(030) 路上ライブします②
◇◇◇ 住宅街 ◇◇◇
学校帰りに、オレと篠崎さんの2人は
ストリートピアノをするために
品川駅へと向かっているところ。
「重くないですか?」
オレが電子キーボードを背負っている姿に
対する質問だ。
それは篠崎さんが自宅から持参してきた物である。
「見た目より軽いですよ。これ」
重くはないが歩き辛い。
よくまぁ、こんなものを学校に持って来たものだ。
でもあれだな。
ギターとかトランペットを背負ってる
JKってカッコいいよね。
このキーボードも篠崎さんが背負った方が
ビジュアル的にいいかも。
<<ノノンも手伝う>>
はいはい。
ノノンは宙に浮いたままキーボードの
上の部分を掴んでくれてる。
ノノンさん?
あなた、物に触れられないでしょ?
やることがイチイチ可愛いんだよな。
「これだったら駅まで運べます。
もし疲れたら交代、お願いします」
「男子よね。疲れたらほんと言ってね」
アピール成功。好感度が上昇。
<<この子、腹黒だわ。
ねぇハル!この子、腹黒だよ>>
2度も言わんでいい。
腹黒でもなんでもいいよ。
オレが運びたいんだ。可愛いって得だな。
品川駅までのお散歩デート。
5分と会話が続かないものと思ってたけど
意外とトークが弾んでる。
オレ、レベルアップしてないか?
女子との会話が、ここ2、3日で急激に
増えたもんな。
オレは今まで何に怯えてたというのだ。
こうして、いろいろな子と会話してみて
感じたが、カイと会話してるのと
たいして変わりはない。
オレ、最近幸せすぎじゃね?
良いこともあれば悪いこともある。
もしかして、ここでトラックに引かれて
異世界へ転生するかも。
まぁ、それも悪くないか。
などと悩んでるうちに目的地である
品川駅に到着。
30分なんてあっと言う間だな。
もっと篠崎さんと会話したかった。
もう一回学校戻って、ここ来ません?
◇◇◇ 品川駅前広場 ◇◇◇
時刻は16時半。
我々は駅前広場へと到着した。
この時間帯でも人通りは多く、
大半はサラリーマン達が行き来きしてる。
既に路上ライブしてるグループがいた。
この人達は朝からライブしてるのか?
幸いにも人通りが多く邪魔にならない
場所がキープ。
篠崎さんは到着早々に『着替えて来る』
と言って、どこかに行ってしまった。
取り残されたオレは、どうすればいいの?
とりあえず準備をすることに。
といってもキーボードに足を取り付けること
くらいしか、やることはない。
<<屋台ないのかなぁ?かき氷食べたい>>
「ある訳ねぇだろう。
買ったところで食えんのかよ」
ノノンと2人だと、つい突っ込みたくなる。
ノノンは面白い。一緒に居てあきない。
<<食べれるに決まってるでしょ。
天使だもん>>
「意味分からん」
周辺のライブを見てると自分も熱くなってくる。
今まで気にも留めてなかったけど、
路上ライブっていいな。
オレもやりたくなって来た。
ピアノって難しいのか?
1曲弾けるようになるには何時間かかるのだろう。
<<ハル?何か弾いてよ>>
「鍵盤に触れたこともないわ」
<<適当に弾いてみたら?
意外と名曲が生まれるかもよ>>
「勝手に触っちゃダメだって。
篠崎さんに怒られる」
<<音が出るか確認するくらいいでしょ
どんな音色か聞きたい>>
ノノンとそんなやり取りをしてたら
篠崎さんが戻って来た。
「ごめんなさい。任せちゃって」
<<もう着替えて来たの。早くない?>>
彼女はロング丈のワンピース姿で現れた。
清楚なお姉さんって感じの印象だ。
化粧してるのか?
とても同級生とは思えない。
制服姿もいいけど、私服もいいぞ。
くー。オレはホントついてる。
「どうしましょう。
もう始めちゃいますか?」
「10分くらい練習させて。」
「どうぞ、どうぞ。
その間、撮る位置を決めますので
ちょうどいいです」
♪デュルデュルデュルデュル
音が軽やかに鳴り始める。
へぇ、うまいもんだな。
指が動くこと動くこと。
すげぇなぁ。この人、プロなの?
見入っちゃう。カッコいい。
5分くらい経っただろうか。
「もういいです。始めていい?」
どうやら練習が終わったようだ。
時間帯的にも、人が増えつつあるので
聞いてもらうにはちょうどいいかも。
オレは篠崎さんの斜め前に位置取りして
篠崎さんとギャラリーがフレームに
収まるような角度とサイズを調整する。
そして、録画を開始。
「もう、撮ってるんでいいですよ」
♪ツッツ、ツッツ~
篠崎さんの演奏が始まった。
<<ピアノ上手ね。何の曲か知ってる?>>
「知らんわ」
やべぇ。動画にオレの音声入っちまった。
演奏始まって『知らん』とか口走ってるし。
言い訳考えておかないと。
しかし、演奏うまいなぁ。
知らない曲だけど、演奏技術が高い事は
素人のオレも分かる。
まるで音声データを再生しているかのようだ。
技術もそうだけどトータルでメッチャカッコいい。
こんなん見せられたら惚れちまう。
オレ、誰にでも惚れるな。
やはりオレは、女だったら誰でもいいのかも。




