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(032) 惨敗な月曜日

 ◇◇◇ 品川駅前広場 ◇◇◇


演奏終了後。

酔っ払いのオヤジに絡まれだした。

もう、最悪。


知らん歌を演奏しろと無茶ブリの要求。

そこでオレが、止めに入ったが。


オヤジはその場で歌い出し、

別の意味で注目さてる。


「すみません。

 邪魔なんで、下がってくれます?」


オレはちょっと強めの口調で伝るも。


「小僧!()っ込んでろ。

 お嬢ちゃんに歌教えてるんだ」


<<ちょっと!失礼です>>


オヤジはオレなど眼中にない。

篠崎さんしか目に入ってない。

ますますムカつく。


「な?聴いたことあるじゃろう?」

「ごめんなさい。ないです」


困ってるじゃないか。

くっそ。オレが守らないと。


「リクエストは受け付けていません。

 元の位置まで下がってください」

<<ハル、男らしい>>


「小僧には関係ない」

<<小僧、小僧、言わないで!>>


「関係あります。協力者なので。

 邪魔しないでください」


絶対に引かないぞ。


「お嬢ちゃん、演歌なら何でもええよ」


聞いてねぇ。オレを無視すんな。


「ごめんなさい。

 今日はもう終わりなんです」


<<えぇ、早くない?>>


なるほど、そう来たか。

とりあえず、撤収したふりをして

別の場所へ移動する作戦ね。

了解。


「ですです。

 片付けしますんで下がってください」

「もう終わりかい!?」


やっとオヤジも冷静になったか。


「明日は()んのか?」

「来ません」


ここはハッキリと言ってやらないとな。

おそらく覚えてないだろうけど。


その後も、オヤジは引かず絡んで来たが、

我々は無視して早々にこの場を離れたのである。


「次はどの辺でやります?

 酔っ払いに見つかるとあれなんで、

 ちょっと離れた方が良さげですよね?」

「今日は満足しました。帰りましょう」


あれ!本当に止めちゃうの?


「早くないすか?

 酔っ払いがいなければ人が集まりますよ」

「ごめんね。

 遅くなるって言っておきながら

 こんなに早く終わらせちゃって」


モチベーションが下がったか。

残念だ。もっと聞きたかったのに。

オーディエンスが少なかったのは演奏じゃない。

フォローしないと。


「しょうがないですよ。

 酔っ払いが居たんだから。

 運が悪かったです。

 演奏は凄く良かったですよ」

「本当に思ってます?」


「思ってます。思ってます。

 もっと聴きたかったです」


ノノンもうなずいてる。

だよな?


「ありがとう。

 気を遣わせてちゃって。

 落ち込んでませんから」


どう見ても落ち込んでますよ。

オレの本心なんだけど。

励ましに聞こえてたか?


「人が集まんなかったのを気にしてるなら

 全てオッサンのせいだよ。

 あのオッサンが居たから

 みんな素通りしたんだと思うよ」


<<ノノンもそう思う>>

だよな?


