(029) 路上ライブします①
◇◇◇ 教室 ◇◇◇
夕方のホームルームが終わり、
重い足取りでオレは3年A組へと向かう。
知らない人を紹介されるからだ。
なんとも気が思い。
つうか金沢さんの彼氏って説がある。
しかも、そいつと2人っきりで撮影だとさ。
怖い人だったらどうしよう。
罰ゲームだぜ。
「行きたくねぇ」
<<ダメだよ。約束破っちゃ>>
こういう時は常識人なんだな。
「約束忘れたふりして帰っちうか」
<<帰るなら断わってからにしたら>>
オレの母親かよ。
「今更断る方がハードルが高い」
<<どうして引き受けちゃうの>>
「しょうがないだろう」
オレのクラスはB組。金沢さんはA組。
隣のようで教室が少し離れている。
だからと言ってメチャメチャ遠い訳でもない。
断わる方法を模索してたら到着してしまった。
恐る恐る教室の中を見渡すと。
「細倉くん!こっちこっち」
直ぐ発見されてしまった。
トホホ。
心のどこかでは見つけて欲しくなかったんだが。
オレは右腕を上げて返す。
そして教室の中へと足を踏み入れる。
「忙しいところありがとう」
「今日、宜しくお願い致します」
隣の女性はだれ?
<<あらスレンダーな人ね>>
「こちらが今日の依頼者。篠崎さん」
「はぁ、よろしくお願い致します」
なんだよ女子じゃねぇかぁ。
だれだ?彼氏だって言ったやつは。
あれ、オレが勝手に思い込んだだけか。
もしかして、この人と2人きっり?
やべぇ、逆の意味で緊張してきた。
「どこで撮るんですか?校庭とか?」
2人に問い掛ける。
「外だよね?」
金沢さんは篠崎さんに確認。
「そうそう。
品川駅で撮りたいなぁって。
夕方まで時間ありますか?」
<<ハル!断るチャンスよ>>
ノノンの言う通りだ。この子はヤバい。
オレの女子アレルギーが警告を鳴らしてる。
絶対、5分と間が持たないぞ。
「もしかして用事ありました?」
<<あります。あります>>
「特には。いいですよ」
<<なんでよ?>>
どうして断れないのだろう。
「駅で何撮るんですか?」
「ごめんなさい。
伝えてなかったわね」
篠崎さんがピアノ弾いてるところを
撮影して欲しいとのこと。
「イベントとか、何かですか?」
「違うの。
駅前の広場で勝手に演奏するの。
ストリートピアノってやつです。
ご存じありませんか?」
あぁ。見たことある。
「駅前で歌ってたりダンスしたりしてる人、
いますね」
「それそれ。
私が演奏してるところの反応を
見たいと思ってまして。」
「youtuberなの?」
「違うの」
「ユーチューバーという訳ではありません。
演奏の反応が見たくて投稿してるんです。
撮影お願いできますか?」
女子に頼まれては断れない。
「撮るだけですよね?
なら全然問題ありません」
「良かった」
<<あれぇ!
随分やる気満々じゃありあせん?
女の子だからでしょ?>>
そうりゃそうだよ。
こんな子に頼まれて断れる奴が
いたら教えてくれ。
「ストリートピアノする人って
身近に居たんですね。
遅くなりそうですし早く行きましょうか」
商談成立ということで
金沢さんに『よろしくお願いします』と
頭を下げられたのである。
これで遊びではなく、まじめにやる
必要が出て来たということだ。
「ちなみに、撮影する機材は
オレ1人で持ち運べますか?」
金沢さんの話によると機材はなく、
オレの携帯で撮ったものでいいとのこと。
撮影というから映画のような本格的なのを
想像してたけれどどうやら違ってたらしい。
撮った動画はLineで金沢さんに共有すれば、
オレのお役目は終わりだという。
なんだ簡単な依頼じゃねぇか。
この話しの流れで、オレは金沢さんと
篠崎さんのLineアカウントをゲット。
アカウントって、こんなにあっさりと
入手できるんだな。
拍子抜けだぜ。
オレが勝手にハードル上げてただけか。
フレンド登録は、アイミーに引き続き
金沢さんと篠崎さんが加わった。
この3人とつながってるってヤバくないか。
ここまで来たら堀北さんもゲットして
コンプリートさせたい。
更には、金沢さんと篠崎さんのグループLine
までが出来てしまった。
まるで学生みたいじゃん。
オレが一般社会と掛け離れてるのか?
グループLineの目的は、動画共有すると
連絡のためなんだとさ。
カイのやつ来ればよかったのにバカだなぁ。
◇◇◇ 住宅街 ◇◇◇
学校帰りに女子と並んで下校。
男子高校生が憧れるシチュエーションである。
それを今、オレは体感している。
この人、腕も足も細い。
背があればモデルになれるのではなかろうか。
前後の野郎どもめ!
オレを見て悔しがれ。
彼女じゃないけどな。
この子と並んで歩けてるってだけで優越感に浸れる。
クー、これがリア充ってやつか?
デートではないにしろ、こんな美人と
会話しながらの下校だなんて凄すぎる。
オレはついている。
宇宙一のラッキーボーイじゃね?
堀北さん、金沢さん、篠崎さん。
特徴は異なるけどみんな可愛い。
もしかして、オレは女なら誰でもいいのか?
もう可愛いの定義が分からん。
<<品川駅ってど辺にあるの?>>
「近いよ。30分歩けば着く」
ノノンと気付かれぬよう小声で会話。
いつのまにか人が居てもノノンと会話
できるようになっていた。
<<路上で演奏して怒られないの?>>
確かに。ノノンの意見に一理ある。
「今更だけど駅前で演奏して、
警察に捕かまったりしない?」
「みんなやってるから大丈夫。
もし注意されたら即撤退すればいいよ」
「なるほど。」
イヤイヤ。OKでないだろう?
「制服だと学校特定されるんじゃ。
学校側にもバレんじゃない?」
「着替え持って来たから平気」
笑顔で言われてもな。
そういう問題?
「オレ、持って来ていないよ」
「フフフ、細倉くんは映らないし、
観客だから大丈夫よ」
「ですよねぇ。ハハハ」
待て待て。
撮影してんだから同じグループだって
バレバレですよ。
だんだん不安になって来た。




