればいい。
キザな男を演じてしまいそうだ。
その現場をカイにだけは見られたくない。
<<よかったね。
篠崎さん、続けてくれそう>>
ノノン、お前が側にいてくれてよかった。
「ありがとうな、ノノン」
<<どうしたの?急に!>>
「ノノンが居なかったら同情して
2人して落ち込んでたところだったよ」
<<そんな事ないよ>>
<<篠崎さんのピアノ、わたし好き。
次の土曜日楽しみだね>>
「あぁ、オレもだ」
「次はもっと多くの人に
聞いてもらえるといいなぁ」
ノノンは、ポジティブだよな。
オレも人の幸せを願うような大人になりたい。
「ノノンはキューピットなんだろう?
矢を乱射しろよ。
そしたら簡単に人を集められるじゃねぇの?」
<<ノノンの矢は恋を実らせるための物。
興味を惹かせるための物じゃないよ>>
「あぁ、そうですか」
<<だいたい、矢を使って好きに
なられても嬉しくないでしょ!?>>
「おい、それオレに言う!?」
ノノンとの会話でやっと平常運転に
戻れたオレは、シャワーを浴び、
食堂で夜食を作って部屋へと戻る。
♪ガチャ。(扉が開く)
「お待たせ!」
<<待ちくたびれたよ>>
その言葉、なんだか嬉しい。
「たかが10分くらいだろ。
これでも急いだ方だぜ」
<<別にお風呂なんか入らなくてもいいでしょ。
ノノンは気にしないよ>>
「気にしろよ」
ノノンは、オレが手にするラップで
包んだ物が気になるようだ。
<<夜食って、おにぎりなの?>>
「おにぎりしか思いつかん。
具を詰めるだけだから作るの簡単だし。
形はあれだけど具沢山で栄養満点」
<<美味しいの?それ>>
「見た目はグロイけど味は抜群」
<<ハルの好きな食べ物ってなぁに?>>
「ラーメン、餃子かな。
あと生姜焼きも好きだけど。
定食屋さんのメニューが好物かも」
<<ラーメン?餃子?知らなーい>>
「餃子、知らないの?」
<<知らないよ。聴いたこともない>>
「それでも日本人かよ」
<<ノノンは天使です>>
「はいはい。
何度も言うけど、その格好のどこが
天使なんだよ」
<<どこからどう見ても天使でしょう>>
「天使って言ったら普通、頭に金の輪と
背中に羽があるもんでしょ?」
<<金の輪って、これのこと?>>
左腕に付けてるアームレットのアクセサリを
オレに見せる。
「イヤイヤ。そいうんじゃない。」
<<羽も一緒に付いてるよ>>
「それ、羽なの?」
またもや、同じアームレットをオレに見せつける。
分かりましたよ。
ふざけてるのかと思ったけど、よーく見ると。
確かに、金の輪と羽だね。
「なるほどねぇ。
最近の天使はこれが主流なのね」
<<今も昔も変わってません。
これが天使です>>
「あれ!このアームレット見覚えある。
どこで見たっけ?」
頭痛い。なんだこれ。
気持ち悪い。
あの時と同じ頭痛だ。
「痛たた」
<<どうしたのハル?>>
「急に頭が痛くなった。
痛い。痛い。痛たた」
<<え、え。どうしよう、どうしよう>>
ヤバい、めまいもする。
<<死んじゃう。ハルが死んじゃう>>
「大げさだよ。
ちょっと横になれば治るから」
<<大丈夫じゃないよ。病院行こう。病院>>
♪ドッサ。
オレはベッドに寄りかかる状態で
どうやら倒れた。
最近の疲れがたまってたか。
<<ハル?ハル?
あぁ、ハルが死んじゃう。
誰か!誰か来て!助けて!>>
聞こえてるよ。
そんな大声出さなくても病院行くから。
ちょっとだけ休ませて。
ノノンはオレの携帯画面を操作してる。
何してる?
触れないだろうに、面白いなお前。
どうした?ノノン泣くなよ。
<<あぁ。救急車が呼べない。
ハルが死んじゃうよぉ。
神様。ハルを助けてください>>
神様ってお前の父じゃないのか?
今度会わせてくれよ。神に会いたい。
はぁ、はぁ。
はぁ、はぁ。
疲れた。ちょっと寝かせて。
・・・
<<ハルぅ~~。ハルぅ~~>>
ん?近くで女の子が叫んでる。
その呼びかけでオレは驚いて飛び起きる。
<<あぁ、生きてる。
生きてたよぉ。良かったぁ>>
ここはどこ?見覚えがない。
知らない子が、泣きながらオレに話しかけてる。
一体どいう状況?
この部屋で寝てたってことだよな。
「すみません。変なこと聞きますけど。
ここはどこですかね?」
<<ハルの部屋でしょ!>>
ハル?だれ?
「あぁ!お兄さんの部屋?」