「細倉くんは優しいよね」

<<そうなの。ハルは世界一番優しい>>


「お世辞抜きに演奏良かったです。

 ほんと。プロかと思った。

 だから別の場所でリベンジしませんか?」

「ありがとう」


篠崎さんの決意は固く

オレ達は公園を後にした。


 ◇◇◇ 住宅地 ◇◇◇


オレ達は学校からの道のりを戻りながら歩いてる。

篠崎さんは、演奏後も終始笑顔でいるものの

心は泣いている。

会話からそれが伝わる。


オレのオーバーリアクションで

励ますすもりが逆の意味に捕らえられた

可能性がある。

弁明しておかないと。


「ごめん、感想がわざとらしかったでしたね」

「謝らないでください。

 人を集められなかったのは事実ですし、

 それは私の力不足です」

「信じてください。

 少なくともオレは感動した」

<<ノノンもだよ>>


なぁ、良かったよなぁ。


「細倉くんはほんと優しいですよね」

「だから励まそうとしてるんじゃなくて」


「ありがとう。

 今の言葉で元気もらいました」

「本当に?」


篠崎さんは首を縦に振ってるが嘘だ。

オレの応援が更に落ち込ませてる。


オレは、なぜピアノがそんなにうまいのか

興味本位で聴いてみた。

なんと小3からピアノを習い始めたそうだ。

それからほぼ毎日練習してらしい。

8年程続けてることになる。

そりゃうまい訳だ。


毎年コンクールで全国大会を目指してるが、

都大会止まりで先に進めないんだとか。

全国大会行く連中はどんな腕前なのか

聞いてみたい。


ここ半年間はスランプだったそうで、

ピアノが楽しくなくなっていたという。

そこで、一般の反応を見ようと始めたのが

ストリートピアノという経緯だそうだ。


オーディエンスの反応見て何かを掴もうと

思ったらしいが、現実は厳しかった。

そもそも聞いてくれない。

前回も同様だったらしい。

不思議だ。

下手ではないのになぜ集まらない。


「今回の件で身に沁みました。

 テクニックよりも魅力が無いのだと。

 これなら音大に行く意味がないですよね。

 一般受験にします」


これは、オレに音大を諦めないよう

引き留めて欲しいのか、

それとも一般受験を後押しして欲しいのか。

どっち?

初対面のオレに、ここまで心情を吐露したんだ。

絶対に何かの助言を期待してるはず。


どう答えるべきが難しい。

確かに、多くの人に聞いてもらえないのなら

プロになっても意味がない。

そもそも魅力がないならプロにはなれない。

しかもだ。

音大に行ったら全国大会の強者どもが集結し

埋もれることになるだろう。

プロになる前に挫折しそうだ。


音大はおすすめできないと言うべきか。

だが、そんな大事な事を今回の件で

判断していいのか。


人の人生だ。

オレがとやかく言う資格はない。

自分が決断するべきと断言できる。


もしオレの助言を聞き入れて

後悔したら取返しが付かなくなる。

絶対にああしておけばよかったとなるのだから。


こんな時、どうアドバイスしたらいい?


小さいときからピアノして、

ここで諦めるのももったいない。


「ピアノコンクールはもうないの?」

「来月あります。一応エントリーしてあるけど

 出場するのは止めようと思ってたところ」


「じゃあさ、その結果で進路を決めようよ」

「結果が見えてるのにコンクール出るの?

 きっとピアノ嫌いになると思うよ」


「出ないつもりなんでしょ?

 だったらさぁ。

 高校3年の思い出として出ようよ。

 技術を高めるとかでなく。

 全国目指すでもなく。

 単純にピアノを楽しむために。ね?

 そして撮影も、もう1回やりません?」


後味の悪いまま辞めたくない。

せめてストリートピアノだけはリベンジしたい。


「全力で、お手伝いします」


<<ハルの言う通りだよ。

 高校最後の思い出になるんだからさ

 進路とか深く考えずに出ちゃいなさいよ>>


ありがとう、ノノン。

自分の言葉に自信が持てたよ。

そして、1つだけ分かったことがある。


「今日だって楽しかったんでしょ?

 じゃなかったらあんな演奏できやしない。

 正直、オレには技術的にうまいか

 どうかなんてわからない。

 だけど、オレは感動したんだ。本当に。

 演奏を聞いて、今日来てよかったと心から思ってる。

 多くの人に聞いて欲しい衝動にかられた。

 篠崎さんの思いはちゃんと音で伝わってたよ。

 これだけは間違いない」


はぁ、はぁ、頼む伝わってくれ。

励ましでなく、本心だということを。


あれ?

篠崎さん、泣いてますぅ?


「わかりました。

 コンクールに出るかは約束できないけど。

 もう一度、人前で弾きたい」


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